第38話 セッ部屋の野郎!!

「まったく、不純異性交遊だなんてはしたない」

「だから、お姉ちゃん。あれは、ただの未遂で」


「黙りなさい愚妹! 性欲にまみれたアンタは、無垢な子供たちと触れ合って、その心を禊なさい! アンタもよ! 七光りボンボン!」


「いや、だから僕はボンボンじゃないですってば」


 という訳で、今日は白玉空手道場に間借りしている学童保育所ムーンチャイルドで、子供たちのお世話のボランティアだ。


 なお、俺は優月に襲われていただけだが、連座制で俺も駆り出されている。


「ちっ! 放課後は一心とあの部屋でしっぽり楽しみたかったのに」


 横でぶつくさ文句を言いながら、優月が子供たちのオヤツ用の食器を準備する。


「まぁ、たまにはいいじゃない。ほら、オヤツの、みたらしミルク白玉だよ」




「「「「わ~い!」」」」




 寝っ転がってマンガを読んだり、宿題をしていたりと自由時間を楽しんでいた子供たちが、テーブルの方に集まって来る。



「ひんやりして美味しい~」

「白玉とタレはまだあるから、おかわりしろよ~」


「おかわり~!」

「俺も~!」


「慌てて食べて喉に詰まらせるなよ~」


 注意しながら、行儀よく皿を持って並ぶ子供たちにおかわりをよそってやる。


「子供たちもバクバク食べてますね」

「たしかに、このみたらし白玉美味しいわね。七光りのくせにやるわね」


 いつの間にか、指導員の戸辺さんも楓さんも一緒になってオヤツの白玉にパクついている。


「でしょ? 一心の料理は最高なんだから。私のために、激辛料理も作ってくれるし、いい旦那さんになると思わない?」


「その点は、優月っちに同意かな~」

「って、なんで白玉さんも当たり前のように居るのよ!?」


 しれっと、道着姿の珠里が子供たちに交じって食べていた。


「ほら、道場主の娘としては、ちゃんと施設が適切に運営されてるか見守らないと」

「白玉さんが白玉を食べるなんて共食いじゃない」


「小学生男子みたいなことを言うね優月っちは」

「ハハハッ。ほら、優月も食べな」


 子供たちのおかわりも一息ついたので、俺も一緒に白玉をいただく。


 うん。美味しい。


「それにしても、随分とたくさんの白玉粉が届いたわね」

「学童保育所の欲しい物リストで公開してましたからね」


 楓さんの疑問に、俺はシレッと答える。


 本当は、俺が作りたかったから、セックスしないと出られない部屋の機能で注文した物なんだけど。


「このオーブンも、そういった寄付者の方から贈っていただいた物なんですよ。調理に、子供たちのプラ板工作に、大活躍です」


「不景気だなんだって言うけど、世の中には色々と気前のいい人が居るもんなのね」


「そうですねー」


 指導員の戸辺さん、楓さんと雑談していると、向こうで真実を知る優月と珠里が、ニヤニヤしながらこっちを見ている。


 なんだよ。俺のとぼけた演技が下手糞だったか?


