第99話 メイドさんの最適解

「こっちがカット済みの野菜たちな。これで取りあえず、お昼のピークは乗り切れるはず。で、こっちは焼きそば用の麺と豚肉な」


「おお! これなら、乗り切れそうだ。サンキューな一心!」


 セックスしないと出られない部屋で仕込んだ材料たちを現実世界に移し終えると、タイミングよく蓮司がバックヤードに顔を出したので、調達した材料を披露する。



「これで前半部分のバックヤードの作業としては以上かな」


「じゃあ、手が空いたなら表の接客やらを手伝ってくれ!」

「人使いが荒いな、まったく」


 そうボヤキつつも、セッ部屋では業務用調理機器に働かせていて、身体疲労は皆無なので一心の要請を受ける形で、俺も屋台の方へ向かった。


 普段は飄々としている蓮司が、こんな追い詰められてる、珍しい物も見れてるしな。


 蓮司の奴は慌てていて、俺がどうやってこの短時間で、これだけの食材の調達や加工をしたのか疑問に思っていないようだ。


 さて、屋台への客入りはどんな感じで……。


「焼きそば3人前でお待ちのお客様~! お待たせしました~!」

「こっち! 持ち帰り用にさらに4人前追加でお願い」

「フランクフルト、もうすぐ終了です!」

「おい、こっちが先だぞ!」


 え、なにこれ?


 俺の目の前には、我先にと買い求める客でごった返す客を必死にさばくクラスメイト達の姿があった。


 なんで、たかが高校生が作る屋台に、こんなに人が殺気立ちながら客が買い求めてるんだ?


 正直、セッ部屋さんで調達した食材はいたって普通なグレードの物だ。


 もしかして、俺のタッチしていない調理工程で、門外不出のレシピが使われているのか!?


「お帰りなさいませ旦那様」

「うおぉぉぉおお! 正統派メイドさんだぁぁぁ!」


 あ、繫盛の原因これだわ。

 客引きをしているメイド姿の優月を見て、俺は秒で理解した。


「ほら、ご主人様。ちゃんと大人しく並ばないとメッ! ですよ」

「うおぉぉぉぉ! 俺も幼女メイドさんに叱られたいぃぃぃぃ!」


 あ、翠もそういやメイド服着るって言ってたもんな。


 さっき、屋台の店先で客が騒いでいたのも、幼女メイドの翠に叱られたいがための行動か。


 めっちゃ迷惑だな。


「あの、頼んでいる焼きそばがまだ来ないのですが」


 と思っていたら、今度はガチでこちらの不手際らしいお客さんが現れた。


「あ、ヤベ。私が受けたオーダーのお客さんだ」


 そう言って、同じくミニスカメイド姿の珠里が後頭部を掻きながら、ボヤく。

 どうやら、珠里のオーダーミスで調理組にオーダーが通っていなかったようだ。


「申し訳ございません、お客様」


 すかさず、メイド長たる優月が間に入ってお客様に丁寧な謝罪をする。

 しっかりした格好の人が謝ると、やはり様になるな。


「ほら、白玉さん。ミスしたらどうするんだっけ?」

「う……ウユ~~。ご……ごめんなさい、ご主人様」


「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおお! ドジっ子ギャルメイド最高!」


 あ、キッチリした謝罪でなくてもお客さんは喜ぶんだな。

 正統派きっちりメイドに、背伸びした幼女ママメイドに、ドジっ子褐色ギャルメイド。


 客引きメイドさんの最適解だな。

 メイドさんが売ってるのは、ふわふわパンケーキとかじゃなくて、焼きそばやフランクフルトなのがシュールだけど。


「ほら、一心。ボサッとしてないで、焼きそばを容器に詰めるの手伝え」


「わ、わかった」


 蓮司に言われて、俺も慌てて、焼き上がった焼きそばが山となっているトレイから、プラスチック容器に焼きそばを次々と詰めていった。


 クラスの嫌われ者の俺が混じって嫌な顔をされると思ったが、クラスメイトもこの超絶繁忙期でいっぱいいっぱいなせいか、特に後ろから刺されることもなかった。


 ようやくクラスの出し物に参加している実感が湧き、ちょっと嬉しかった。




◇◇◇◆◇◇◇




「ふぅ~、疲れた」

「もう焼きそばは見たくねぇぜ」


「2人共お疲れ様」


 ようやく前半のシフトが終わり、文化祭を見て回る番になったので、優月と珠里を連れて一緒に回っている所だった。


「しかし、メイド服だといつも以上に視線を感じるな」


「しょうがないでしょ。この格好のままで校内を練り歩いて宣伝するのが、屋台を離れる条件だったんだから」


「流石にずっと客引きで屋台の前に貼りついてるのは勘弁だぜ」


 少々不満げな二人だが、既に配るチラシも無くなり、ようやく真の意味でフリーになっている。


 珠里も、最早ミニスカメイド服に慣れてきたようだ。


「その点、小鹿先生は大変だな。副担任だから、クラスの屋台から離れられないし」


「私と白玉さんが去る時に『裏切り者~』って慟哭してたわね」


 そこは教師と生徒の立場の違いゆえ仕方がない。

 お店の看板娘が全員いなくなるのは避けねばならない。


 バックヤードに焼きそばやフランクフルトの材料はたっぷり用意したんだし、後半も何とかなるだろう。


「あ~、お腹空いた。結局、作るばかりで焼きそばは一口もありつけてないからな」


 ヒマな瞬間が全然なかったので、賄い料理的に食べる余裕も無く働き続けたので、腹ペコだ。


「あ……それが、一心ごめん。私と白玉さんは、すでにお腹いっぱいかも」


「なんで?」

「店先で宣伝のためにって、屋台の前でフランクフルトを何本か食べさせられてたから」


「フランクフルトを私と優月っちで食べさせ合いしたら、客のボルテージが最高潮だったな」


「蓮司の奴め、えげつない宣伝させやがって」


 そんな事までやってたのかアイツは。

 忙しそうにしているのに同情したが、もう泣きついてきても知らんぞ。


「とは言え、一心はお腹空いてるんだもんね」

「ああ、悪いが付き合ってくれ。そうだ! 瑠璃のクラスも、たしか食べ物屋台だったな。覗いて行こう」


 そう言って、俺は瑠璃のクラスの屋台が出ているエリアへと、メイド2人を従える俺様スタイルで向かった。

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