ポイズンクッキング!~メシマズ嫁は異世界転生して最強の暗殺料理人になる~

勇者れべる1

ポイズンクッキング!~メシマズ嫁は異世界転生して最強の暗殺料理人になる~


「百合香、死ぬな!死なないでくれ!」


 ここはとある病院の病室。

 私は愛する夫に手を握られ病室のベットに横になっている。

 心拍は低下しており、今にも死にそうだ。

 私の名前は佐藤百合香、28歳。

 家事をなんでも?こなしモデル級の美貌と資産家の実家の莫大な財産を持ち、陸上のインターハイで優勝する程運動神経は良く、一流大学を出たバリバリの女社長、もといスーパー主婦だ。

 そんな私の唯一の欠点は「料理」だ。

 何を作っても黒焦げは当たり前で、湯煎するだけの物や冷凍食品、カップラーメンでさえ異次元級のまずさに変えてしまう。

 これは天が私に与えたもうた試練なのだろうか。

 私はお料理学校に通い専属の料理人にコーチもして貰い料理修行に励んだ。

 しかし私の料理は一層酷くなるばかり……やっぱり神の試練は厳しい!


「そんなんじゃないわよ」


 気が付くと私は何もない畳が一畳だけある不思議な空間にいた。

 天から聞き慣れない少女の声がする。

 ここはどこか気になるがそれよりも今は試練の話だ。


「え?」


「だからあなたはただの天性のメシマズだって事」


「そ、そんな……」


「でもあなたは十分恵まれてるじゃない。家に車にブランド物に夫も子供もいたじゃない」


「物なんていらないわ!家族だって一度も私の手料理で喜んでくれた事が無いの!」


「じゃあ私があなたの料理でみんなが喜ぶ様にしてあげる」


「え!?本当!?」


「ええ、本当よ。その為には異世界に転生して貰うけどね」


「わ、わかったわ」


「じゃあ了承も得たし、さっそく転生ね」


「え?きゃああああああ!」


 突如目の前が真っ暗になった私は気を失った。


「まあ料理を食べて喜ぶのは食べた本人じゃないけどねw」


 私は知らなかった、この天の声が性悪なイタズラ女神だった事に。


 ―異世界のとある王宮の厨房


「こ、ここは?」


 私は意識を取り戻し辺りを見回す。

 そして自分の姿を鏡の様に磨かれた床で見た。

 私は被っていたシェフ帽を取ると金髪のウェーブのかかった美しい髪で、ドレスではなくシェフの恰好をしていた。

 歳は20代前半位だろうか?端正な顔立ちで中々に美しい。

 私は忙しく周囲を歩き回っているシェフに声を掛ける。


「あの~、そこのあなた?私って誰かしら?」


 聞かれた銀色の短髪の青年は怪訝そうな顔をして答えた。


「それ俺の名を言ってみろ的な奴ですか?前もやりましたよね?」


 どうやら転生前の私は物凄く性格が悪かったらしい。

 私はニッコリ笑うと、不機嫌そうな青年に笑顔でお願いした。


「もう一度お願いできるかしら?最近物忘れが酷くって」


 青年はむすっとした声で私にこう言った。


「あなたはこの国の宮廷料理人のエスカリーナ様です。皆様にはエスカ様と呼ばれています。高貴な貴族の子女で、エリオット様と言う婚約者がいながらも、その驚異的な料理の腕前で国王陛下から直々に宮廷料理人を任せられています。はぁ、これでいいですか?」


 青年はまたかよ……といった感じで私にそう言った。

 何度言わせてるんだ……性格悪いな転生前の私。

 私はこほんと咳ばらいをすると現在の状況を確認した。

 異世界転生といえばチート能力であり、あの女神は料理で人を笑顔にできると言っていた。

 つまり私の夢だった「まともな料理」が作れるのである。

 私は厨房の器具に目を付けると料理を始めた。

 芥子の実、トリカブトと様々なレシピが頭の中に浮かんでくる。

 これこそ異世界転生のチート能力なのだろう。


「あ、あのエスカ様、料理の方は俺達がやりますからあなたは指示を出してください」


 アシスタントシェフの青年は私に遠慮がちに言う。

 しかし料理をまともにできるという喜びが私を暴走させていた。


「いいの、いいの。私には神のご加護が付いてるんだからね」


「何を冗談言ってるんですか!今日はエリオット様と国王陛下とお父様、お母様が、他にも高貴な貴族の方々が集まるんですよ?滅多な物はお出しできな―」


「だから私自らやるんでしょうが。あなたは黙ってまかないでも作ってなさい」


「はぁ……」


 アシスタントの青年はため息を付くと別の場所で調理を始めた。

 時折私の方をちらちら見て来る……私に気があるのかしら?

