第89話 ママJS先生
「小鹿先生、おはよー」
「おはようございます。あ、こら! 学校なのにお菓子なんて食べて。没収ですよ」
「あちゃー、見つかった。小鹿先生も、お菓子食べる?」
プンプン怒る翠に、お菓子を注意された女子生徒が、某おいしい棒を差し出す。
「そんな懐柔策に教師の私が……まぁ、美味しそうなので一口いただきましょう、モグモグ……美味しいです! こんなお菓子、初めて食べました!」
「これ、ただの駄菓子なんだけど。小鹿先生って、マジでお嬢様なんだねー。こっちの味もどうぞ」
差し出される某おいしい棒の明太子味に10歳児教師は、まんまと餌付けされている。
「なんか、翠はすっかり馴染んでるね」
衝撃の自己紹介から翌日。
10歳の教師は、意外な事に皆から受け入れられていた。
頑張って教師らしくしようとするのだが、どこか抜けている所が可愛らしく、男女問わずに人気があるようだ。
「あれで、身体的には私達より年上って言うんだから、驚きよね」
「こら、優月。シッ!」
「あ、ごめん」
ああ見えて、実は翠の身体は18歳まで成長しているという事は、セックスしないと出られない部屋を知る者だけの秘密だ。
まぁ、聞かれたところで、何を意味不明な事をと一蹴されるだけだろうが。
それだけ、翠の見た目は小学生まんまだった。
「それで、今回はどういう経緯で、あのロリお嬢様を部屋へ呼ぶことになったんだ?」
声の音量を抑えつつ、珠里と優月でこそこそと密談をする。
「解らない。俺に記憶が無いという事は、俺の意志で召喚した訳じゃないと思うんだけど」
「まぁ、一心のコントロール下でなら、あんな事にはなってないわな」
仮に、何かしらの緊急避難的な理由であの部屋へ翠を招くことになったとしても、わざわざセックスして出てくる必要はない。
「それにしても、俺、本当に翠とやっちゃったのかな……」
「まぁ、今までの実績からすると、そうなんじゃないの」
「お嬢のあの突如とした自信満々な態度もあるしな」
「そっかぁ……」
希望的観測にすがりたい気持ちだったが、状況証拠的にはやぱりクロだよな、これ……。
「まぁ、あの部屋で18歳まで身体を成長させてたからセーフなんじゃない。合法ロリよ合法ロリ」
「いや、身体はそうでも、精神が10歳のままだったらやっぱり違法なんじゃねぇのか?」
「あと、戸籍的には所詮は10歳のままだからアウトだぜ」
やべぇ。
これ、俺、翠としたのがバレたら完全に捕まるじゃん。
「ちくしょう……捕まったらマジでアヤメの事を呪ってやる」
「で、女神様は音沙汰なしか?」
「ああ。怒り心頭で呼びつけても、冷静に静かに諭すように呼び出しても、何も反応が無いんだよ」
机に突っ伏して、俺は憮然としながら答える。
俺に、あの部屋へ翠を招いた記憶が無い以上、消去法であのクソ女神がまたもや、やらかした事は明白なのだ。
「けど、あの子も思い切ったことするわよね。10歳から一気に18歳まで身体を成長させるなんて。大事な思春期をすっ飛ばしちゃってるじゃない」
「本人は喜んでたみたいだぜ」
「思春期って心も体も大きく成長するらしいから、どっかで無理が出ると思うんだけどね」
そう言いながら、無邪気に笑いながら生徒たちと駄菓子を貪る翠を、優月は心配そうな目で見ていた。
◇◇◇◆◇◇◇
「はい。じゃあ、このアンモニアのモル計算を豊島君、前に出て計算をお願いします」
教壇に立つメガネに白衣姿のJS教師が、俺をビシッと指名する。
今日は、足柄先生は
足柄先生は今頃、保健室でパートナーから献身的な看護を受けている事だろう。
