第39話 セッ部屋でやらかしたアヤメさん(笑)

【天界のアヤメ視点】


「ま~た、一心君の野郎は、セックスしないと出られない部屋を変な事に使いやがってですぅ」


 私にとってすっかり目の上のたんこぶになってしまった、一心君の様子を今日も今日とて天界から監視ですぅ。


 見たらイライラしてストレスですし、見なかったら何かしでかしていやしないか不安でストレスですぅ。


 ほんと、勘弁してほしいですぅ。


「なんで、セックスしないと出られない部屋を使って、保育所を運営してるんですかぁ⁉」


 何をどう考えたら、セックスしないと出られない部屋で、子供を育てようなんて言うエキセントリックな発想に至るんですか?


 しかも、上手い事運営出来ちゃってるし。


 っていうか、本来用途に使いやがれですぅ!


「その後は、ニート姉を閉じ込めて更生させてと。まぁ、単身で部屋にぶち込むっていうのは、余興的にはありかもですが、後半はひたすら小説書いてるだけですか」


 大して面白くないので、ダイジェストで記録を流し読みする。


 お、でもその後、例の学童保育所で働くんだ、このニート姉。不思議な縁があったもんですねぇ。


「まぁ、記憶処理とか、物品の管理についても最低限の偽装は施しているようなので、そこは一安心ですね」


 そう言いながら、私は監視の目を解く。


「何やってんだアヤメ?」


「のほっ!? カヤノ先輩お疲れ様です。いきなり話しかけないでくださいよぉ」


 指導係のカヤノ先輩から突然背後から声掛けされて、私の心拍数が上がる。


「わりぃわりぃ。で、何やってたんだ?」

「ちょっと、例の部屋案件のその後の確認ですぅ」


「ああ。アヤメが、記憶の消えてなかった参加者に追加の処置をしてくれたって件か。あの時は悪かったな」


「ですぅ……」


 カヤノ先輩の話に、私は歯切れの悪い返事をする。


 本当は、追加の記憶消去の処置なんてしてねぇのですぅ。っていうか、あの部屋の管理権限を奪われているので出来ないだけですが。


「それで、セックスしないと出られない部屋についてなんだけどさ。近々、また開催しろって、ゴッドオブゴッドからお達しがあった」



「ふぁっ!?」



 思わず私は素っ頓狂な声を上げてしまった。

な、なんで……次回から、そんなに期間が経ってねぇですぅ。


「ゴッドオブゴッドが最近ハマってるのかね。しかも、男性の参加者は、またしても豊島一心君の指名だとよ」


「なんですと!?」


 どういうことですぅ???


 前回の私の担当時と、その前のカヤノ先輩担当時から数え3連続で一心君が出場するですって!?


「ゴッドオブゴッドは、彼の事がよほどのお気に入りらしいな。新しいパターンを見せてくれるよう期待してるってお言葉だ」


「へ、へぇ~」


 興味なさげな言葉とは裏腹に、私の全身から滝のような汗が流れ出る。

 あと胃腸がキリキリとして、刺し込まれるような痛みが走る。


「うわっ、アヤメ。お前また女神化の後遺症状が出てるぞ」

「いつもの事なんで平気ですぅ。あ、ゴッドオブゴッドには、承知しましたとお伝えくださいですぅ」


「大丈夫か? しんどいなら、今回は私が担当を代わるように上に話しとくけど」


 優しいカヤノ先輩は後輩の私を慮ってくれますが、その優しさが今はむしろ、余計に滝汗と胃痛のタネですぅ。


 カヤノ先輩に任せたら、今までの諸々がバレてしまうですぅ。


「大丈夫ですぅ! 私、モリモリ元気ですし! セックスしないと出られない部屋の仕事にもやりがいを感じているのですぅ! だから、誠心誠意努める所存ですぅ!」


「そ、そうか。いや、アヤメがそんな女神の仕事に熱くなってくれて先輩として嬉しいよ」

「え、ええ。必ずや前回を越える催しを開いてみせるですぅ」


「解った。じゃあ、上にはそう伝えておく」


 心にもない仕事への熱意を示すと、カヤノ先輩は満足そうに去って行った。


 一先ずの危機は脱したと、私は執務椅子にへたり込むように身体を沈める。


 ふぅ……何とかバレる危機を脱し……。


「いや、ちょっと待つですぅ。何にも危機を脱してないですぅ!」


 こいつはヤベェですぅ。


 今の私には、セックスしないと出られない部屋の管理者権限は無いのですぅ。

 管理者ではないので、参加者をあの部屋に集めることすら、今の私にはままならない。


「開催はもう決まっている。けど、何もできずに当日を迎えたら……」


 神々がたくさん集まった前で、実は何も準備できていないことを謝罪する私。


 そして、芋づる式にバレる、セックスしないと出られない部屋の管理者権限を人間ごときに奪われていたという事実と、その隠匿。


 それらを、神々の前で怒り心頭のゴッドオブゴッドから説教される私。



「ウボオエッ!」



 考えただけで、吐きそうですぅ。


 そんなん、公開処刑もいいところですぅ。


 そんな負の伝説をこしらえたら、今後数千年経とうが、他の神々から『セックスしないと出られない部屋でやらかしたアヤメさん』と蔑まれる。


 神々には基本、定年退職が無い世界で、職場の人間関係はカチコチに硬直しているのですぅ。故に、やらかした奴は、一生やらかした人のレッテルを貼られる。


年月が経過し、仮に私にも後輩女神が出来ても、誰かから『アヤメは昔、セックスしないと出られない部屋の簡単な仕事でやらかしてな』とか教えられて、昨日まであんなに尊敬の眼差しで先輩の私を見てくれていた後輩が、翌日から蔑みの目で見るように……。



「いやぁぁぁぁああああ!」



 ダメだ。


 そんなクソみたいな未来は絶対回避しなければですぅ。



「こ、こうなったら奥の手を使うですぅ……」



 悲壮な決意を固めた私は、重い足と胃腸を引きずりながら、準備に取り掛かった。

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