第83話 仲直りして
【天界のアヤメ_視点】
「うへへ。上がってる、上がってるですぅ」
昼休み。
天界の中にある指定金融機関のATMで通帳記入した私は、通帳に記載された神通力残高の増えた数字を見て、思わず独り言を口ずさんでニヤニヤしてしまいました。
私は、この差額支給日を心待ちにしていたのですぅ。
最近の、セックスしないと出られない部屋での私の手腕を、ゴッドオブゴッドが高く評価してくれたおかげで、臨時の昇給分の差額支給が為されたのですぅ。
「ようやく、これで、雑草スープ生活からはおさらばですぅ」
一心君と妹ちゃんを、無理やりセックスしないと出られない部屋に閉じ込めた時に浪費した神通力が、これで補填されたですぅ。
有能新人女神様の名前を欲しいままにし、将来のエリート中枢部門入りは確実として、他の神々からヒソヒソと噂される中、颯爽と肩で風を切ってオフィスをねり歩いている私ですが、雑草スープを食ってたら全てが台無しなのですぅ。
けど、これでようやく、カヤノ先輩にたからなくても、神々の職員食堂で素ラーメンを躊躇なく食せる身分になるのですぅ。
「おい、大変だぞアヤメ!」
「あ、これはカヤノ先輩、お疲れ様ですぅ。そろそろランチタイムだから食堂行きませんかぁ? いつも奢ってもらってばっかりだから、偶には私がおごるですよぉ」
通帳に記帳された額にフワフワしたままの私は、呑気にカヤノ先輩をランチに誘う。
「それどころじゃないって、アヤメ! お前、セックスしないと出られない部屋のゲリラライブ配信始めておいて、なんで主催者本人がこんな所でフラフラしてるんだよ!」
「…………あ、ああ。そうなんですかぁ」
カヤノ先輩の慌てぶりに対し、エリート天界職員の私は動じねぇですぅ。
どうせ、この間の反社たちメス堕ちライブ配信の時みたいに、一心君があの部屋を使ってまた変なことでもしてるんでしょう。
もはや、この手のトラブルに私は動じないですぅ。
「何を呑気してるんだよアヤメ! ほら早く!」
「いや大丈夫っすよカヤノ先輩。いつもの良い感じのアレなんで」
まだ内容は把握してないので適当な事を言って誤魔化しておきます。
「何をヘラヘラしてんだ! お前、さすがに小学生をセックスしないと出られない部屋に入れるのはアウトだろうが!」
「…………はい?」
え、今カヤノ先輩、何言ったですかぁ?
し……小学生!?
それは、流石に天界でも放送禁止、永久封印の大アウトですぅ!
「アヤメが天才企画者だってもてはやされて、私らもついお前に、過度な期待をかけちまってて、それがいつの間にかお前を追い詰めちまってたんだな……だから、こんな一線を超える過激な企画に走らせて……本当にすまない」
カヤノ先輩が勝手に横で自省してますが、今はそれどころじゃないですぅ。
このままでは、私の築き上げた地位が、イメージが全て台無しですぅ!
「この事は、ゴッドオブゴッドは!?」
「まだだ。ゲリラ配信だから、まだ他の神々からの同接もそんなに居ないぞ」
「至急、対処してくるですぅ!」
そうカヤノ先輩に言い残して、私は地上への降下地点へ向かってかっ飛んで行きました。
「一心くんのやろぉぉぉおおおおおおお! また、雑草スープ生活に逆戻りですよぉぉぉおおおお!」
ああ……さようなら私の素ラーメン生活。
めくるめく幸福な生活が失われることに涙しながら、私は怒り、地上へと向かった。
◇◇◇◆◇◇◇
「またかよ、あの駄目女神は……」
俺は、奥歯をかみしめて己の甘さを悔いた。
瑠璃と一緒にセックスしないと出られない部屋に閉じ込められた時に、結局、なぁなぁで済ませたのが良くなかった。
喉元過ぎれば何とやらだ。
今度は、小学生の年齢の翠と俺をセックスしないと出られない部屋に閉じ込めるとは。
「あの、一心お兄ちゃん」
「ああ、翠。変な事に巻きこんじゃってゴメンな。直ぐに出れるからな」
俺は翠の頭を撫でながら、頭の中で今後の処理について段取りを構築する。
まずは、何よりこの部屋からの脱出だ。
そして、次回に神々の催しがあった際の対象者として目をつけていた、不妊治療に悩むご夫婦をすぐに召喚する。
あとは、先ほどの俺と翠の召喚は手違いでしたと、主催者であろうアヤメが神々に説明すれば、俺が管理者権限を持っている事がバレずにこの部屋から脱出できるだろう。
よし、順序はオーケーだ。
後は、アヤメの奴に伝えて口裏を合わせる必要がある。
さっさと来いや!
「何してるですかぁぁぁ、この変態野郎がぁぁぁあああ!」
ちょうど、俺がさっさと来いと念じた直後に、大音量の駄目女神様が声を張り上げながら舞い降りてきた。
「そりゃ、こっちのセリフだバカ女神!」
「ロリコン野郎に言われたくないですぅ!」
アヤメの声は明らかにキレていた。
何を開き直って逆切れをしてやがるんだと、俺の方もボルテージが上がる。
「誰がロリコンだこの野郎! 早く俺たちを帰せ!」
「あんな可愛い女の子たちを侍らせてる癖に、現実世界では一向に手を出さないフニャフニャ野郎だと思ってましたが、まさかこんないたいけな歳の子供を毒牙にかけようとするだなんて! やっぱり人間のオスなんて最低最悪ですぅ! 即刻やめるですぅ!」
いがみ合う2人。
だが、話は嚙み合ってない2人。
「あの……状況を見るに、この不思議な部屋には、女神……様? に連れて来られたという理解でいいんでしょうか?」
翠の発言により、2人の動きが止まる。
この場で一番の年下なのに、一番冷静な翠を見て、俺もアヤメも少し冷静さを取り戻したのだ。
「違うですよ。こんな状況になってるのを天界で見咎めて、折角もらった臨時収入の神通力をはたいて、この部屋に突撃したという次第ですぅ」
「……あれ? アヤメが俺たちを、神通力とやらで強引に閉じ込めたんじゃないのか?」
「一心君が、セックスしないと出られない部屋の能力を使って、幼女に己の欲望をぶちまけようとしたんじゃないんですぅ?」
ここでようやく、俺とアヤメは、お互いの現況の認識がちぐはぐであることに気付く。
「てっきり、アヤメがまた、俺たちを神々の見世物にしようと過激な企画を考えた物とばかり……」
「私も、ついに一心君が、性獣の本能を大解放したのかと……」
先ほどまでキレ散らかしていた熱量が急速に冷えていく。
「じゃあ、一心お兄ちゃんも女神様も、お互いの誤解から、口喧嘩してたんですね」
「そ、そうなるね」
「そ、そうですねぇ」
小学生の年齢の女の子に、現況を冷静に要約され、いさかいを仲裁してもらうって、とても恥ずかしい。
俺とアヤメは見る間に小さくなる。
「じゃあ、仲直りして、一心お兄ちゃん、アヤメ様」
女子小学生の純粋無垢な裁定の前に、俺たちは成す術がなく……。
「ご、ゴメンなアヤメ。決めつけで怒鳴ったりして」
「わ、私の方こそ、臨時収入がパーになった怒りで我を忘れて、声を荒げて悪かったですぅ」
素直に謝る俺とアヤメの前で、翠は何故か満足げな笑顔だった。
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