第87話 大層優秀でお嬢様な天才化学者美少女
白衣を着て、理知的なメタルフレームの丸メガネをかけた小学生くらいの背丈の少女が登場して、副担任として挨拶したことにより、クラスは騒然となる。
「ツッコミどころが多すぎて、一体どこからツッコめばいいのやら……」
「どう見ても小学生だよね? 凄く若く見える先生とか?」
「でも、さっき自分で10歳って言ってたし」
「っていうか、あのハーレム野郎、小学生相手に婚約者って……流石にドン引きだわ」
「コイツ、もう逮捕してくれよ! 頼むよ! でないと、俺が犯罪者になっちまうよ!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
周囲からの殺意がエグイ。
夏休みが間に挟まったから、少しは時の経過で緩和したり、何なら、学童保育所の移転や無料塾の立上げなどで、俺の底の底に落ちた好感度が、多少は回復することを俺は期待していた。
だが、それは儚い夢でしかない事を、クラスメイトから向けられた殺気により思い知らされた。
「一心の婚約者ってどういう事よ、小鹿さん!」
「き、き、聞いてねぇぞ、お嬢!」
そして、この混乱の中でいち早く、優月と珠里が翠に詰め寄る。
いや、そこは俺も気になる点だけれども、翠が大金持ちのお嬢様で、大学を飛び級卒業しているという前提情報すら知らない他のクラスメイトは、『まず気になるのそこかよ?』という顔で激高している2人を眺める。
「この間、一心君と約束したんです。結婚しようねって」
「一心―――っ!!」
「はいぃぃ!」
優月のマジ切れ声に、思わず直立不動で席から立ってしまう。
「いや、俺の方もどういう事かさっぱり……」
「つべこべ言わずに説明しろや、豊島指導員。正直に話さないと100人組手させるぞオラ」
「学校で、道場の師範代の立場を持ち出すんじゃないよ珠里!」
ベタに拳をゴキゴキと鳴らしながら、珠里が俺の方に詰め寄って来る。
ヤバい、やられる!
「こら、まだホームルーム中だから、席を立ち歩いてはダメですよ白玉さん。席について! 赤石さんも!」
小さい割によく通る声で、翠が俺と珠里の間に割って入る。
小柄な体躯で、そこは見上げた教師魂だ。
だが、如何せん身長差がありすぎる。
「す、翠……」
「大丈夫でしたか一心君? いえ、学校ではあくまで生徒と教師の関係なんですから、豊島君と呼ばなきゃですね。そこはケジメをつけないと」
いや、パッと見は、褐色銀髪ギャルから男子高校生を庇う女子小学生にしか見えないから、庇われてる側の俺としては凄い恥ずかしいんだけど……。
「ほら、どうどう。白玉も赤石も小鹿先生の言う通り落ち着け。っていうか、お前ら小鹿先生と知り合いだったのか?」
怪訝な顔をしつつも、足柄先生も間に入ってくれて、さすがに妊婦の手前、手荒なことは出来ぬと、珠里もすごすごと自席へ下がっていく。
「みんなも驚いたと思うが、小鹿先生は、あのオーガ化学工業の創業者一族で、若干10歳にしてアメリカの化学の名門大学を卒業していて、学術誌にも自著論文が載る才女だ。そんな人に教えてもらえるなんて、お前ら、とてつもなくラッキーなんだぞ」
足柄先生が興奮しながら、翠こと小鹿先生の事を紹介する。
「そんな大層優秀でお嬢様な天才化学者美少女が、なんでこんな高校くんだりで教師をやる事になったんですか?」
優月が、厭味ったらしく褒め殺しつつ問いかける。
「研究者になる上で、一度教師はやってみたかったんですよね~」
「だからって、10歳のお嬢が高校の教師なんて無茶苦茶だぜ」
珠里もおかしいと、優月と共同戦線をはる。
「あと、この高校はうちの会社の資本が入っていますから」
「この高校は、歌姫やってて碌に出席しない豊島妹みたいに、割とお金があれば何でも解決できるからな」
が、汚い大人の論理によって優月と珠里の反論は封殺される。
いや、翠は未成年だけどね。
しかし、うちの高校って資本主義に屈しまくる学校だったんだ。
今から転校って出来ないかな?
もう、俺のこの高校での人間関係なんて、一部を除いたらもう壊滅的な状況なんだから、学校自体に未練は無いぞ。
あ、でも妹の瑠璃が忖度して貰ってるから、俺もこの学校から出る事は許されないか?
ちくしょう!
「とにかく、これからよろしくな。くれぐれも、問題は起こすなよ。胎教に悪いから」
そう足柄先生がお腹を愛おしそうにさすりながら、夏休み明け一発目のホームルームは終わった。
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