34話

 子瑞しずいらは、榮騏えいきからこの四鵬神界しほうしんかいの成り立ち、そして彼がここ石者山せきしゃざんに21年前から移り住んだ理由が説明され、それを理解した。


 どうやら魁瑠カイルの件については、子瑞は母王甄祥しんしょうから聞いておらず初耳だったのか、顔から驚きと焦りの色を隠せずにいた。


 そして、榮騏は念を押して確かめる。


「今俺が話したこと聞いて、分かっただろ?伯黎はくれいはお前の母ちゃんが鵬主ほうしゅだった時から付いていたからな。それでそいつはもちろん、魁瑠もお前の母ちゃんに逆らわなかった――――いや、魁瑠に至っては伯黎がそうさせないようにしたのだろう」

「要するに、伯黎も魁瑠も母上には逆らわなかったが、どちらにしろその時点でも陰昇玉いんしょうぎょくを魁瑠に盗ませることは出来たのだということだな。確かに伯黎は気術士だから、それを知っていてもおかしくはないだろうな」


 子瑞は、伯黎が母王甄祥に篤く従順していたので逆らわなかったが、その当時から今回と同じ手段を取ることが出来たのだと理解した。


 桃佳とうけい昌信しょうしんも榮騏の話を聞いて、以前子瑞から聞いた話と合わせて、犯人が伯黎と魁瑠らで間違いないということもうなずけた。


「伯黎が妹王派まいおうはに着いたと思いきや、彼が王位を簒奪をしたというのは、余が王であることに異を唱えていたのか……母上の遺言で王に就いたが、余の父が誰か分からず、正当な血筋ではないからだと思う」

「そんなこと言うなよ、子瑞。だが伯黎がお前から王位を簒奪したと言う理由は俺にも分らぬし、陰昇玉を奪うことを魁瑠に出来たということが理解出来ん」


 子瑞は伯黎が自分には従わず、王位を簒奪したことを嘆き、そのせいで彼は、顔をうつむけて眉間にしわを寄せ、怪訝な顔つきとなった。

 それで榮騏は、彼が自分が簒奪されてもおかしくないのだと、弱音を吐いていることに対して気にかけた。


 さすがに榮騏も、伯黎が何を動機に、何のために魁瑠に陰昇玉を盗ませたのかまでは分からなかった。

 それに、王以外の者である魁瑠が召宝庫しょうほうこの結界を解くことが出来るのかが不明瞭なままだった。


「伯黎の腰巾着の魁瑠が、召宝庫の王しか解けぬ結界を解くことが出来たのだからな。魁瑠の陰昇器いんしょうきの大剣がそいつの手に渡っていれば、お前が王位についた途端にそれを使って、いつ反逆を起こしてもおかしくは無い」

「ところでさぁ、アンタはあの大剣を使わないの?」


 榮騏は棚に掛けた大剣を魁瑠から奪い取った理由を述べると、桃佳はその大剣を指差して榮騏に尋ねる。


「あぁ、あれは俺には使えねぇんだ。この大剣を召喚した魁瑠本人しか、鞘を抜くことが出来ない……あッ!もしかすると――――」


 何かを思い出したかのような発言をした榮騏は、子瑞が小脇に抱えている直径1尺半(34.5cm)の黒曜石で出来た陽招鏡ようしょうきょうに目が入った。

 榮騏のそれを見たことを、子瑞は気づいた。


「どうしたのだ?」

「そうか!昌信、お前陽招士ようしょうしだったと言ってたな!」

「そうだ。余がこの陽招鏡で幻世から召喚したんだ」


 子瑞がそう主張すると、榮騏は目を丸くして驚いた。この時点でやっと、彼が持っているのが陽招鏡でであることに気づいたのだった。


「昌信!お前は陽招士として子瑞が持っている陽招鏡で召喚されたのか。はっはっは!じゃあ、お前なら出来るぞ」

「なっ、何がだよ!?」


 榮騏が主語を言わなかったので、昌信は彼が何を言いたかったかが解るはずがなかった。

 すると子瑞が、榮騏の発言を聞いてその主旨を汲み取れたようだ。


「昌信は陽招士だったな。先も榮騏が言っていたが、陰昇士の魁瑠が陽招鏡に陰昇玉を映してその陰昇器いんしょうきの大剣がそこから現れた。そしてこの大剣を陰昇玉と同じようにすれば、お主しか使えぬ陽招器ようしょうきが出てくるはずだ!」

「そういうことだ。さぁさぁ、この大剣をお前に渡すから、子瑞も陽招鏡も渡してやれ」

「――――あぁ……んなあッ!?」


  榮騏が棚にかけていた大剣をいつの間にか手にしていて、それを昌信に向かって投げてしまうと、その勢いに押されたながらも、なんとか受け取ることが出来た。

 その時昌信は、子瑞から陽招鏡を受け取ろうとしていた矢先の出来事だった。


「うああァァ!?俺にその大剣を投げつけるなよ!俺を殺す気か!」

「はっはっは!悪かった。でも鞘は抜けねぇから安心しろ」

「榮騏!お主は危なっかしいにもほどがあるぞ!ほら昌信、陽招鏡だ」


 自分の身の危険を知らずに榮騏が大剣を投げたので、昌信は彼を横目でねめつけて、右にいる子瑞の方に向き直った。

 気を取り直した昌信は、子瑞から陽招鏡を受け取ると、先ほど受け取った大剣を持つ。


 すると昌信が、陽招鏡に大剣を映した途端、紫黒の閃光がそれらから放たれた。やがて鏡面が波打ち始め、何やら太い棒のようなものがゆっくりと出てきた。


 その太い棒は鋼鉄で出来ており、全てそれが陽招鏡から出てしまうと、長さが4尺(92cm)ほどあった。


 昌信は陽招鏡を子瑞に、大剣を榮騏に渡した。


 大剣を受け取った榮騏は、何かそれに異変が起きていないか確認した。しかし、何も変わったことは無く、いまだに鞘が抜けないままだった。


 そして昌信は、改めて卓子テーブルに置いた陽招鏡から出てきた棒が、どういう武器なのか分からないまま、まじまじと見つめる。


「こ、これが武器……陽招器なのか?」

「俺にも分らぬがとりあえず昌信、お前が手に取ってみろよ」


 このような鋼鉄で出来た棒のどこが武器なのか昌信は分からなかったが、榮騏に言われるがまま彼はその棒を恐る恐る両手で掴んだ。


 するとその瞬間、棒がまばゆい光を放ったと思いきや、その端から1尺半(34.5cm)の槍の穂先のような黒曜石で出来た刃が、根元に紫黒の房を付けて生えた。

 どうやら、陽招鏡から出てきたときはただの棒だったが、それは槍の柄のようだった。

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