パンはパンでも

価格未定

パンはパンでも

「パンはパンでも食べられないパンってなーんだ?」

「フライパン!」

 同級生のそんな他愛のない会話を聞いた、当時少年だったF(仮名)は疑問を抱いた。(フライパンは本当に食べられないのだろうか? 食べられるフライパンは存在しないのか?)

 その日からFは『食べられるフライパン』作りに没頭した。炒めたり揚げたりできるフライパンとしての機能を残しながら、食べることもできるもの。様々な素材を試し、多様な加工を施し、食べられるフライパンを作ろうと悪戦苦闘したが、どれも失敗に終わった。

 しかし、Fは諦めなかった。青年科学者になったFはある日ふと閃く。(フライパンを食べられる人間を作ればいいのではないか?)

 Fは軍属の研究者となり、秘密裏に人体改造を始める。表向きは強靭な肉体を持つ兵士を育成する研究となっていたが、Fはフライパンを食べられる人間を作り上げることだけを目的としていた。鉄のフライパンを噛み砕く強靭な顎、鉄を分解してエネルギーとする特殊な消化機能、フライパンを食べたいと感じるような人格。そういった改造人間を作るため、Fは敵国の捕虜で非道な実験を繰り返した。

 そうした悪事は戦争の終結によって明るみに出る。Fは捕虜を虐待した罪で終身刑となった。収容所での環境は劣悪を窮めた。無論、食事も粗末なものだ。日に日に衰弱していくF。記録によれば、獄死する間際にFはこう呟いたという。

「……パンはパンでも、ろくに食事も食べられないパンは、『戦犯』ってことか……」


End

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