第110話  神様として

「な!?」

「翠お嬢様が消えて……」


「何したの一心!」


翠が忽然と部屋から消え失せた 刹那、一瞬時間が停止したかのような静寂の後に、この部屋唯一の男に非難の目と言葉が集中する。


「確かに、俺に全権があるって言うのは本当みたいだな」


 優月たちの非難の言葉を無視して、俺は空中に浮かんだ仮想ウインドウのを開いて内容を確認しながら独り言ちる。


「お嬢をどこへやったんだ一心! 冗談にしてはやり過ぎだぞ、てめぇ!」


 腕まくりしながら、鼻息荒く珠里がこちらへ近づいて来る。


「俺以外の人間の身体的動作を禁じる」


「な⁉」

「う、動けない……」


 俺に掴みかかって来ようとしていた珠里はもちろん、アヤメを除くすべての女子たちが、自身の意志に反して身体を硬直させる。



「翠は、元の世界に戻した」



「え?」

「地球に戻したって事?」


「そうだよ。俺にはこの部屋の全権がある。その権能で、この部屋を出た先を指定することが出来るんだ」


「じゃ、じゃあ、家に帰れるってことか?」


 神からの理不尽を押し付けられ、それに従うしかない現状を受け入れていた彼女たちに、隠し切れない喜色が浮かび上がる。


「そうだよ。だから何の問題も」

「ウソでしょ、お兄ちゃん」


 兄の俺を真っすぐに見据えている瑠璃の目は鋭かった。


 上がった期待のまま、サッサと終わらせたかったんだけどな……。

 けど、現実はそう上手くは行かないか。


「ウソじゃないよ。ちゃんと元の世界に戻れる。家族にも会えるぞ」

「家族って……そこに、お兄ちゃんはいるの?」



「…………本当に瑠璃は聡いな」

「ちゃんと答えてよ! お兄ちゃん!」


「年子で、歌が上手くて、皆から求められる歌姫で」

「そんな思い出話を今、言わないで! さっきの翠お嬢様の時にも……お兄ちゃんも帰って来るんだよね? そうなんだよね!?」


 瑠璃の叫びを無視しながら、俺は言葉を一方的に紡いでいく。


「自慢の妹だよ、瑠璃は。だから、俺に縛られない生き方をしてくれると、兄としては嬉しい」


「イヤ! そんなの私じゃな」


「じゃあな、瑠璃」


 消えた際に残滓が残る訳でもない何もない空間に、俺は別れの言葉をかける。

 最後まで、独りよがりな兄でごめん。


「次は珠里だな」

「おい、一心……お前」


 先ほどまで殴りかかろうとしていた威勢は吹き飛び、ただただ悲しそうな目をした珠里に向き合う。


「珠里とは、ガキの頃からの付き合いだったな。その癖、2人きりの時には寂しがり屋の甘えん坊で」


「そ、そうだよ……一人っ子の私は、寂しがり屋なんだ……」

「知ってる」


「周りからは強い女と思われてるけど、本当は一心がそばにいないとダメなんだよ!」

「いつもは恥ずかしがるくせに、今日はやけに素直だな」


「なぁ! もう会えないなんて事はないよな!? 私から一心との思い出や記憶を奪ったりしないよな!?」

「今までありがとうな珠里。俺の初めての人」


「待て! 話はまだ終わ」


 話を一方的に打ち切り、珠里を転移させる。

 あのまま話し続けていたら、自分の中の決意が揺らぎそうだったから。


「で、次は私って訳ね」

「優月は随分と落ち着いてるね」


「今までの流れを見てればね」


 正直、取り乱してくれていた方が何倍もやりやすいというのに……。


「一心、貴方は私たちの記憶を消して、元の世界に戻す気?」

「ああ、そうだよ」


 回りくどいことはせず、一直線に核心をつくところが実に優月らしい。


「一人で新世界の神様をやるつもりなの?」

「……優月って、最初に俺にこの部屋の存在を伝えてきたからかな……。俺の感覚では、優月が最初の女の人なんだよね。もう珠里が居ないから言っちゃうけど」


 肉体的な意味での初めては珠里なんだけど、自分がセックスしないと出られない部屋の存在を最初に認識させられたのは、優月に言われたからだろうな。


「あの時は、私の中に確信があったからね」

「教室で俺の事をガン見してきたり、学校の食堂で急にマイ七味の話を振ってきたりしたよね。学校の宝玉シリーズ美人の優月にグイグイ来られて大変だった」


 苦笑いしつつ思い出に浸る。

 もはや、あの頃のドタバタが懐かしい。


「一応聞いておくけど、私だけが残されるっていう展開は……」


「そんなのな無いよ」

「そっか……じゃあ、私じゃないんだ」


