3話



電話が鳴る。

トゥルートゥルー


美咲からの着信だった。

「お母さん?もう着くよ!お父さんもどうしてる?」


「お父さん、ちょっと前に出掛けてたけど、もうすぐ帰ってくるわよ」


「ちょっと、なにそれ?まぁいいか!」


美咲からの電話から間もなくして、家の駐車場に車が入ってくるのが見えた。


鏡に向かって身なりのチャックをする。

いやだ、少し皺増えてない?

こんな所に白髪も!


それよりも美咲が連れてくる人ってどんな人かしら?

可愛い系かしら?

もしかして、がっしり系?



このままいくと、よからぬ想像が膨らんでいきそうなので、深呼吸をして呼吸を整えた。



ガチャッ


玄関の扉が開いた。



「ただいまー」

「おかえりなさい」

玄関へ向かうと、美咲がなんだか恥ずかしげな表情を浮かべ入ってきた。


「ほらっ健太も入って」

「はじめまして、木下健太と言います。お邪魔します!」

「木下健太さん?健太さんでもいいかしら?さぁさぁ上がって!」


娘が連れてきた男性が自分の予想を超えるようなイケメンで少し照れるように言った。


美咲は、母に尋ねる。



「お父さんって何時に帰ってくるの?」

「何時だろう、そんなに遠く行ってないはずだと思うけど」


「お父さんに電話してみれば?」

美咲は、父の不在のままでまともに挨拶も進められないと考えていた。


母に促した。

スマホを手に取ると、勲の番号を鳴らした。



トゥルートゥルー



近くで着信の音がした。

勲のカバンから鳴っていた。



「まただわ」

「えっ?お父さんスマホ持ってて無いじゃん」

「前に言ってたのよ。『こういう若いもんが使うもんは、イマイチよく分からん』って」


「何それ?スマホを持ってる意味ないじゃん」


「まぁ、その内に帰ってくるでしょ!まぁ、それよりも特上のお寿司を頼んでおいたから、まぁ先に食べちゃいましょう!」


「まぁ…そうだね。お父さんいないけど、その内に帰ってくるだろし。」


「えっ、いいんですかね?」


健太は、家の主人が不在のままでいいものかと当惑していた。


「全然、大丈夫だから。健太さんは、気にしないで。お父さんには、美咲たちがお昼に来るって事は、伝えてあるから」


初めて訪れる家で緊張している健太にを気を遣わせないようにしていた。


「そうなんですね」

「お昼に戻ってこない、お父さんが悪い。健太は、全然気にしてなくていいから」



「あっ箸が無いわね」

京子が言う。


席を立ち、お勝手に割り箸を取りに行った。


お昼には戻ってきて!言ったのに

美咲たちもわざわざ遠くから来てるのよ

本当にどこいるかしら…


勲のいい加減さに少しだけ腹を立てていた。




箸を手に戻ると、美咲と健太が仲睦まじくしている姿に微笑ましく感じていた。


「健太さんは、お仕事何されている方なの?」

「仕事は、出版社に勤めてます」

「そうなの?本とかがお好きなの?」

「そうですね。入ったきっかけも自分の父親が読書家でその影響もあってから小さい頃から本を読むようになって、いつかは本を作ってみたいなって」


「なかなか素晴らしいですね」

「お母さん、なんだか会社の面接みたいになってるよ」

美咲が母親と健太の会話に割り込む。


「あら、いけない。ごめんなさいね。つい健太さんがどんな人か知りたくて」

「いえいえ、全然気にしないで質問してください」


「それよりも大事な話があったんじゃないの?」

「そうだけど、お父さんがいた方がいいかなと思ったけど…」

「また、後で話せばいいじゃない」


美咲がいつまで言えずにいる事で心苦しいそうにしている気持ちを解きほぐそうとしていた。



健太が食事している手を止めて、身なりを整える。


「お母さん、娘さん、いえ美咲さんを僕に下さい!」



お父さん、早く帰ってこないからよ

京子は、自分の娘にこんな日が来る事を待ち続けていたのだ。


それもあってか

感極まっていた。


しくっ

しくっ


「ちょっと、お母さん。まだ早いって」

「ごめんなさいね。美咲にこんなに日が来たのが嬉しくてね」

「もう、お母さんは本当に涙脆いんだから」

「2人ともおめでとう」


「それともう一つ報告する事があって…」

美咲は、母の気持ちがこれ以上に昂らないように慎重に言った。




目と目が合う。

美咲が小さく笑い返した。



「もう一つって?」

少しだけ大人びた表情を見せる娘に聞いた。


美咲は、小さく深呼吸をし、話し始めた。


「実はね……」

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