第6話
言われた通り校門で待っていると、生徒達が次々と帰っていく──。
「今日、魔術師○○の販売日だろ? 本屋寄って行こうぜ」
「あぁ、そうだったな。もちろん行こう」
男子生徒達の会話が聞こえ、いつも読んでいる漫画本の発売日だと気付く。どうしよう……直ぐに読みたい! コンビニでも売ってるし、パフェを食べ終わったら寄ってみようか。
「お待たせ、今川君。行こうか?」
考えている最中に後ろからサッちゃんに声を掛けられ、ビックリした俺はビクッと体を震わせ「あ、うん。行こうか」
──俺達は雑談をしながら駅前の喫茶店に向かった。中に入ると店員さんに「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」と、言われ、目立たない奥の席へと座った。
「えっと、パフェだよね?」
「うん」
女性の店員さんが水を持って来たタイミングで俺は「すみません、このパフェをください」と、メニューを指差して注文する。
「かしこまりました。カップル限定パフェですね!?」
「あ、はい……」
「少々お待ちください」
恥ずかしいから、あえて指差したのに……そう思いながら、にこやかな顔で去っていく若めの店員さんを見送る。チラッとサッちゃんに顔を向けると、サッちゃんは平然とした顔でメニューを戻していた。さすがサッちゃん……慣れてるのか?
「それで、今川君は何故、私を誘ったの?」
「え? 何故って……俺、知っての通り女友達なんて居ないし、田口さんが誘いやすかったのと……田口さんが体育祭の練習に付き合ってくれたから勝てた訳だし、御礼にと思って……」
いきなり何故? なんて聞かれて動揺したが、俺は近づきたいという大事な所だけを隠して本音を伝える。
「ふーん……そっか。じゃあ今日は奢りって事で良いの?」
「うん、そのつもり」
「ありがとう。じゃあ──」
サッちゃんは隣に置いてあった通学鞄を手に取ると、中から何かを取り出そうと手を突っ込む。出てきたのは……今日発売の魔術師〇〇の本だった。
サッちゃんは俺の前に漫画本を差し出すと「はい、どうぞ」
「どうぞって?」
「あげる。体育祭の時に私を支えてくれたでしょ?」
「そんなの良いのに……」
「だったら、奢ってくれなくても良いのに……って言っちゃうよ? そんなの嫌でしょ?」
「──まぁ……そうだね。じゃあ、ありがとう」
「うん」
──俺はサッちゃんから漫画本を受け取ると、自分の通学鞄にしまう。
「ところで、この本いつ買ったの?」
「昼休み」
「昼休みか……」
俺がサッちゃんを誘ったのは御昼前。って事は、サッちゃんは俺が奢ると言い出すって予想して、コンビニとかで買ってきたって事か? もし俺が奢ると言い出さなければどうしていたんだろ?
色々と考え事をしていると、店員さんは見た事もない大きなガラスの器に、零れそうなぐらいフルーツを沢山のせたパフェを持って来て、テーブルの中央に置く。
「お待たせしました。カップル限定パフェ! でございます。ごゆっくりどうぞ」
いや、強調しなくて良いから……楽しんでるな、この店員さん……。
「はい、今川君」と、サッちゃんは言って、スプーンを俺に差し出す。俺は「ありがとう」と、言いながら受け取った。
「凄いね……溶けないうちに早く食べなきゃだね」
「そうだね」
──それから俺達はアイスクリームが溶けて零れ落ちない所まで黙々と食べ続けた。そろそろ大丈夫かと思った俺は、話をしようと口を開く。
「ねぇ、田口さん。聞きたい事があるんだけど……」
「ん? なに?」
「最近の田口さんは割と話しかけてくれる様になったけど、何で同居する前の田口さんはその……俺を避けるかのように素っ気ない態度してたの?」
俺がそう言うと、サッちゃんはスプーンを口でくわえながら、驚いた表情を見せる。目を泳がせると、口からスプーンを外し「う~ん……そうだったっけ?」と、誤魔化す様に言った。
「うん、そうだったよ。同居の話がある前の朝、挨拶は返してくれたけど、避ける様にスタスタと先に行っちゃったじゃない」
「いや~……あれは……」
「あれは?」
サッちゃんは落ち着きたい様で、スプーンを皿の上に乗せると、コップを手に取る。俺はサッちゃんが口を開くまで待つことにした──。
「あれはその……正直に言いますと、誠に勝手ながらわざと嫌われようとしていた行動でして……」
「わざと嫌われようとしていた? 何でそんな事を?」
「だってほら……従妹同士は結婚できないんでしょ? だから今川君が苦手そうな恰好や態度をとって、わざと嫌われてゴニョゴニョ……」
「ちょっと待て、従妹同士は結婚できない?」
「出来ないでしょ?」
「いや、普通にできるよ」
「ふぇぇぇぇ……」
ふぇぇ? なんちゅう可愛い声を出すんだ。
「マジで?」
「マジだって、何でそんな嘘をつかなきゃいけないんだ。スマホがあるんだから調べてみたら?」
俺が提案すると、サッちゃんは急いで鞄から携帯を取り出し、検索を始める。直ぐに答えが出た様で「本当だ……」と、口をあんぐりさせた。
「だろ?」
「え、ちょ、ちょっと待って。じゃあ、この話はこれまでにしよ? ね?」
「いやだよ。わざと嫌われてどうしたかったのか、良く聞こえなかったから続きが知りたい」
「い、言わないよ!」
「あ、そう……今まで悲しかったな……サッちゃんのわざとスンとした態度のせいで俺の心はズタズタだ」
「うぅぅぅ……そう来たか……分かったよ! ちゃんと話すよ! 勘違いでわざと嫌われてアッ君を諦めようとしてたの! どう? これで満足!?」
なんてこった……諦めようとしていた? それってつまり「──俺の事を?」
「えぇ、そうよ。スキだったの! あれだけ仲良く遊んでたんだから仕方ないじゃない」と、サッちゃんは言って、スプーンを手に取ると、焼き食いをするかのように、パフェの底にあるコーンフレークを口いっぱいに頬張り始める。
嬉しくて、心臓がバクバクと高鳴り、今すぐにでも飛び上がりたい気分だ。だけど落ち着け……まだ聞きたい事がある。
「じゃあ何で最近は、スンとした態度をやめたんだ?」
「──何て言うか……開き直った? 恋人同士になれなくても、一緒に住んでれば家族みたいなもんだし、それはそれで良いか……って」
「あー……なるほどな」
サッちゃんは自分の横髪を指でクルクルと巻き始め「こんな事だったら、ちゃんと調べておけば良かった。髪の毛、どうしようかなぁ……」
「そのままで良いんじゃない?」
「え? どうして? こういう派手な色、好きじゃないでしょ?」
「まぁ……昔はそうだったけどね。いまは気にならないし、むしろ魅力的だと思うよ」
「みっ……魅力的!? そ、そんなお世辞を言っても、何も出ないからね!」
パフェの器は顔が隠れるほど大きくはない。だけどサッちゃんは、器で顔を隠す様に姿勢を低くして、チビチビと残りのパフェを食べ始める。
小さい頃のサッちゃんは俺が似たようなことを言っても動じることはなかった。恥ずかしそうにしてるって事は意識してくれているからなんだろうな。そう思うと可愛くて仕方がない。
「大丈夫だよ。俺はもう満足してるからさ」
「満足してる? お腹いっぱいなの? アッ君が頼んだんだから、もうちょっと食べてよね。私、そろそろ限界なんだから」
「はいはい、分かってるって」
本当はそう言う意味じゃなかったんだけどな。まぁ、いっか。
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