 寂しそうに、優月は目を細める。


「いや、落選とかじゃないから」

「でも、いいの。最後の方まで残してもらったから。一心の童貞を奪った白玉さんには勝てたしね」


「元の世界に戻す順番に意味は無かったんだけどな……しかし、これでお別れなのに優月とはこんな感じになっちゃうんだね」


 とても外宇宙を航行する宇宙船の中で繰り広げられている会話とは思えない、気の抜けようだ。


「それでこそ私でしょ? 伊達に3年間、諦めずに虎視眈々と一心の貞操を狙ってないわよ」


 俺の選択に言いたい事なんて山ほどあるだろう。それなのに、それらを全て飲み込んだ上で、ニンマリと笑う優月の裏にある覚悟を前に、俺の方は逆に沈む。


「……やっぱり優月を最後にして良かったかも。じゃあ飛ばすよ」

「あ、最後にこれだけは。私は絶対、向こうに戻っても一心の事忘れないから」


「……忘れるよ。そうするように処置するから」


「ううん。それでも私は忘れない。だって、私から始まったんでしょ? 一心にとっては」

「……はぁ、本当にこういう時に優月はやりにくいな」


 ズバズバこちらの心の内を読んでくるのは、この部屋に一緒にいた時間が長いからか。


「じゃあ、一心に爪痕は残せたのね」

「ああ……しっかりとね」


 っていうか、記憶が無い時から、優月には常に振り回されてたな。


「じゃあね、一心」

「優月の方から言うんだな……。じゃあね」


 まるで、明日また学校でと日常の別れの言葉に釣られて、つい俺もあっさりとした別れになってしまった。


「本当、優月が最後で良かったよ……」


 消えた優月の笑顔の粒子がまだ残っているような気がして、立ち消えた少女がいた場所に言葉をかけてしまう。


 そこまで悲壮感が残らなかったのは、優月の心配りなんだろうか。


「ねぇ、イッ君」


「つくづく、いい女だったよな」


 なんて、この間まで実質童貞な奴が、ハードボイルドにほざいてみる。


「ねぇ、イッ君ってば! 私のこと忘れてるでしょ!」


 涙目になりながら、琥珀姉ぇが抗議の声を上げる。


「あ、ごめん、琥珀姉ぇ。違うよ、忘れてなんてないよ」


 優月と琥珀姉ぇは最後までバチバチだったので、優月が意図的に琥珀姉ぇを無き者として扱ってただけだよ。


「さっきの赤石さんとの別れのくだりでも、2人の世界に浸ってたから、私、邪魔しちゃ悪いと思ってずっと気配消してたんだからね!」


「そういう気遣いできるのが琥珀姉ぇの良いところだよね」

「え、そうかな……」


 こんな時でも素直に照れてしまうのは、琥珀姉ぇの良い所か。


「さて、琥珀姉ぇ。一つ問題があるんだ」

「あ、動ける。拘束を解いてくれたんだ」


「ああ。ちょっと由々しき問題だから、じっくり話さないと」

「由々しき問題って?」


 その場に胡坐をかいた俺の横に、琥珀姉ぇも床に座る。


「俺のセックスしないと出られない部屋の管理者権限は、基本的にはアップグレードした。このセックスしないと出られない部屋に関してだけならば、時空や過去、未来にすら作用させることが出来るようになった」


 対象範囲も地球外にまで進出しているので、まさしく神だ。


「へぇ~、凄い。じゃあ、例えば昔のアイドルや、大女優が全盛期に美しかった時期の姿で、この部屋に召喚できるわけね」


「活用方法が生々しいけど、まぁそういうことだね。一方で、ダウングレードした項目もあるんだ」


「実施項目の内容によっては、力を作用できる相手が、セックスしてる必要があるって条件がついたって事でしょ?」

「……嬉しそうだね琥珀姉ぇ」


 まぁ、琥珀姉ぇだけが残されて話があるってなると、自ずと何故なのかという点には合点がいくか。何せここは。



『ここは、セックスしないと出られない部屋です。脱出するには、セックスをする必要があります』 



 お決まりのアナウンスは外宇宙航行中でも健在である。


「まさか、この部屋で唯一、イッ君としなかった私が、最後の最後に勝つとはね」


「勝つとかそういうのじゃないと思うんだけど……でも、琥珀姉ぇの予想通りだよ。俺はこの部屋にどんな人も呼び出せる。洗脳や催淫も思いのままだ。けれど、この部屋から出るための条件だけは、どうあっても回避は無理みたいだ」


 土壇場になって取り上げられた、管理者権限の権能、セックスしなくても出られるという部分は、修正されていた。

 これは補植船としての矜持をセッ部屋さんが取り戻したからなのだろうか?


