第92話 琥珀の作戦
【福原琥珀_視点】
「婚約者~⁉ あのお嬢様が、イッ君のクラスの副担任ん~~~⁉」
『声デカいっす。福原先輩』
私の所属するアイドルグループ『KIYONE~清音~』のお披露目コンサートが終わった後の控室で、スマホに届いていた蓮司君からのイッ君密告情報を見て仰天した私は、ステージ衣装を着たまま、スマホで蓮司君相手にがなり立てていた。
こんな姿、先ほどまでコンサート会場でペンライトを必死に振ってくれてたファンには絶対に見せられない。
「それで、小鹿さんはどんな感じなの? イッ君の様子は? 婚約って何? 本気!? 10歳と!?」
『そんな矢継ぎ早に質問しないでくださいよ。あ、そう言えば授業中に、小鹿先生は一心の将来のお嫁さんですもんねって言ったら、成績加点してくれるみたいです』
「なに裏切ってるのよ蓮司君!」
『所詮は10歳で素直っすよね~』
コイツ……。
私の走狗のくせに、全然主人のことを敬わないんだから。
この無駄イケメンが。
「まぁ、いいわ。お披露目コンサートが終わって、ようやく地獄のレッスン期間が終わったから、これからは私も学校に登校できるし」
所詮、伝聞では伝わらないし、何よりイッ君と物理的にほとんど会えないのは痛すぎる。
『そうなんですね。福原先輩だけ周回遅れって感じですからね。もう文化祭ですよ』
「……さすがに、小鹿のお嬢様よりは、リードしてない? 私、イッ君の幼馴染なんだけど」
ちょっと自信が無さげなのは、自分でも気づいている。
でも、赤石さんみたいな無根拠な自信や、白玉さんみたいな静かに信じてるって慈愛も、瑠璃ちゃんみたいな突然吹っ切れたような積極性も私には無い。
まぁ、この間のキスは勢い任せの所があったけど、それっきりだし……。
『最近は幼馴染って負けヒロインの筆頭じゃないですか』
「うるっさい!」
そして、その事をしっかり見透かしてる蓮司君は、本当に憎たらしい。
『頼みますよ。俺、福原先輩推しなんですから』
「そうやって上げて落とすんだから……こういう手口で、色んな女の子を自分に沼らせてきたんでしょ蓮司君は」
蓮司君は無駄にイケメンだし、女の子が喋るのをちゃんと聞いてくれて、それでいて茶々も入れてくれて、ツッコミを入れさせることで親密度合いが上がっていると思わせて来る。
こんなの、イッ君一筋の私じゃなければ即お持ち帰りされるだろうね。
『いやいや。俺は今のところ、誰とも付き合う気はないんで』
「そう言いながら、夏休み中も全然、イッ君についての定期連絡をしてこなかったじゃない」
『いや、俺も忙しくて、一心とは夏休み中は全然遊ばなかったですから。福原先輩と一緒で』
「だから一言多いのよ蓮司君は。じゃあね! これから着替えとお化粧も落とさなきゃだから!」
そう言って、ドSイケメンとの通話を終了して私はフウッと息を吐き出す。
「ねぇねぇリーダー。今の電話、男? 男なんでしょ?」
ステージ衣装を脱いでいると、興味津々と言う感じで、グループのメンバーが話しかけてくる。
「ん? そうだけど」
「わお! 琥珀リーダーってば、デビュー直後なのに大胆~!」
「え、え。誰なの? 誰なの? 業界の人? あ、モデル時代から付き合ってるとか?」
「さっきの電話の相手はただの学校の後輩よ」
ウザ絡みしてくるメンバーを余所に、脱ぎ終わったステージ衣装をハンガーにかけて、メイク落としのために化粧台の前に座る。
「え~、でも絶対、その子って琥珀リーダーのこと好きだよ~」
「アイドルの秘めたる恋か~、いいなぁ~」
どの子も、ちっとも私の話なんて聞いちゃいない……。
この子たちは、結局の所、他人の恋バナで盛り上がりたいお年頃なのだ。
特に、アイドルにとっては、他人の恋愛を自分に重ねる代替手段としての意味合いもあり、首をつっこみたがるのだ。
「でも、いいんですかぁリーダー? 恋愛スキャンダルで有名になんて、なりたくないですよウチらは」
サブリーダーの子が、ちょっと厭味ったらしい口調で苦言を呈してくる。
この子は、自分がグループのリーダーになれなかった嫉妬と怨嗟を、煮えたぎるマグマのように内心にため込んでいるような子だ。
「大丈夫よ。私は、まだ清い体だから」
「ぐ……」
あらあら。
そこで言葉に詰まっちゃうって事は、貴女は経験あるのね。
「そっちこそ、身辺は綺麗にしておいてね。地元でやんちゃしてた時の元カレとのアレな写真の流出とか勘弁だからね」
「ま、まぁまぁ。じゃあさ、琥珀リーダーは大事な人とかいないの? アイドルとして身を捧げますみたいな?」
ピリついた雰囲気に、すかさずムードメーカー役の天真爛漫な子が割って入って、話題を変えてくれる。
うーむ。
やはり運営も、グループ内で色んな化学反応を起こすために、色々なタイプの子を入れているんだなぁと、妙な所で私は感心してしまった。
「そんな大それた事は考えてないよ。私には、子供の頃から心に決めた人がいるから」
「へぇ~、ロマンチック。でも、こういう純愛一途タイプの子って、男たちは好きだもんね。これは推せるわ」
ウンウンと、親父臭い感じで腕組しながら、メンバーが一人で言って一人で納得している。
「そう。私の心の中の人は、たった一人だけ……」
メイクを落として、アイドルからただの琥珀に戻った私は、そうポツリと呟いた。
「そのためには、文化祭では一気に距離を詰めないと」
ようやく自由に動けるようになった私は、頭の中で作戦を練り出した。
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