第27話 学生らしくセッ部屋で勉強会
「う~~ん……」
「どうしたの一心、悩んで。おっぱい揉む?」
シャープペンを咥えながら数学の問題集に向き合っていると、隣の優月から邪魔が入る。
「大問2の導入に悩んでるだけだよ」
「ああ、それは微分で解いた方が早いわね。あ、でも高1の前期で使っちゃ駄目か~」
「び……微分?」
「一心、ここの和訳問題ミスってる」
「え、どこだ珠里?」
「ここは、~せずにはいられなかったって訳さないとダメだぜ。基本表現だから、ちゃんと訳さないと配点0だぜ」
「いや、ちょっと待て! なんで、俺が勉強教わってるの⁉」
「勉強中に大きな声出さないの一心」
「ここが図書室だったら追い出されてるぜ」
『ここは、セックスしないと出られない部屋です。脱出するには、セックスをする必要があります』
「このアナウンスは、相変わらず図ったようなタイミングで流れるな」
なんだこの部屋。
俺たちの会話に混じって来るなよ。
という訳で、俺と優月と珠里は、学生らしくセックスしないと出られない部屋で勉強会を開いていた。
「おい珠里。学校サボってて勉強が不安だからって言うから、勉強会しようって話だったのに、話が違うじゃねぇか」
俺は、ジトッとした目を、この企画の発案者であるテーブルの対面にいる珠里に向ける。
「いや、実際ここ2か月くらいはほとんど勉強してないから不安だったのは本当だから」
「珠里って、こんな頭良かったっけ? この高校、割とギリの成績で受かったって言ってたような」
「だって、この部屋で1年間くらい勉強してたからな」
「え、そうなの?」
珠里の回答は意外なものだった。
「うん。流石に、この部屋で四六時中、毎日毎日キスだけしてた訳じゃないぜ。娯楽の書籍は制限がかかってたけど、学習用の参考書は制限なくいくらでも入手できるようになってたから、しっかり自学自習で、もう高校1年の範囲の学習は一通り終わってるぜ」
「マジで!? え、俺は? ちゃんと勉強してなかったの?」
「いや。当時の一心は私より進度早くて、高2の範囲の単元まで終わらせて、私に勉強教えてくれてたぜ」
「あ、そうか! 俺、この部屋での記憶が消されてるから、勉強した内容も憶えてないのか!」
「ちなみに私は、この部屋に3年間いたから、高校の単元は全てきっちり終えてるわよ。高1の今の時点で、難関私立大学の過去問が解けるレベル」
「ちくしょう! なんで、俺の記憶消去だけはきっちり行われてるんだよ!」
この部屋での記憶が全て残っているという事は、当然、この部屋で培った知識も引き継いでいるという事になる。
つまり、珠里と優月は、現実の時間は1秒も使わずに、先取り学習を終えているという事だ。
こんなんチートじゃんか!
「とほほ……折角、珠里の遅れを取り戻させようと、授業ノートを頑張って整理したりしたのに」
「……一心ありがと。私のために。好き、む」
「はい! キス禁止!」
ナチュラルに流れるようにキスしようと珠里が俺の口元に顔を寄せた所を、優月のインターセプトが入る。
「ああ、ごめん。優月っちがいるの忘れてたぜ」
テヘペロしながら珠里が離れる。
「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわ。まぁ、勉強会名目で、ようやくこの部屋の出禁を一心から解いてもらえたから感謝してるけど」
「なんで、優月っちは出禁になってたの?」
「……それはノーコメント」
「まぁ、この部屋で勉強会するなら優月だけ仲間外れってのもな」
俺も、優月が催淫ガスを撒いた経緯について詳しくは説明したくないので、適当にぼかす。
後、優月とはこの間、家庭の事情に首を突っ込んでしまって気まずい感じになってしまっていた。
2人の間に漂う嫌な空気を払拭してしまいたいというのも、優月のこの部屋への出入りを解禁した理由の一つだ。
「一旦、休憩にしようか。何頼む??」
「私はアイスラテにべニーズのチョコブラウニーパフェ」
「私はアイスティーにイルフェボンのミックスフルーツタルトで」
