第5話
数日が過ぎ、体育祭の日になる──体育祭はクラス対抗で俺達のクラスは運動神経が良いやつが多いのもあって順調に勝ち進んでいった。
次はいよいよ二人三脚となる。ここで一位になれば、優勝は目前。でも最下位になってしまえば後は最後のリレーの結果次第になってしまう。そんないやらしい状況だ。
「今川君。ピストルが鳴ったら、練習通り内側からいくよ」
「うん」
さっきまでいっぱい練習をしたから大丈夫と落ち着いていたけど、いざスタート位置につくと、手に汗が滲む程、緊張してくる。
実行委員の男の子が、「位置について……よーい──」と言いながら、スターターピストルを持ち上げ……パンッ! と鳴らす。
横に並ぶ別のクラスの男女たちが一斉にスタートをする中、俺は気持ちばかりが焦り、サッちゃんと一歩を合わせられず、バランスを崩してしまう。
グッとサッちゃんが支えてくれたお蔭で、転倒は免れたが、少し出遅れてしまった。あたふたしながらも、俺は何とか態勢を整えようと試みる。
「──今川君、焦らなくても大丈夫だから」
「う、うん」
心配したサッちゃんがそう言ってくれるが、練習のときの様に上手くはいかず、スピードが出ない。
「アッ君! 私は昔と変わってないよ? アッ君もあの時から変わってないでしょ?」
突然のサッちゃんの言葉に俺は驚きながらも昔を思い出す。そういえば……小さい頃の俺達は本当に仲良しで、自然と相手が何を望んでいるのか気を遣わなくても分かっていた気がする。だから初めて二人三脚のマネごとをした時に、掛け声が無くても転ばずに歩けたんだ……。
「うん! サッちゃん、変わってないよ」
俺が返事をするとサッちゃんはニコッと微笑み「じゃあ、ハンデはここまでにしてあげましょう!」
そこから俺達の猛攻が始まり、一クラス……二クラス……と追い抜いていく。その光景が目に入ったのか、慌てて転んでいる生徒もいた。
そして残すは一クラス! 俺達はゴール目前で追いつき……転びそうになるサッちゃんをグッと支えながらも一位でゴールした!!
俺達は両手をパシッ! と合わせ、笑顔を交わす。
「やったね、今川君! 最後、支えてくれて助かったぁ~」
「こちらこそ、助かったよ。田口さん!」
そんな会話をしていると、クラスメイト達が集まってきて、俺達を囲む。俺達は紐を解くタイミングも与えて貰えないまま、もみくちゃにされてしまった。
それからしばらくしてリレーが始まるが……俺達のクラスはビリから二番目の結果となった。それでも俺達は見事、優勝することが出来たのだった!!
もちろん俺達は一時の間だが、ヒーローとヒロインになる事が出来た。
「練習した甲斐があったね」
「そうだね」
俺はそう返事をしたものの、少し引っ掛かっていた。本当にこれは練習の成果だったのかと? そう錯覚するほど、小さい頃の様に互いに名前を呼び合った後の俺達は息がピッタリだったと思う。
※※※
体育祭が終わり、数日が流れる。俺達は大の仲良し! とはならず、前とはそんなに変わらない生活を送っていた。
かといって前の様に疎遠になる程、距離を取っているわけでもなく、たまに一緒に登下校する事もある。友達以上、恋人未満の関係と言ったら良いのだろうか? そんな微妙な関係だ。
そのままで良いのか? いや……正直、サッちゃんを可愛いと思ったあの時から、少しでもサッちゃんと近づきたいと思っている。
でも、サッちゃんは人気者。それに一緒に二人三脚をしたからって、いきなり距離を詰めたら気持ち悪いと思われないか心配で、一歩がなかなか踏み出せない。本当、俺ってビビりだよな。
そう考えながら廊下を歩いていると、キャッキャと騒ぎながら女子達が正面から歩いてくる。
「ねぇねぇ、駅前の喫茶店。最近、カップル限定のパフェを出してるんだって」
「マジ? 量はあるの?」
「うん、2.5人分ぐらいあるみたいよ。しかも今なら500円で良いらしい」
「え、安ッ! だったら男友達を誘ってみようかな」
「ねぇ。別にバレる訳ないもんね」
そ、それだ!! それだったら、誘うことが出来るかも! 俺は用事を済ませると直ぐに教室に戻った──教室に戻るとサッちゃんは一人で、次の授業の準備をしていた。今がチャンスだ。俺は緊張しながらも、ゆっくりとサッちゃんに近づく。
「田口さん」と、声を掛けるとサッちゃんは顔を上げ「どうしたの? 今川君」
「今日の帰りって何か用事ある?」
「用事? 特にないけど……一緒に帰りたいの?」
「うん。それで……駅前の喫茶店に寄って行かない?」
「喫茶店に? どうして?」
「えっと……甘い物が食べたいなぁ……って思ったんだけど、一人じゃ恥ずかしいし、今ならカップル限定パフェが500円で食べられるって言うから、それで……」
「──なるほどね、分かったわ。じゃあ私は今日、掃除当番だから先に校門で待っていて」
「ありがとう!」
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