第91話 カヤノ先輩しゅきぃ~~!

【天界のアヤメ視点】


「あ~、もう。ここは、相変わらず埃っぽいですぅ。ゴホゴホッ!」


 天界の広大な地下書庫で、体育座りしながら、過去文書の束をめくりながら咳き込む。

 窓も無い地下で、陽光も差さずに空気がヒンヤリしているのだけが幸いですぅ。


「え~と、セックスしないと出られない部屋、セックスしないと出られない部屋。この文書にも無いですかぁ」


 若手エリート筆頭株の有能女神のアヤメさんが、なんでこんな埃とほのかなカビの香り漂う地下書庫にいるかと言うと、私の最大のアキレス腱である、セックスしないと出られない部屋について調べるためですぅ。


 この間セックスしないと出られない部屋は、なんか暴走して一心君と緑のロリっ子を閉じ込めるという暴挙に出ましたからね。


 配信を見てましたが、まさか緑のロリっ子が肉体を合法年齢まで引き上げて、一心君に薬まで盛るとは……。


 いやはや、人間のメスも怖いもんですねえ。


「しかし、配信のラストのあれは何だったんでしょうねぇ……」


 今回、セックスしないと出られない部屋は、私のはもちろん、一心君の管理権限でもコントロールが出来ない暴走状態でした。


 なので、緑のロリっ子が事をし終えた後に、どうやって催しを終了すれば良いのかと、表面上は主催者の私は大層慌てました。


 私ではゲームを終了できないし、頼みの綱の一心君は薬を盛られて色んな意味で使い物にならなかったのですぅ。


「けど、テンパっていたら、タイミングよく配信は終了したんですよねぇ」


 その後、流れに合わせて、アドリブで配信終了をオーディエンスの神々に伝えてお開きにしたのは、流石は将来のエリート女神様の機転の良さですが、あれは何だったんでしょう。


 タイミングが色々と良すぎるような……。


 けど、神通力が今回の件でマジで底を打ってしまったので、下界にいる一心君に話を聞くことも出来ねぇですし。


「って、お! ここにセックスしないと出られない部屋についての文書があったですぅ」


 考え事をしつつ古い書類を眺めていると、突然、書類の件名にセックスしないと出られない部屋のワードを見つけました。


「件名は『セックスしないと出られない部屋の設置経緯と仕様について』 おお! まさしく、私の求めていた資料ですぅ」


 流石は、有能エリート女神のアヤメちゃんですぅ。


 こういう、古い書類探しと言う地味な作業でも、才能というものがついつい表出してしまうのですぅ。


 まったく、有能であることは罪ですねぇ。


「ええと、なになに。そもそも、セックスしないと出られない部屋が設置される目的は……」


「おう、アヤメ。こんな所でなにしてんだ?」


「おひょっ! だからカヤノ先輩。急に背後から声を掛けないでくださいってば!」

「わりぃわりぃ」


 カラカラと笑いながら、カヤノ先輩が謝る気のない謝罪の言葉を口にする。

 まったくもう……。


「カヤノ先輩も地下書庫に用事ですかあ?」

「いや、アヤメがどこにいるのかと探してたんだよ」


「え……私に何か用ですかぁ?」


 私は、少し警戒を帯びた声音で用向きを尋ねる。


 ひょっとして、前回のセックスしないと出られない部屋の配信で、不自然な点についてカヤノ先輩に気付かれたんじゃ……。


 強張った背中に汗が伝う。


「いや、最近お前、また雑草スープばっかり食べてるだろ」

「はひっ!? そっちですかぁ?」


 取りあえず、セックスしないと出られない部屋のことについて怪しまれていない事は僥倖なのですが、え? そっちはそっちで、バレてるのヤベェですぅ!


「ざ、雑草スープって何の事ですかぁ? エリート若手女神様の私には、ぜ、全然わからないですぅ」


 動揺を抑え込みつつ、ポーカーフェイスを決めながらとぼけて見せる。

 エリートたるもの、時にはウソを本当のことのように喋る演技力も必要なのですぅ。


 有能な私の演技力なら、この場を切り抜けられるはず!


「いや、私は草を司る女神なんだから、この天界の草木の事は隅から隅まで把握してるんだぞ」


 そうでしたぁあああ!


 相手が悪過ぎましたぁぁぁあ!


 ちくしょおおぉぉぉぉぉぉお!


「あ、あのカヤノ先輩。この事は、どうかご内密に。あとエリート女神様とか言って、天狗になってスンマセンですぅ」


 カタカタと震えながら、カヤノ先輩に慈悲を請う私。


「別に言いふらしはしないよ。差額支給があったのに、また無駄遣いでもしたんだろ?」


「そ、そうなんですよぉ。アハハ……」


 適当にカヤノ先輩の話に合わせながら、私は恥ずかしそうに笑う。

 実際、カヤノ先輩に雑草スープ生活をしていたのがバレたのは恥ずかしいのですぅ。


「ふーん。まぁ何にそんな入れあげてるのか知らないけど程ほどにしとけよ。まぁ、普段見向きもされない草木たちだから、食べてもらえて草木たちは喜んでるから、私としては別にいいんだけどさ」

「は、はいですぅ。用事ってこの事を言いたかったからなんですかぁ?」


「いや、たまには、食堂で一緒に何か食おうとアヤメを誘おうと思ってな」

「カヤノ先輩しゅきぃ~~! アヤメは、カヤノ先輩に一生ついて行くですぅ~!」


 持つべきものは、優しい先輩なのですぅ。


 いざという時には助けてくれて、こうして影ながら支えてくれて、カヤノ先輩は本当に気持ちの良い先輩なのですぅ。


 私が将来、天界で高級幹部になった時には、是非に、カヤノ先輩を上に引っ張り上げたいところですねぇ。


 そんな事を考えながら、私は先ほど見つけたセックスしないと出られない部屋に関する書類をほっぽり投げて、カヤノ先輩の後を、尻尾をふりふりしながらついて行くのであった。

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