春に恋を歌う

ねるもち‪🌱‬

春に恋を歌う

 私、柳 楓歌は歌うことが好きだ。


 歌っていると心が落ち着いて普段言えないようなことでも歌うと感情をのせて歌える、だから私は歌うことが好きだ。そう、理由はそれだけだった。はずなのに、君に出会い私の日常は変わっていった。


 今日の天気は晴れ。ぽかぽかと暖かな陽気が漂う中、私は屋上に居た。

「今日は何を歌おうか、。」

いつも歌う曲はその日の気分で決めているが今日はどうにも浮かばない、。あれを歌いたいとかこれを歌いたいがあるはずなのに何一つ浮かばない。歌わないと言う手もあるけれども、それは嫌だ。歌わないと私は落ち着かなくなる。

 「昨日と同じものを歌おうかな、。昨日は確か”雪”を歌ったんだっけ。」

私は歌う以外にも自分で作曲を作ることもある。でも素人だからうまいかと言われれば微妙な気がする。なんせ私が作曲した曲の大半は思ったことをそのまま歌詞にしただけのもの、ポエムじみた恥ずかしいもの。


 ガチャ


歌っていると屋上の扉が開いた。ここに誰かが来るのは珍しかった。私は歌うのをやめて壁の後ろに身を隠すことにした。

正直誰かに歌っているところを見られるのは気恥ずかしいからだ。

扉を開け入ってきたのは確か同じクラスの白岬 真琴だったはず。彼は俗に言う不良というやつでよく先生に注意されているのを見かける。それに目つきも鋭くて髪もぎらぎらした金髪、ピアスもばちばちだから誰も彼と話そうとはしない。

そんな彼がどうしてここに来たんだろう。私が知る必要もないけど、でもなぜか気になってしまう。


「おい、そこに居るんだろ。隠れてないで出てきたらどうだ。」

「……ど、どうも?」

 隠れていたけど意味がなかったらしい。出てきたら、なんて言われたら隠れ続けるのは難しい。

それで出てきたはいいけどもずっと無言で見られてる。なにかしてしまったのだろうか。心当たりがなさすぎて怖いだけのこの時間。耐え難い、。

「あ、あの!私、用事があるので帰りますね!!」

この空間が嫌すぎて本当は用事なんてないけど嘘をついてこの場から逃げようと思った、のだが返事はない。ただ無言で好きにしろと言わんばかりに私を見てきた。だから私はそそくさと彼の横を通り過ぎ、昇降口へと急いだ。


 翌日、私はまた屋上に行った。するとなぜか彼も居て壁によりかかり寝ていた。

さすがに起こすわけにもいかないし、起こさないようにして帰ろうかな。でも歌いたいし、。

「おい、なにしてんだ?」

なんて私がもんもんと考えているとうるさかったのだろうか、彼が起きてしまった。身体が強張っていくのがわかる。彼に睨まれるとヘビに睨まれたカエルの気持ちになってしまう。決して彼になにかされたというわけでもないけど、彼にはどこか威圧的な何かを感じてしまう。目つきのせいだろうか、怖いです、圧がすごいです。

「え、えっと、その、お邪魔しましたっっっ!!」

「は?」

昨日と同じように逃げようとするとドスの利いた声が聞こえた。もしかして何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。おどおどとしているとため息をつかれ更に怖くなってしまった。

「あの、何か気に障るようなこと言いましたでしょうか、?」

「……。」

理由が分からず聞いては見たもののこれこそ気に障ってしまうものだったのだろうか。無言で見つめられる。

「今日は、歌わないのか?」

「え?」

口を開いたかと思ったら突拍子もない事を言われ戸惑う。まさか、昨日歌っていたところを聞かれた?そんなはずはない。屋上の扉は分厚い、だからそんなに聞こえないはずなのにおかしい。

ただただ私は困惑する他なくその場で立ち尽くしていると、彼はまた私を見る。

 「……歌ってもいいのでしょうか?」

彼の了承を得られるのなら歌ってもいい、そんな気がした私はそう聞いてみた。すると彼はいいと言わんばかりに頷いてくれた。

 了承は得た、けれどもはたして人前でも普段通りに歌えるだろうか。否、分からない。なんせ私は一人で歌うことのほうが多く人前で歌ったことがない。それに私の歌は誰かに聞かせられるほど上手くもない。そう考えるとこの判断は間違っていたのかもしれない。しかし、了承を得てしまった手前歌わないというのもなかなか失礼な気がしてそれもできない。