「イッ君のことだから、ここに一人で残って何かするつもりなんでしょ?」

「その文言だけ聞くと、何だか卑猥な一人遊びをするみたいに聞こえるんだけど」


「あ、ゴメン」

「まぁ、琥珀姉ぇには話しておこうかな。俺は、新天地に着いたら、この部屋の力を使って創造神になる」


「神になるって、具体的には?」

「新天地を地球のように発展させられたら、地球に居るすべての人を、この部屋の力を使って新天地に召喚する」


 神なる力を持つこの部屋ならば可能だ。

 アヤメは……地球人類はもうダメだと言っていた。それでも俺は……。


「俺は自分たちだけ逃げ出すんじゃなくて、全ての人を救いたい」

「うん」


「別に人類愛とかじゃない。その方が面白いからだ」


 セックスしないと出られない部屋の力で、俺は人を知った、社会を知った。

 それまで、人が結構色んな悩みや自分なりの幸せを抱いていることが分かった。


 たとえ、俺の箱庭でもいいから、あの世界が続く事を俺は望む。


「お~、その理由は何だか神様っぽいね」


 違うんだ、琥珀姉ぇ。

 そうやって、偽悪的に振舞わないと、その責任の重さに潰されてしまうからだ。


 自分の肩に数十億人の命が乗っかていると思ったら、指先一つまともに動かせないだろう。


「だから、優月たちとは一時的な別れだ。いずれまた……会える」


 一体、何年……いや、何世紀かかるのか分からない。

 でも、やると決めた。


「うんうん。じゃあ、私もイッ君と一緒に新しい地球の神様をやろうかな」


「いや、そうはならないよ。琥珀姉ぇもきちんと元の世界に帰す。創造神なんて俺一人だけで十分だよ」


 そう言って、俺はセッ部屋の力を使って、神速でベッドを出現させて琥珀姉ぇを押し倒す。


「ふ~ん……私を元の世界に帰すために、私を傷物にするんだ?」


「……大丈夫だ、セックスした後に記憶は消すから。俺に襲われた事は忘れるし、何なら俺の存在自体が無かったことになる」


 これは必要なことなんだ。

 俺が神様として、地球人類すべてを背負うために乗り越えなくてはならない関門。


 そう自分に言い聞かせながら、押し倒した琥珀姉ぇの目を真っすぐ見つめる。


「けど、そんな事できないでしょ? イッ君には」


 目の前に来た琥珀姉ぇがニッコリとほほ笑みながら、俺の迷いを見透かしてくる。


「……俺がその気になれば、琥珀姉ぇの意志なんて関係なく、事を為せる。何だったら、琥珀姉ぇの意識を失くさせた状態で」

「あら怖い。でも、そんな、消え入りそうな声の人が。一人で神様なんて出来るのかな?」


 すべてお見通しってか……。


「ああ……クソッ! なんで、俺って経験人数4人なのにいざとなると出来ないんだろ」


 ポスッ! と、琥珀姉ぇの横に寝そべり、ベッドのシーツに顔を埋める。


「イッ君は優しいから。女の子相手に無理やりなんて、たとえ大儀みたいなものがあっても出来ないよ」


 無意識に琥珀姉ぇの身体拘束を外してしまったら、ポンポンと、琥珀姉ぇが俺の頭を子供を慰めるように優しく撫でてくる。


その心地よさに、微睡みのような安心感を覚える。


「こんなんじゃ、俺には神様なんてやれない……俺には無理だよ……」

「だから、私が一緒に行ってあげる」


 思わず漏れてしまった弱気の本音に、琥珀姉ぇが躊躇なく答える。


「そんなの駄目だよ」

「私はイッ君のお姉ちゃんだから」


「この間、キスしてきた時に、もう幼馴染のお姉さんは卒業するって言ってたじゃん」

「イッ君だって、結局エッチする寸前の時に言ってくれただけで、結局その後は琥珀姉ぇ

呼びに戻ってたし!」


「すぐには、慣れ親しんだ呼び方を変えられないんだよ」

「そうだよ。だから、私たちはこれでいんだよ。別に私、イッ君とその……エッチなことしなくても平気だよ」


 この期に及んで、セックスと恥ずかしくて言えない琥珀姉ぇが何だか可愛らしい。


「で、でも。そう言ってて、結局手を出してくるケースが多くてですね……」


 自分で言っといてあれだが、『俺と一緒に居たら辛抱たまらんだろ?』って言ってるようなもので、自己評価高すぎなナルシストみたいで恥ずかしい……。


 けど、今までの実績からすると、若い男女が一緒の空間に居たらいずれはそういう仲になってしまう訳で。


「私を性獣たちと一緒にしないで。私は何度もお預けを喰らって、その度に乗り越えてきたんだから」


 きっぱりと言い切る琥珀姉ぇの言葉には説得力が宿っていた。安定のお預けをくらいまくった実績がある琥珀姉ぇだからだろうか?


