第15話 教師の説教くらいでセックスしたい欲は止まらない
「豊島。なんで放課後にわざわざ呼び出されたか分るか?」
放課後の化学準備室。
俺は、担任の先生から呼び出されていた。
「
「そうだな。試験の点数も問題ないし、授業態度は真面目だ。学外活動では、空手で表彰されたこともあったな」
「ええ。なので、帰(かえ)」
「そういう生徒ほど、いざ交際すると燃え上がっちゃうんだよな……はぁ、めんどくせぇ」
ぶつくさ言いながら、クラス担任で白衣を着た
「だから、誤解なんですってば!」
「性交を懇願する赤石を足蹴にしてたと、複数の生徒から目撃情報が寄せられてんだけど」
ジト―ッとした目で見てくる、足柄先生の視線が痛い。
「……いや、別に求めに応じてる訳じゃないですし問題ないじゃないですか」
「噂自体は否定しねぇのかよ……こんなん、絶対お前ら、影でやりまくってんじゃん……」
しまった、否定が弱かったか。
日頃からウソをつきなれていない弊害がここに。
確かに、そこを濁すと、半ば俺と優月がそういう関係だと認めてしまっているようなものだ。
「勘弁してくれよ、私のクラスで妊娠、カンパ、中退のコンボとか……私が、校長や教頭に吊るし上げくらって、査定もダウンじゃんか……」
頭を抱える足柄先生。
生徒に聞かせるべきでない愚痴が駄々洩れである。
「ちゃんと優月にも聞いてみてください」
「赤石の方は、今、
「千百合って、養護教諭の
高校で保健室のお世話になっていないのでよく知らないが、愛川先生はフェミニンな印象で、ニコニコ笑っている、小柄でお嬢様然としたいかにもな保健室の先生という印象だった。
「千百合はあれで、普段から女子からのエグイ
「わぁ……俺の聴取は足柄先生で良かったです」
「それ、私のこと馬鹿にしてんだろ、おい」
対して、我らが担任の足柄先生も化学教師なので白衣を着ているが、いつもヨレヨレで便所スリッパという隙だらけな格好。
同じ女教師なのに、まさしく愛川先生とは対極にある。
「話が通じない生徒指導の先生に詰問されるんじゃなくて良かったって事です。足柄先生なら話が通じるので」
「ふんっ、調子いいこと言いやがって。しかし、赤石と豊島とはな」
「まぁ、意外な組み合わせでしょうね。学外でちょっと関わりがありまして」
「ほぉ~ん。それにしては、赤石の方が随分と豊島に沼ってる印象だがな。まるで、長い時間をかけて愛を育んだみたいな空気感を、急に醸し出しはじめたというか」
「そ……そうですかね」
足柄先生の感想に、俺は適当に誤魔化した応答をする。
身だしなみはだらしないし、発言内容も緩い足柄先生だが、存外、生徒のことをよく見ている。
だから、こんなナリでも生徒たちに人気のある先生な訳だが。
「しかし、赤石が参戦したことで、こりゃあ、色んなパワーバランスが崩れるな」
「パワーバランス?」
「ああ、これはお前に聞かせるべき話じゃないな、忘れてくれ。じゃあ、今度からバレないようにしろよ。私の査定のために」
「そこは、教師として、そういう行為は絶対するなとコンコンと説教するもんじゃないんですか?」
「だって、お前らやるなって言っても、どうせやっちゃうじゃん」
「そこを言い切られても、俺としては何とも言えないんですが」
「教師の説諭ごときで思春期の性欲が収まりつくかよ。だったら、頭ごなしに否定するんじゃなくて、最低限の節度のラインを守らせた方がいいんだよ。豊島も赤石も、その辺が解ってないバカじゃねぇだろ」
これは、一応、俺たちのことを信頼してくれているという事なのだろうか。
「……解りました。上手い事やっときます」
「よし、じゃあ説諭終わり。あ~あ、この後は生徒指導記録書いたり、面倒くさい事務作業かぁ。千百合に手伝ってもらうかな」
「足柄先生って、愛川先生と仲良いですよね」
「まぁ、教員採用時の同期だからな。ほら、私はお前らのせいで無駄に仕事が増えて忙しいんだから、とっとと帰った帰った」
シッシッと手払いされ、俺は化学準備室を後にした。
そう言えば優月も今、保健室で愛川先生から説諭を受けてるんだよな。
同じ説教を受けた者同士、迎えに行ってやるかと俺は保健室に向かった。
◇◇◇◆◇◇◇
「あら、豊島君いらっしゃい。赤石さんなら、さっき化学準備室に行っちゃったわよ」
保健室に入ると、ホンワカ笑顔の養護教諭である愛川先生が出迎えてくれた。
「そうなんですか。すれ違いになっちゃったか」
「お互いがお互いを迎えに行っちゃうなんて、愛だねぇ」
「からかわないでください」
「こうやって、甘酸っぱい思春期高校生の恋愛を業務として覗き見れるから、この仕事ってホントやめられない」
フフフッと笑う愛川先生は、見た目は小柄で歳より幼く見えるが、経験豊富なお姉さんの余裕を醸し出している。
「じゃあ、玄関の方で優月を待ちます。もし、優月が保健室に戻ってきたら、俺は玄関の方にいると伝えてください」
「いいよ~」
言(こと)づけも出来たので、保健室自体に用事は無い俺は、退室しようとする。
「ちょっと、千百合ちゃん聞いてよ! 一心の奴が、また!」
ガラッとドアが開き、うるさいパッと見ギャルの女の子が勢いよく入室してくる。
「あらあら、白玉さん。どうしたの~?」
「ん、珠里?」
「あ……」
俺がいるとは思わなかったのだろう。
珠里は、保健室の引き戸扉を開けた状態で固まってしまう。
「今、俺がどうのって言ってたけど」
珠里が保健室に来たのは、俺に関する愚痴を言いに来たという事だろうか。
だとしたら、今は張本人の俺がいるのだから、結構気まずい状況だ。
「な……何でもねぇよバカ一心!」
そう叫ぶと、珠里はダダダ~!! と、保健室には入らずに、廊下を走って行ってしまった。
「おい、珠里!」
「はいスト~ップ。今の白玉さんに、豊島君を直接ぶつけるのはオーバーキルだから、養護教諭としてストップで~す」
俺は逃げ出した珠里を追いかけようとしたが、愛川先生に止められてしまう。
「オーバーキル?」
「白玉さんの心が、いっぱいいっぱいになっちゃうからね」
「……珠里って、何か悩みがあるんですか?」
「う~ん……生徒の相談事を、他の生徒に言う訳にはいかないんだ」
小動物系な見た目でニコニコした表情に反し、有無を言わさぬ迫力をまとう愛川先生を前に、俺はそれ以上、追求しても無駄であることを解らされる。
「そ、そうですよね、すいません。でも、俺、珠里とは昔馴染みで心配で」
「そうだね。けど、こればっかりは、白玉さんの心の中の問題なんだ。彼女は、私にも全てを話してくれている訳ではない感じがするし」
珠里が逃げ出した際に開けっ放しになっている保健室の扉を、愛川先生は少し寂し気な目で眺めながら、自嘲気味に笑った。
「だから、その時が来たら、豊島君は彼女を支えてあげてね」
「はい! 同門の昔馴染みのためなら、いくらでも!」
「う~ん、この感じだと、まだ無理かな」
意気込んだら、即座に愛川先生に戦力外を通告される。
大いに解せない。
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