38話

 榮騏えいき桃佳とうけい玄龍祠げんりゅうしのある場所を知っているという蒙蒙モンモンを紹介した。

 しかし彼女はかつては妖怪で、榮騏の伏妖戟ふくようげきによって半分人間の姿となった”半妖”だった。


 子瑞しずいらはその奇怪な姿を見て、背筋がぎょっとするくらい驚愕した。

 蒙蒙モンモンから桃佳は玄龍祠の場所を教えてもらったが、そこが人間には辿り着くのが難しいところにあると言われ、不安が募った。


 そのような中、張り切っている榮騏が子瑞ら三人に声を上げる。


「さあ!お前ら修業を始めっぞ!」

「まずは何をするんだよ?」


 意気揚々にテンションを上げている榮騏に対して昌信しょうしんは、今まで彼が具体的な修行法を教えてもらっていなかったので、そのことについて切り出す。


「昌信いい質問だ。まずお前ら胡坐をかいて座れ」

「えっ、何故だ?」

「ああ。これから“周天法しゅうてんほう”をするのだな」


 桃佳は榮騏から言われたことに疑問を抱きながら、その場に座り胡坐をかいた。それに対して子瑞は自分たちが“周天法”をするのだと理解したようだ。


 子瑞が“周天法”をすると気付いても、桃佳と昌信にとってそれが何をするのか、なぜそれをしなければいけないのか理解できなかった。


「おッ!子瑞、よく分かったな。さすがこの国の王だ」

「と言っても、余がそれをするのは母上が崩御するずっと前のことだが。すっかりどういうことをするのか忘れてしまった」

「へぇ、子瑞はそんなこと知ってたのか」


 昌信は子瑞が国王たるものそれを知っていることに感心した。とはいえ当の本人も、ずっと昔にしかその“周天法”なるものをしていないので、やり方自体を憶えているわけではなさそうだ。

 しかし、蒙蒙モンモンはこの場で、その様子を見ているだけだった。


「ちょっと蒙蒙モンモン、あんたは何で座らないの?」

蒙蒙モンモンは半妖だから“周天法”をする必要はないのだ」


 地面の上で胡坐をかいたまま、何をするのか自分に分からない桃佳は、もどかしくなった。


「あのさぁ、こんな地べたにわざわざ胡坐かいてまで座ったんだけど、何すればいいわけ?」

「まず俺がするように手を組んで、目をつぶって意識を集中しろ」


 そう言った榮騏が模範として手を組んだ。それが桃佳も昌信も幻世げんせで見たことある座禅をする際のように、両手の人差し指と親指どうしを付けて楕円形の輪をつくるように組んでいた。


 桃佳らも榮騏がした通りのやり方で手を組み、目をつぶった。


「よし、いいな。まずは”導引どういん”だ。次は息を口で吸って空気中に漂う“流気りゅうき”を取り込むんだ。」

「何、その“流気”って?」

「昨日、榮騏が言っていた、冬亥国とうがいこく黒智宮こくちきゅう鳳凰殿ほうおうでん内にある“流気源りゅうきげん”の“辰星泉しんせいせん”からそれが流れているんだ。あとこの自然界の空気中にも流気は存在する」


 子瑞が言ったように桃佳と昌信は、昨日榮騏からその“流気源”からの“流気”が、この四鵬神界しほうしんかいのエネルギーとして、各四鵬国しほうこくの“流気源”からの”流気”が、国から国へと循環していることを説明してもらったことを思い出した。


 桃佳らは榮騏に言われた通りに口を置きく開け空気を吸うと、何か味がせず水のような感覚のある空気が口の中に入った。


「どうだ?”導引”で流気取り込めたか?何か味がせず水のような感覚のある空気が流気だ。そしてら、”導引”した流気が口から下に向かってそれが体の前面の正中線上を通っていくのがわかるだろ?その通っていく脈のことを“任脈にんみゃく”と言うんだ」


 その空気を飲み込み”導引”をすると、それ身体の前面の中心を口から首をつたい、胸椎へと更に下へと向かって熱がこもって何かが流れていくのを感じた。


「ああ!本当だ。”導引”で流気を取り込めたから、何か口か下に何か降りていっているみたい!」

「おお!よく出来たな。そのまま意識を集中させ”導引”を続けて流気を取り込むんだ。そしてそれが任脈を通って下り、胸元からそして更に下って、臍下の臍下丹田せいかたんでんに至るはずだ」


 桃佳らが取り込んだ流気が胸元、その次に臍の下までに下りて来たのか、その順番通りにそこがうずくほど熱くなり、そこに集中して力が湧いてくるのを感じた。


「そして臍下丹田に力を入れて、意識と呼吸をふいごとして、そこに力を込めるんだ」


 そして桃佳らは、榮騏が言ったように臍下にあると言う臍下丹田に集中して力を込めた。

 すると、そこに焼きごてを当てられたように熱くなり、その熱量が体内に入っていく感覚となった。

 

 それは身体をそこを突きさされ、その下を縦に真っ二つに斬られたか思ったが、その斬り口に沿って激流のように流気がほとばしるのを感じた。


「んんっっ、ぐぐぐぐ……ああっ!!何か私、力がみなぎってきた!」

「ちょ、桃佳お前力入れすぎだろ。でも本当にこんなことが出来るんだな!」

「おお!お前らやるな。そしたらそこに力を込めて流気が会陰えいんに流れ、そこから"督脈とくみゃく"となって尾てい骨を通して背面に流れるんだ。そして脊骨に沿って上に流気が流れていく」


 すると彼女らはそこから流気が凄まじい力で、下へと流れていくのを感じて、更にそれが背面に流れていくのが分かった。


 今度は、後ろから尾骨から上に斬られたように流気が背骨から上昇して行き、やがて頭頂部に辿り着いた。


「こうやって、流気が督脈が頭の上の百会ひゃくえに昇って、それが前面の正中線に流れて今度は下り眉間、そして口へと督脈が続き、口から息を吸い込んで流気を取り込み続けることでその下の任脈へと循環する。これが周天法の一通りの流れだ」


 頭頂部の百会から口へと流気が下りて行く様子は、頭上から斬り下ろされて、すぐさまその切り切り口をたどって上から下の臍下丹田へと流気が流れていくのを感じた。


 そして、流気を口から吸い取り続け、何度も頭上から斬り下げ、背面を斬り上げられるという過程が繰り返されるように任脈と督脈とを何回も循環していった。


 その様子を桃佳らは実感し、体が熱くなっていき臍下丹田を中心とした五体の端から端まで流気が巡り回る。

 それは、身体をじっとできないくらいの激しさで胡坐をかいたままの状態でも血気盛んに力が湧き上がった。

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