第2話 少年と異変

 そのリッチは、アンラ=マンユと大昔呼ばれていた。

 魔導を極めるため、時間を求め。自分の体に魂を固定をした。

 やがて、肉体の寿命を迎えたが、死ぬことがなく研究を続けた。


「無理なものは無理か。理による制限がかかる」

 そうつぶやくと、地下の穴蔵で見えない空を仰ぐ……


「無能な神めぇ」

 そう、研究の結果。世界には制限がかかっていることを理解する。彼はそこまで行き着いてしまった。


 背後では、彼にいじられて原形のなくなったモンスターが、餌が欲しいとねだっている。

 詠唱サポート用のモンスター。

 多重詠唱用に彼女を創った。だがその後に、詠唱サポートなど無駄だと理解をした。


 ただ言葉を言っても、魔法は発動しない。

 その言葉と共に、仕組みと流れを考え、魔素を変化させる事により物理現象を発生させる。

 詠唱は効率的に魔法技術を伝える為に、誰かが編みだした物なのだろう。

 つまり重要なのは、言葉と共に関連付けた考え。つまり意識こそが、魔素を変化させる行為。


 それを理解したのは、随分昔の話し。

 自分と同じように、魂を定着して、肉体の崩壊を窃取することで防ぐ生物。絶えず何かを食べないと、こいつは死んでしまう。

 元は、ナターリヤとかいう少女だったが、名残はない。


 必要が無くなったと、殺すのもなんとなく忍びなくて、ペットとして二千年? 位は飼っている。


 かれが、捕まえていたゴブリンを与えると、嬉しそうに食らいつく。

「よしよし」


 そして、彼は考える。

 これから先を求めれば、神となり世界の理を変える必要がある。

 だが、そう。すべてを知り、情熱が尽きてしまった気がする。

 理を変えるなら、何でもできてしまう…… それはつまらないこと。


 あるものが欲しくて、金を貯める。

 だが、その間に時代が変わり、価値は下がり、簡単に作れるようになれば、その時得られる高揚感は、初期のそれとは違う。


 そう、五十年も昔。

 高価な魔導具が開発されて、それが欲しくて、金貨数十枚もの金を貯めた。

 時代が流れ、気が付けば銀貨数枚でそれを超える性能の物が売られている絶望感。

 それはそれで便利だが、あの時代のワクワクとは違う。

 

 まあ、それはさておき。

 かれはふと。普通の暮らしをしてみたくなった。

 遠い昔、研究の為に、捨ててしまったもの。


 ペットのナターリヤに、近くの村で亡くなった年頃の子供を見つけ体を与える。自分の物では無いが、人間に戻した。


 記憶も移植して、今は普通に少女として、振るまいが出来るようになった。

「主様も、体を見つけられるのですよね」

 そう言って、はにかむ少女。

 体を戻してから、なぜか子をなしたいと望み始めた。


「そうだ。死んだばかりだと、後が楽なのだが」

 そう言いながら、空間に穴を開けて、方々を探す。


 そして見つけた。

 モンスターにやられて、丁度死にかかっている。


 体を治すのは難しくは無いが、その途中で気がつく。

「うーん。妙な空間干渉がある。ここは異世界か?」

 そう思いながらも、開いた穴を空間に留めながら、自分の力と能力。そして記憶を移動させ、魂を移動させようとしたが、世界を魂が渡るのは神の設けた禁忌に触れる。


「むっ。こざかしい」

 だがその障壁は、どうやっても彼自身の移動を拒む。

 その内に、能力の大部分を移動した為に、魔力が尽きる。


「ぬおっ。今閉じるとまずい。ああっ」

 思いと裏腹に、穴が閉じてしまった。

 大部分の能力と、力を彼に渡してしまった状態で……


 かれは今。最弱のリッチといえる状態で、絶望を感じる……

 覇気の無くなった体。

 隣にいる、ナターリヤの方が、圧倒的に強い。


「なんということだ……」

 そして、悲劇は起こる。

 アンラ=マンユが、彼女に施した術式。使役する為の繋がり。

 それが、供給魔力が途切れた為にはじけた。


 同時にナターリヤに施していた、記憶封じまでも。

 従者として使うには、不必要なもの。

 それらが、すべてはじけて、彼女は解放される。


 彼女からは、仕える主人。憧れにも似た目がずっと向けられていた。それが、いきなり変わった……


「いやあああぁ」

 そう叫んだ彼女は、瞬時に術を構築し、さっきまでの元主に向かって、白い光が混じった雷撃を、躊躇無く喰らわせる。

 白い光は、対魔の聖魔法。


 彼の弱った体は、術に耐えられず。蒸発をしてしまう。

「まあ。いいか……」

 そんな言葉を残し、彼は死に、魂は静かに輪廻の輪へと戻っていった。


 その後彼女は、ダンジョンから出てうろついている所を、村人に救われる。

 亡くなった娘にそっくりな彼女は、ある夫婦に暖かく迎えられる。その後、王国でも有名な、魔法使いへと成り上がっていく事になる。



 そして、穴のこちらで、力を貰った彼。

 コンラート王国にある、ドラゴンダンジョン脇には、親のいない子供達が集まるスラムがあった。

 彼らは日々ダンジョンに入り、素材を持ち帰り、それを売って暮らしていた。

 無論それは、ひどく買いたたかれた金額だが、何とか暮らしていける。

 

「多分俺には、スキルがある。『判定の儀』で貴族になる」

 多くの子供達は、それを口にする。

「七歳になれば……」「十二歳までに、なんとかすれば……」

 その願いは、この生活から抜け出るための最善の一手。


 スキルが無く、抜け出られない者達は、探索者になるかダンジョンポーターか。

 スキル無し。その未来は、明るいものでは無い。


「つまんないことを言っていないで、行くぞ」

 スキル無しがした先輩に連れられて、今日もダンジョンに潜って行った。


 いつもの様に……

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