第4話 幼馴染のお姉さんへの優越
「イッ君。両親が居ないからって、いくら何でも羽目を外し過ぎなんじゃないかな? お姉ちゃん悲しいです」
「あの……今日は琥珀姉ぇって、ファッション雑誌の撮影の日だったんじゃ?」
「今は静かに私の話を聞きなさい! イッ君!」
「はい……」
仁王立ちの幼馴染に正座させられお説教を受けつつ、チラリと琥珀姉ぇの方を見やる。
トレードマークである、毛先部分をレモンイエローに染めたサイド三つ編みのいつもの髪型だが、服装は雑誌の撮影で着るような煌びやかな物だ。
どうやら、撮影が終わって真っすぐに俺の家に突撃したようだ。
「私の大事な人に酷いことしないでください福原先輩!」
「貴女、たしかイッ君と同じクラスの赤石さんよね?」
ユラリと視線を優月に移した琥珀姉ぇが、矛先を変える。
「あら、福原先輩みたいな学内の有名人に知っていただいているなんて光栄ですぅ~」
口ではお世辞を言いつつも、ちっともリスペクトなんてしちゃいないのが丸わかりの口調で、優月が琥珀姉ぇを迎え撃つ。
「それで貴女、今日は学食でイッ君にいきなり抱き着いたそうじゃない」
あれ? 今日はモデルの仕事で学校はお休みのはずの琥珀姉ぇが、なんでそんな学内ニュースのことを知ってるんだ?
誰かが、琥珀姉ぇに情報を垂れ込んだな。
俺の頭の中に、容疑者の男の顔が浮かぶ。
「それが何か?」
「イッ君とはどういう関係なの?」
「それを福原先輩に言わなきゃいけない理由はなんです?」
「私は、留守中の両親に、イッ君のお世話を任されているからです! イッ君の両親とも昔からの付き合いですから! なぜなら私はイッ君の幼馴染だから!」
苛立ったように、琥珀姉ぇが幼馴染マウントを仕掛ける。
「ああ、そういえば福原先輩は一心の幼馴染なんですよね。ただの」
幼馴染マウントを物ともせずに逆に挑発しつつ、優月は俺の腕に自分の腕を絡める。
「んな⁉」
「幼馴染で、親代わりの福原先輩へのご挨拶が遅れてすいませ~ん。私、一心君とお互いの大事な物を交換しあった仲なんです。何の心配も要らないので、福原先輩は帰ってもらって結構ですよ」
「ちょ⁉ 優月!」
「え……そんな……だって……」
優月の爆弾発言に、またしても絶句し固まる琥珀姉ぇ。
「ちょっと優月。適当なこと言わないでよ」
「あら、一心。私の大事な物を奪っておいて、往生際が悪いわね。引き延ばしに入ったラブコメかしら? こういう時、男の子はどうするべきかしら?」
「うぐ……いや、でも俺にはその記憶が無いから」
痛いところを突いてくる。
こう言われてしまうと、例え記憶が無くても、男としては謎の罪悪感が湧いてきて無下にすることも出来ない。
「まぁ、確かに一心にとっては、やってもいない事の責任を取らされることになって、釈然としないでしょうね。いいわ、その辺の話は一旦は保留という形にしてあげる」
まるで裏金疑惑を掛けられた政治家の答弁のような俺の言い訳を、意外なことに優月は温情で汲み取ってくれた。
「あ、ありがとう」
「どちらにせよ、この人がいるんじゃ今日は貴方と結ばれるのは無理そうだし。ちゃんと次回、ムードを高めて仕切り直しましょうね」
優月が、未だ硬直している琥珀姉ぇを見やりながら、帰り支度をする。
しかし、俺と再度セックスすることは全然諦めてないんだね。
「じゃあね。あ、そう言えば一心の連絡先を教えて。まだ知らなかった」
「そう言えばそうだったね」
「フフッ。あの部屋にいる時には四六時中一緒だったから不要だったものね」
色々と順番がおかしいよなと俺も笑いながら、スマホ同士を突き合わせて連絡先の交換を済ませる。
「じゃあね、ん」
「うん、じゃあ」
「ん!」
優月が何やら、口元を尖らせて顎を上に向けている。
何だろう?
「え、なに?」
「察しが悪いわね」
と言うが早いか、優月が俺の頬にチュッとキスをする。
「じゃあね。夜にまた連絡する」
「う、うん……じゃあね……」
手を振りながら我が家の玄関から出ていく優月を、俺は半ば放心した状態で見送った。
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