「あ、そうだ篤志先生。今日は愚妹たちもいるし、アレの設営をしたらどうかしら?」


「そうですね。すいません皆さん。オヤツが終わったら手伝ってもらいたいことがあるんですが」


 楓さんが思いついたように提言したのを受けて、戸辺さんがお願いをしてくる。


「はい、いいですけど。何ですか?」

「大きい物なので、こっちに」


 そう言って、戸辺さんに案内されて俺たちは外へ出た。

 まぁ、室内に入らない大きな物という時点で、俺には何なのか察しがついていた。


「わ~、でっかい段ボール箱」

「中身は、家庭用プールです。といっても、欧米の家の庭にあるような巨大なタイプのですが」


 巨大段ボールの中身は、日本では某年会費制倉庫型スーパーでないと見かけないような、アメリカンサイズな巨大プールだった。


「たしかに道場と、この学童保育所の間には土の露地のスペースがあるから、このサイズのプールも置けますね」


「門下生の子供たちも使わせてもらえるって条件で、道場としてもプールの設置をOKしたんだ。水道代等は学童保育所と割り勘で」


 一足先に相談を受けていたらしい珠里が、すでに道場側からも敷地内にプールを設置する許可が出ている事を伝えてくれる。


「じゃあ、設置しますか。けど、このプールはデカすぎて空気入れで入れるタイプじゃないんですよね」


「デカすぎて空気式じゃ水圧に負けちゃうみたいだね。ほら愚妹、そっちのパネル持って」

「お姉ちゃんも手伝いなよ」


「ちっこい私がこの手の肉体労働で役に立つわけないだろうが。こちとら通常業務もあって、これから夏休みの気楽な学生とは違って忙しいんだ」

「この間までニートだったくせに、いっぱしの社会人マウントを仕掛けてきて偉そうに」


「あ? 何か言ったか愚妹」

「ほらほら。楓さんは、子供たちの面倒を見てください。妹さんは説明書を読み込んで指示をお願いします」


「は~い篤志先生」


 姉妹ケンカが勃発しかけていたが、楓さんの扱いにだいぶ慣れた戸辺さんのおかげで、事なきを得る。


 分担も決まり、各々作業を始める。


「説明書を読んで指示するだけだから楽だと思ったけど、英語でしか書いてないし、説明書のイラストが大雑把だから解りにくいわね」


「まずは、底面のパーツから組んでいくといいよ。部品はBからDのシリーズ。で、側板部分は地面に置いたまま組み終えてから、一気に底面部とドッキングさせる方が効率がいい」


 指示役の優月が付属の説明書を見ながらボヤくのを見て、俺が横から助言をする。


「なんだか、やけに具体的な指示ね一心」

「まぁ、俺は一回このプールを一人で分解してるからね……」


 戸辺さんや楓さんに聞こえないようにボソッと小さな声で答える。


「分解って?」

「ほら。あの部屋で注文した物って、注文したら即、完成した状態で設置されちゃうだろ?」


「うん」


「けど、今回はプールと言う性質上、セックスしないと出られない部屋の外に置く必要があったからさ。いきなりこの規模のプールが設置されたら、いくらなんでも不自然だからバラして現実世界に持ち帰る方式を取ったんだ」


「それはご苦労様。大変だったでしょ」

「おかげでこのプールの構造は全て把握したよ」


 なお、セックスしないと出られない部屋の物は原則的に持ち帰れない。


 ただし例外として、身に着けている衣服と手に触れている物については例外的に持ち出せるとの記述がマニュアルにあった。


現実世界に戻った時に素っ裸では差し障りがあるが故の設定項目なのだが、この設定を利用して今回、バラしたプールのパーツが入った段ボール箱に触れて、現実世界の学童保育所横へ帰還して持ち帰った次第である。


「それにしても、この規格のプールは普通に買うと送料も含めて50万円くらいするみたいだよ。気のいいお金持ちもいたもんだね」


「そっすねー」


「お姉ちゃん。子供たちの面倒を見るからって作業を外れてるのに、サボってるなら手伝ってよ」


 楓さんの疑問に棒読みの返事をする俺に対し、優月がさりげなく話題を逸らすフォローをしてくれる。


「しょうがないだろ。子供たちがワクワクして待ちきれないみたいだからさ」


 見ると、楓さんの後ろには子供たちが興味津々といった様子で、俺たちの作業を眺めている。


「これ、何メートルあるの~?」

「こんなに大きかったら、みんなで入れるね」


 学童保育の子供たちは、待ちきれないという様子で楓さんに話しかけている。


「え、これ俺たちも入れるの⁉ やったー!」

「夏の稽古の後は汗びっしょりで地獄だから、稽古終わりに入ったら最高だろうな」

「それいい! 絶対入りたい!」

「今度から、道着と一緒に水着も持ってこよ~」


 よく見ると、空手道場の幼年部の子供たちもヤンヤヤンヤと騒いでいる。

 子供たちの期待のまなざしが背中に刺さって痛い。


「あ、そう言えば、七光りボンボン。あんたが、この学童保育所を整備したんだって?」

「ええ、はい」


「この学童保育所なんだけど、夜中に『ここは、セックスしないと出られない部屋です。脱出するには、セックスをする必要があります』ってアナウンスが入るんだけど、アンタ、何か知らない?」


「ブフォッ! い、いえ、何も知らないです」


「そうそう。何故か日中は出ないんだけど、子供たちが帰った後の僕と楓さんだけが居る残業中だけ流れるので、今のところ実害はないですけど」


 と、戸辺さんも付け足す。


 セッ部屋の野郎!


 いたいけな子供たちの前では自重する紳士な所がありつつも、年頃の男女の時には容赦しねぇって訳か。


 せっかく、お前の事を紳士協定は守る奴だって、ちょっと見直したって言うのに。


「音響設備は何かの中古を調達したから、前の持ち主の入れたメッセージっすかねー」


「なんか、昔よく聞いたことがあるような気もするんだよね。不思議なんだけど」

「気のせいじゃないっすかー」


 その後も色々と楓さんに、迷惑放送について聞かれたが、俺は知らぬ存ぜぬを貫き通すのであった。

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