「はいよ」
俺は、注文画面ウインドウを呼び出し、ササッと注文を済ませる。
すると、目の前のダイニングテーブルに注文したメニューが即時、現れる。
「ん~、静かで広々した空間で、おやつも自分の好きなメニューが瞬時に出てきて、本当に至れり尽くせりだよね」
「おまけに無料だしな」
「無料だからって食べ過ぎたら太るぞ」
嬉しそうに、パフェやフルーツタルトに舌鼓をうつ女性陣を笑って眺める。
今のこの部屋での設定は、摂取した栄養については普通に現実世界に引き継がれるようになっている。
「え~、食べても食べても太らない設定にしてよ一心」
「そういうことしてると、現実世界で満腹中枢がいかれちゃいそうだからダメだ」
「ケチ―」
「あ、そうだ一心。この間、道場に来た学童保育所の人についてなんだけどさ」
「あれか。どうなった?」
珠里の話を聞いて、俺はすぐに、先日、夏休みの学童保育所の臨時の場所を探していた、戸辺さんのことを思い出す。
「お父さんも何とかしてあげたいと思ったらしいんだけど、朝から夜までのほぼ1日中だから、さすがにその間、道場を学童保育所として貸し出すのは無理だからってことで断ったって」
「そうか……広さ的には申し分ないだろうが、仕方がないか」
夏休みなら、平日の日中は幼年部の稽古があるしな。
「今は使ってない旧道場の建物があるんだけど、あそこは流石に工事を入れないと無理だしね」
「あの、周りが草ボーボーの建物な」
「柱や梁はしっかりしてるから、耐震的な基準はクリアしてるんだけどね。いずれ門下生が増えたら、あそこを第二道場にしたいってお父さんは考えてるみたいだけど」
「さすがに、夏休みに貸す学童保育所のためにフルリフォームをするのはな」
費用面でもそうだが、リフォーム工事は1ケ月じゃ済まないだろうから、時間的にも夏休みが始まるまでには、とても工事が間に合わない。
「お父さんも悩んでる。なんか、学童指導員の戸辺さんに話を聞くと、夏休み明けから仮抑えした物件に絡んでる不動産屋さんが、あまり地元で評判良くない所らしくてね」
「そうなんだ。師範なら、男気でこれを機にリフォーム工事しちゃいそうだな」
「それは流石に、我が家が破産するから、お母さんに止められてた。どのみち、夏休みが始まるまでには工事が間に合わないし」
「「う~~~ん……」」
俺と珠里は腕を組んで考え込んでしまう。
夏休みに学童保育所が開けないとなると、多くのご家庭が困る。
おじいちゃんおばあちゃんの家に夏休み中は子供を滞在させてもらうか、或いは他の学童保育所へ移るか、それすら無理なら、最悪の場合、親が仕事を辞めなくてはいけなくなる可能性すらあり得る。
何とかしてあげたいが……。
「いっそ、このセックスしないと出られない部屋を使ったらどうかしら?」
横から話を聞いていた優月が、冗談半分に口を挟んできた。
「いや、優月。さすがに、この部屋を大っぴらにするのはマズいよ」
「でも、ここなら子供たちは喜ぶと思うわよ」
たしかに、広さも無限だし、物資だって潤沢に用意できる。
「けど、召喚とか記憶消去とか色々と……いや、待てよ……あの機能を組み合わせれば或いは……で、現地ではこうして……」
俺はブツブツと呟きながら、さっきまで数学の問題を解いていたノートに構想を書き出していく。
この部屋のネック。
召喚、現実世界の時間経過とのリンク、場所や空間の矛盾……矛盾を解消する場所。
「ひらめいた!」
「わ、ビックリした」
俺が急に大声を出したので、珠里がビックリする。
「珠里。戸辺さんの連絡先は解るか?」
「う、うん。お父さんが名刺もらってたから解ると思うけど」
「じゃあ、早速連絡しよう。悪い、勉強会はもうお開きでいいか?」
「何か思いついたみたいね一心。協力するから、何でも言って」
「ありがと優月。実はな……」
そう言って、俺は2人に頭の中で描いた計画を披露し、2人から快諾を得るのであった。
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