「アハハ! そうだったね。じゃあ、俺と一緒に来てくれる?」

「うん。いいよ」


 まるで一緒にデートに行ってくれるのを了承するような軽さで、琥珀姉ぇは頷いた。







「以上で終了でぇぇぇぇえええす!」



「わっ、ビックリした! 何を急に叫んでるのアヤメ」


 突然、虚空に向けて大声を張り上げるという奇行をしだしたアヤメを見やる。


「私の事を無視してイチャコラムーブしてた癖によく言うですぅ」

「ごめん。素で忘れてたわ」


「まぁ、認識阻害の術を自分にかけてたので、仕方ないっちゃ、仕方ないですねぇ」

「その術式、常時かけといてくれない? ウザいから」


「ラブコメし辛かろうと、気を利かせて気配を消していたのに対して、何たる暴言ですぅ!」

「うるせぇ! 俺はお前の事を許した訳じゃないからな!」


 すべての諸悪の根源は、コイツだ。


 アヤメが変に誤魔化したりしなければ、俺はただのセックスしないと出られない部屋から出た後に、記憶を消されてただけの人だったのに。


「さて、君らがイチャコラしている間に、目的地に着いたですよぉ」

「え、もう!?」


 いつのまにか、外宇宙を映していた宇宙船セックスしないと出られない部屋号の窓はなくなっていた。


「さぁ、どうぞ外に出てみてください」


 プシューッ! と気圧差による音を鳴らしながら、壁面にドア状に切れ目が入り、隙間から光が差し込んでくる。


 無造作にドアが開いたところを見ると、どうやら大気などはある星のようだ。


「セックスしてないのに出れるの?」


「まぁまぁまぁ」


 含みのある笑みをたたえながら、アヤメが背中を押してくるが、まぁ外に出られるというなら、こちらとしては否やは無い。


 これが新天地への第一歩。


 一体、どんな星なのだろうか。

 これが、この星での人類の歴史的な第一歩となる。


「行こうか」

「うん」


 そう言って、俺と琥珀姉ぇは光の指す方向へ向かった。





「……てっきり、荒れ果てた何もない大地なのかと思ってたんだけど」

「うん。私もその場景を想定してたんだけど、これって……」


「めちゃくちゃ、見覚えのある街だね」

「っていうか、イッ君の家の前だよ」


 俺と琥珀姉ぇが降り立ったのは、俺の自宅前だった。


 呆然としながら我が家の前で佇んでいると、自宅玄関がガチャリと開いた。


「あ、お帰り一心君」

「カヤノ様!?」


 家から出てきたのは、予想外にもゴッドオブゴッドだった。

 神様でも普通にドアから出てくるんだ。


「まぁ、こんな所で立ち話もあれだから、上がって上がって。って、うおっ!」



「一心んんんんんんっ!!」



 カヤノ様は玄関のドアを半身だけ見せるくらいしか開けていなかったのだが、後ろから人の塊が雪崩れ込んできた。


「優月!? それに、みんな!」


 玄関から飛び出してきて抱き着いてきたのは、先ほど俺がセッ部屋から追放してしまった優月たちだった。


「ううっ……ヒドイですヒドイです。私を一番最初に追放するなんて」

「去り際にあんな事言って……もう、お兄ちゃんに会えないかと思った!」

「とりあえず一発殴らせろや一心」


 泣きながら怒っている翠、瑠璃、珠里を見て思った。



 ああ……ここは、パラレルワールドとかじゃなく、まごうことなき、俺のいた世界だ。


「ハハッ……。ただいま」


 そのまま、みんなからもみくちゃにされたり、ポカポカ殴られながら、俺は今生の別れをしたつもりが、すぐに再会となった気まずさと喜びを嚙み締めた。




◇◇◇◆◇◇◇




「じゃあ、ゴッドオブゴッドは、一部始終を見てたんですか?」

「ああ、とういか他の神々も観てたぞ」


「また見世物ですか……」


 ため息交じりに俺はこめかみを抑える。


 たしかに、先ほどの選択はある種の極限状況での人間ドラマ模様だった。

 またしても、それを肴に神々は酒宴をしていたのだろうか。