 私はほんの少しのためらいをもちつつも意を決して歌うことに決めた。それでもやっぱりためらいが消えてないからか、緊張してしまう。さて何を歌おうか、今の季節は春。なら、”花びら”でも歌おうかな。桜の花びらが舞う季節に書いた曲。


「その曲、自分で考えたのか?」

「へ?まぁ、はい、そうですね?」

一通り歌い終わったあと言われた一言。確かにこの曲は私が考えた曲だけども、そこを気にされるとは思いもよらなかったのだ。だから私はまた困惑してしまった。

(なんだか今日は彼に対して驚いたり戸惑ってばかりだな。)

なんて思いつつも彼の様子を伺うも特に何かをいうでもなくただ空を見上げていた。

「俺さ、曲を作るのが好きなんだ。」

不意に彼はそうこぼした。それは私の知らない彼の話。

彼いわく、作詞をするというより作曲をすることが好きでよく家で作っているらしい。

「でもある時からうまくいかなくてつまずいてたんだ。そんな気分を晴らそうと思って屋上に行ったら、そこにはあんたが居た。」


その時聞こえた声に俺は惚れて毎日屋上の扉の前で聞いていた。


「それで毎日聞いているうちに”この人に俺の作った曲を歌ってもらいたい。”そう思うようになって、声をかけようとしたんだけどさ。俺こんな見た目だから、。」

人と話すことがほとんどなくて、あんな感じになったんだ。と、どこか寂しそうに笑った彼にどうしても目が離せなかった。


(もしかしたら私は彼を誤解していたのかもしれない、そんな気がしてきた。)

彼の話を聞いていくうちに本当の彼と私の思う彼は別人だった。本来の彼は心優しく自分の好きに真っ直ぐで、そんな人だった。


 その日から私と彼は屋上で話すようになった。私は彼の曲を歌い、彼hそれを聞くそんな日々が続いていた。私はその時間が好きで楽しいと思った。


 今日も私は屋上に行った。歌うためでもあるが、彼と話したいからだ。胸が踊る気持ちを抑えながら屋上の扉を開けようとした時だった。誰かの声が聞こえてくる。

誰だろうと思い扉を開けるとそこに居たのは見知らぬ女の子と彼だった。女の子は頬を赤らめている、もしかして告白でもするのだろうか。なんでだろう……

     このまま聞いていたくない。

そう思ってしまう。ズキズキと胸が痛む中、私はその場で立ち竦むことしかできなかった。逃げることは簡単なはず、なのに脚が動いてくれない。彼が付き合うということはいいことのはずなのに、嫌だと思ってしまう。もし彼が付き合ってしまったらもうこの時間がなくなってしまうのだろうか、そんなのは嫌だった。この時点で私は気付いてしまった、彼に向ける感情は友情なんかではない、私は彼を…

「好きだったんだ……。」

 ずっとここで立ち聞きするのも心苦しいので私は帰ろうと昇降口まで歩くことにした。告白が成功したかは分からない、もし成功して晴れて恋仲となってしまったらきっと彼はもう屋上には来てくれないだろう。

「失恋しちゃったのかなぁ……。」

なんてぼやきながら靴を履き、帰ろうとしたときだった。不意に誰かに腕を引かれた。

「今日は来てくれないのか、?」

ああ、この声を私は知ってる。後ろを向けば彼が立っていた。走ってきたのだろう、少し汗ばんでいる。私のために走ってきてくれた気がして嬉しく思った。だけど、さっきの光景を思い出すと素直になれなくて素っ気なくなってしまう。

「……お邪魔かと思って。」

「邪魔?…さっきの見てたのか?」

私は黙って頷く。彼はそれを見てうーんと唸ったあとゆっくり口を開いた。

「その、なんだ、告白は断った。それに…」


 俺が好きなのは柳だから。


え?彼は今なんて言ったのだろうか。私が好き?つまり、これはその…

両思いと言ううやつなのだ。

「ごめん、こんな風に伝えることになって。でも誤解されたくなくて…悪い、嫌だったよな、。今日はもう帰ろっか。」

そう謝り、帰ろうとする彼の腕を今度は私が引いた。言わなきゃ、私も伝えなきゃ。


 私も白岬が好き。


彼は目を見開き驚いたあと、ふはっと笑った。

その笑顔を私は忘れないと思う。


 だって彼の笑顔は春に歌ったどの曲より暖かく、素敵だからーーーー

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春に恋を歌う ねるもち‪🌱‬ @nerumoti_18

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