 私は愛する婚約者に、家族に、ついでに王様に、心を込めて料理を作った。

 そうして完成したのがこのフルコースである。


 小前菜からデザートまで完璧な品々だ。

 特にデザートのパイは王冠の形の絶品の出来で、セイボリー(甘くないタイプ)とスイーツタイプの二種類用意した。

 甘い物が苦手と言う国王に配慮しての逸品である。

 ピスタチオからマンゴー、サーモンから牛肉までこの国の品揃えには頭が下がる。

 パイは水分が多く出る為、空気穴を開け底にパンケーキを敷いた。

 これで生地が水分を吸ってべちゃべちゃにする事はない。

 私は渾身の一品を作った後はどっと疲労が出て部屋に戻る事にした。


「後は頼んだわよ、アシスタント君」


「エリックです、エスカ様」


「そうそうエリックね」


 私はエリックに軽く会釈するとふらつきながら部屋に戻った。

 彼の話ではその晩餐会に私も参加するらしいのだ。

 早くドレスに着替えなくては、と少し急ぎ足で部屋に戻った。


「やれやれ、エスカ様いつのまにこんな立派な物作れるようになったんだ?肝心の味は……やめておこう。しかしこれは大変な作業になるぞ……」


 このエリックの行動を見ていれば私は過ちを犯さなかったかもしれない。

 そして会食の時。


「おお、エスカリーナ。このパイは絶品であるな。瑞々しい果物を良く上手く調理した」


「ありがとうございます、お父様」


 異世界での私の父親がパイを絶賛する。


「この鹿肉のミートパイは格別だね。甘いのが苦手な私には最高だ」


「ありがとうございます、陛下」


 国王が私のパイを絶賛する。

 父も母も鼻が高いといった感じだ。

 そして残るは金髪イケメンの婚約者のエリオットだが、彼は小食で料理にあまり手を付けていない。

 代わりに食後酒に用意したピニャコラーダを口にした。

 ラムベースのカクテルで、ココナッツミルクやパイナップルジュースを合わせた、甘くてクリーミーな味わいが特徴の飲みやすい物だ。


「これはいいね、優しい味だ。気に入ったよ」


 エリオットは私に笑顔を向けそう言った。

 今回の晩餐会は大成功と言っていいだろう。

 こうして私は料理で人を喜ばすという楽しみを初めて噛みしめながらも、高揚しつつ部屋に戻った。


「ふう、今日は頑張ったわ」


 私が額の汗を拭っていると扉の開く音がした。

 その主の正体は婚約者のエリオットであった。


「やあ、エスカ。今日は凄かったね」


「それ程でもあるわ」


 自信満々に応える私にエリオットは一つリクエストを出した。


「紅茶をいれてくれないかい?名料理人さん」


「喜んで♪」


 私はポッドのお湯をメイドに用意させカップをお湯で温める。

 そのお湯を不要なボウルに捨てると茶越しに紅茶葉を入れ、蒸らした後注いだ。

 程よく温まったカップからは良い紅茶の香りが漂っている。


「では一口頂くとするか」


 エリオットが口を付けたその瞬間である。


「それを飲んじゃダメだ!」


 私の部屋に入って来たのはエリックだった。

 しかしもう遅い、エリオットはその紅茶を飲んでしまった。

 そしてそのまま床に倒れ込んでしまう。


「ああ、遅かった!」


「ど、どういう事なの?」


「約束したでしょうエスカ!平民料理人の僕が宮廷に入れるように取り計らう代わりに、僕があなたの代わりに隠れて料理を作るって!」


「へ?」


 つまりこういう事だ。

 転生前のエスカはエリックに影で代わりに作らせて自分はズルをしていたと。

 なんてセコイ奴なんだろうと私は思った。


「あなたの料理の腕は子供の頃から酷く、グルメなエリオット様を射止める為に幼馴染の私に影で作らせていたんですよ!?もう忘れたんですか?」


 転生の前の私もメシマズだったのか、親近感が湧く……いやそんなことよりも今はエリオットだ!

 私はエリオットに近付くが既に息はしていなかった……。


「そんな……幾らエスカの料理が酷いといっても死ぬ程では……」


 エリックは驚いていたが、私はもっと驚いていた。

 自分の料理が人を殺したのである、当然であろう。

 私は気が動転していてその「自分の入れた紅茶」を飲んだ。


「エスカ!」


 私はそのまま倒れ目の前が真っ暗になった。


 ―???


 ここはどこ?私は周囲を見渡すがそこは人気の無い屋根裏であった。

 そして目の前には一人の男がいた。


「あんた、プロやな───

 痕跡も残さんように大陸の珍しい毒草を使ってる───

 まあ俺が助けなかったら死んでたけどな───」


 どうやらこの怪しい男が助けてくれたらしい。

 いちいち間延びした様な喋り方が不気味だった。


「なんで私を助けたのよ!あのまま死なせて欲しかった!」


「ボスの意向や───

 俺の意志やない───」


「どうしてこんな事に……私は料理でみんなを笑顔に出来るはずなのに……」


 後悔の念で涙を流す私。

 あの女神の言った事は嘘だったのだろうか?


「できてるで───

 穏健派のリーダー殺せたからボスが大喜びや───」


「喜ぶって食べた人が喜ぶんじゃないの?」


「知らんがな───」


「ああ、もう!このまま戻っても私が疑われるだろうし、婚約も破棄よ!どうしたらいいの!?」


「じゃあ、うち来るか───」


「へ?」


「お前の毒殺料理の才能はピカイチや───

 ボスも褒めてたしな───」


 ここまで追い詰められて私はもう色々吹っ切れた。

 なってやろうじゃない!最強の料理暗殺者に!


「俺の飯は作るなよ───」


「わかってるわよ!」


 こうして最強の暗殺料理人が誕生した。






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