「はい。アンモニアの分子式はNH₃だから、分子量はこうなので、アンモニア1molあたりの質量がこうです」
まぁ、別に授業中に当てられるのはいい。
問われている内容も基礎的で問題ない。
「はい正解です。豊島君、偉い偉い。いい子いい子」
「あの、す……小鹿先生。恥ずかしいです」
ただ、これはどうにも慣れない。
教壇の一段高い所から、背伸びしてギリギリ届く俺の頭をナデナデされながら、俺はやんわりと止めて欲しいと伝えるが。
「ダメですよ。良くできた時には、大げさに褒めたたえる。これが欧米式です。教育に関する最新論文にも、生徒を褒めることで優位な結果が得られるとありました」
理詰めで却下される。
しかし論文とか本当かよ。
ただ、大学を飛び級卒業している翠に言われると、正しいのか? と思ってしまう。
「はい、じゃあ次の問題です。この問題、わかる人~」
「「「「はいはいはいはい!」」」」
高校生の授業とは思えない、授業参観時の小学生ばりの積極性で挙手する男子生徒たち。
まぁ、男子生徒たちの目的が何かは、言わずもがなだろう。
「はい、正解です。頭よしよし」
「ふわぁ……JS先生の頭ナデナデ……心が洗われる……」
「ああ……いけない扉が開きそう……」
「この包容力は、まさしくママ……」
「ママJS先生にオギャりたい……」
「俺、マジで化学オリンピック出場目指そうかな……。そうすれば、小鹿ママにいっぱい褒めてもらえるし」
「バブバブ!」
あかん。
既に何人もの男子生徒が、幼児退行を起こしている。
ただ、化学の成績は今後爆上がりしそうな予感だけはひしひしと感じる。
「流石に引くな……」
「しゃあねぇよ。この学校にいる男子はみんな、一心によって度重なる脳破壊攻撃を受けて壊れちまったんだ。壊れ切った脳が、生存本能として、こういう無垢な母性愛を求めちまうんだよ」
思わず独り言をつぶやいた俺に、隣の席の蓮司がしたり顔で解説する。
何、お前。
いつの間にJSママの有識者になったの?
「俺のせいじゃねぇよ」
「まぁ、でも小鹿先生は所詮は10歳だからな。男子高校生相手じゃ、色々と危うい所もあるから、ちゃんと一心が護ってやれよ。婚約者なんだろ?」
ニヤニヤしながら蓮司が、つついてくる。
「いや、だから婚約者じゃないって言って」
「ほらそこ! 豊島君! 荒北君! 授業中に私語しちゃダメですよ!」
「おっと、いけね。一心の将来のお嫁さんは怖いなー」
おどけながら蓮司が、ノートにペンを走らせる。
「お嫁さんって、荒北君ったら、いいこと言ってくれますね。成績加点しておきます」
いや、その評価基準は教師としておかしいだろ。
「ぐ……あのクソ野郎との婚約を認めるなんて……でも、そうすれば更なるJS美少女ママ教師からのヨシヨシが……何だ、このジレンマは……」
「ママJS先生があのクソ野郎に……いや、だが如何にあいつがクソ野郎でも、流石にまだ10歳のママJS先生には手を出していないはず」
「ママJS先生は純潔にして清純。これだけは確実なこの世の真理」
シンプルに男子共がキモイ。
いや、それで何でクラスの女子たちは、キモイ発言をする男子共じゃなくて、俺の方へ蔑みの目線を送ってくるんでしょう?
『こいつら何とかしろよ』と、目線の冷たさが物語っていますね。
いや、どうにかしたいのは山々だけど、俺には無理です。
あいつら、俺が話しかけようとすると、般若の面みたいになるし。
なんとかしてくれ、優月~ 珠里~ と助けを求める視線を投げかけるが、2人共そっぽを向いて、俺とは目を合わせてくれなかった。
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