 人が必死に悩んで苦しんで選択する様を、休日に自宅のソファで寝っ転がって楽しむサブスクドラマみたいに消費しやがって。


「いや、今度はお遊びの余興鑑賞としてではなくて、面接官としてだよ。ちゃんと面接終了時に、アヤメが宣言したろ?」


 アヤメの宣言って、琥珀姉ぇとの話がついた所で、突然叫んだあの奇行のことか?


「面接とは?」


「ん? 一心君が神様になって良いかの面接」

「いや~、演技指導がきつかったですけど、無事にやり遂げたですよぉカヤノ様」


 一仕事終わって肩の荷が下りたと言わんばかりに、アヤメが凝った首をほぐしつつカラカラと笑う。


「ちなみに私含めて、面接官満場一致で合格だ」


「……はい?」


 呆けている俺に、受けていない面接試験の結果が伝えられる。

 ちょっと、意味が解らない……。


「予想もつかないアイデア、それを実行する行動力、神をも恐れず自身の意志を通そうとする度胸に、それでも人としての気持ちに絆される。神にとって必要な要素について十分な資質ありと判断する。よって、豊島一心君を神様に内々定とする」


「内々定……」


 面接と言い、内々定と言い、こっちとしては就活をしていた記憶は無いのだが……。


「まさか一心を……」

「神様の世界に連れて行っちゃうんですか?」


 ようやく再会できたのにと、俺に皆がしがみついてくる。

 重い……。物理的に。


「いやいや、内々定と言ったろ。一心君が現世での人生を全うした後さ」


「まぁ、それなら」

「え? 俺、もう死後の就職先が決まってるんですか?」


 優月たちは一安心したみたいだけど、俺の心中は穏やかではない。

 まだ高校生で、現実世界での就活もしてないのに、もうセカンドキャリアが決まってるの俺!?


「あくまで内々定だからね。一心君が、これから現世でセックスしないと出られない部屋の力を使って何を為すかによっては、内々定の取り消しもあり得る」


「ああ、なるほど? って、セッ部屋は今まで通り使えるんですか!?」

「もちろん。そのために、元の世界に戻したんだから」


「そのために……とは?」

「宇宙旅行中にアヤメから聞いたかと思うが、地球人類は衰退し滅亡する。それは、別にブラフやドッキリではなく事実だ」


「…………そうですか」


 そこは、事実であって欲しくはなかった。


「だから、セックスしないと出られない部屋を思いもかけない使い方をした面白ぇ人類である一心君たちには、脱出のチャンスをあげたんだ。けど、君はそれを拒んで、地球人類を存続させようとした」


「す、すいません」

「いや、流石だったよ。あのままただ新天地に行くなら、一心君と福原先輩のアダムとイブエンドになる所だったから」


「え、そうなんですか?」

「どっちに転んでも、私としては構わなかったからね。アダムとイブエンドは、私の分身の蓮司君もご満悦だったし」


 危ねぇ……。


 あのまま、ゴッドオブゴッドの理不尽に心が折れて、そのまま受け入れてたら、そのまま新天地でただの天地創造エンドだったのか。


「じゃあ、これで正式に君にセックスしないと出られない部屋の力を託すことにするよ」

「いいんですか? 神様としての力をまだ人間の俺に託して」


「力は重いぞ。まぁ、神様になるならこれくらい使いこなしてくれなきゃ困る。いわば、神様への入庁前研修みたいなものだね。」

「入庁前から研修させるとか、ブラックですね……」


「一心君は一度は神様をやろうと覚悟したんだろ? なら地球人類くらい延命させて見せてよ」


 ニカッと笑いつつ重い課題を与えて、ゴッドオブゴッドが親指を立てる。


「じゃあ、期待しているよ一心君。次に会う時は、君の天界入庁式かな?」

「とっとと、来るですよぉ一心君、この高みまで。その時は、私が先輩として一心君のことをこき使ってやるですぅ」


 カヤノ様の激励と、アヤメのウザい先輩ムーブを残して、神様たちは俺たちの前から消えていった。

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