30話

 それは往古の昔、6443年前のことだった。それまで荒ぶる悪神蚩尤しゆうとその眷属の妖怪の巣窟と化した。


 現在の四鵬神界しほうしんかい、かつての鳳凰神界ほうおうしんかい、と幻世げんせの間にある仙空界せんくうかい玉帝ぎょくてい北辰聖君ほくしんせいくうは、鳳凰神界を跋扈ばっこする蚩尤に頭を抱えていた。


 そして彼らは、蚩尤とその眷属の妖怪を駆逐するために意を決して行動を起こしたのだった。


 北辰聖君は太陽に棲むという金色の三本足の烏である金烏きんうと、月に棲むという玉兎ぎょくとに働きかけ、太陽と月を重ね合わせさせた。


 すると、太陽と月が一つに合わさった途端、金色の一輪の輪となった。すなわち、金合きんごう(金環日食)が起きたのである。


 この金合によって、辰星しんせい(水星)、螢惑けいこく(火星)、歳星さいせい(木星)、太白たいはく(金星)、鎮星ちんせい(土星)の各五星からそれぞれ隕石がこの世界に落とされた。


 それらが鳳凰神界の北に辰星からの隕石で水徳の辰星泉しんせいせん、南に螢惑からの隕石で火徳の螢惑炎けいこくえん、東に歳星からの隕石で木徳の歳星樹さいせいじゅ、西に太白からの隕石で金徳の太白鉱たいはくこうの4つの流気源りゅうきげんが出来た。


 そして中央の鳳山高原に他の4つの流気源からの流気が集まって、そこに鎮星から隕石を落ちて土徳の流気源の鎮星壌ちんせいじょうが出来た。

 これで陰陽五行における木火土金水、五徳の流気源が揃った。


 更に玉帝が辰星泉から玄龍げんりゅう、歳星樹から蒼龍そうりゅう、螢惑炎から紅龍こうりゅう、太白鉱から銀龍ぎんりゅうをその流気を使って生み出した。


 それら四体の龍王が鎮星壌に集まり、そして翼の生えた龍である応龍おうりゅうが産まれた。

 これで五龍王が揃ったのである。


 更に応龍がつがいの鳳凰、鳳皇ほうこう凰后おうごうを産んで金色に煌めく金龍きんりゅうとなった。


 そして、それらが蚩尤とその眷属の妖怪を土に変えた。それが人間となりこの鳳凰神界を創造した。


 しかし金龍は蚩尤とその眷属を人間に変えた途端、応龍に戻ってしまった。そして応龍を含む五龍王、更に金烏と玉兎の魂が、桃佳らがいた世界に転生してしまった。

 それで鳳凰神界から見てその世界のことを、それらがいる“幻”の“世界“という意味で『幻世げんせ』と呼ばれるようになった。


 鳳皇と凰后は鳳凰神界に降臨し人間の姿となり。その世界に鳳王朝ほうおうちょうを作り上げ、それぞれ皇帝・皇后となった。


 次に鳳皇と凰后が子息きょうだいが四鵬領の流気源の流気によって、辰星泉から紫黒の鵬の幽昌ゆうしょう、螢惑炎から赤い鵬の焦明しょうめい、歳星樹から青い鵬の發明はつめい、太白鉱から白い鵬の鷫鸘しゅくそうが産まれた。


 彼らは人間の姿になって、各四鵬領の鵬主となり、現在の四鵬国王となる。

 そのうち、皓然の母で、先の冬亥国王泉甄祥せんしんしょうはこの時、紫黒の鵬である幽昌として現れた後、人間の姿に変わったのである。


 それに金烏と玉兎、そして応龍を含めたの五龍王は魂が幻世に転生した。五龍王のうち応龍は鳳山高原に、それ以外は各四鵬領にそれらの石化した肉体が石像として龍王祠りゅうおうしとして残ったのだった。


 その際に北辰聖君が、6443年後の鳳凰暦6444年までに金烏と玉兎を転移させなければ、陽裂が起きて、天魔てんまの群れによってこの世界が崩壊すると鳳皇と凰后に預言した。


 そして北辰聖君はそれを防ぐために、転生した金烏と玉兎の生まれ変わりを召喚させてなければいけないと鳳皇と凰后に警告したのだった。


 幻世から転生した彼らを召喚するために、両極器りょうきょくきである陽招鏡ようしょうきょう陰昇玉いんしょうぎょくを鳳皇と凰后に託した。


 現在の四鵬国にある両極器は、陽裂寸前に各四鵬国王にその国を象徴する鉱物でつくられ、鳳皇と凰后の物からそれに宿る呪を分け与えて出来たものだった。


 次に北辰聖君が、玉帝に6443年後に鳳凰神界が崩壊すると伝えると、今度は玉帝が幻世に転生した五龍王の生まれ変わりを、玉龍を使って召喚するように要請していると鳳皇と凰后に告げた。


 更に彼は、五龍王の生まれ変わりに彼らに龍王祠に向かわせ、覚龍珠かくりゅうしゅが付いた覚龍杖かくりゅうじょうを渡して、彼らの体に眠る各五龍王の魂をその肉体であるその像に魂を注いで石像に当てて甦らせるよう彼らに命じているとも告げた。

 彼ら五龍王の生まれ変わりを龍召士りゅうしょうしという。


 現在の四鵬国と、かつての鳳王朝の王宮には鳳皇と凰后の像を祀る鳳凰廟ほうおうびょうがあり、さらにその中に流気源の力によるものでそれも陰陽五行に対応した五徳の力を源にしている。


 それらの流気源からの流気が木徳の次に火徳、その次に土徳、その次に金徳、その次に水徳、そしてその次にまた木徳というふうに循環して、五行相生そうせいとなる。

 このように、かつての鳳王朝はこの五つの流気源が一つとなって成り立っていくのであった。


 しかし、21年前の鳳凰暦6444年7月1日に突如として、この鳳凰神界にて起こらざるべきことが起きてしまう。

 それは太陽が闇に隠れた思いきや、そうではなく太陽がその闇によって裂ける現象が突如起こった

 これを”陽裂ようれつ”と呼び、それによって二体の巨大な”天魔てんま”と呼ばれる異形の輩が表れた。

 彼らは”ライトウ”と“ケイゴウ”と呼ばれ、彼らに加えその眷属の天魔の群れがそれとともに現れた。


 それにより鳳王朝の王宮、信黄宮しんおうきゅうがある鳳都、敖宮ごうきゅうを含む鳳山高原は、“ライトウ”と“ケイゴウ”らの天魔によっては壊滅した。  


 そのため、鎮星壌がある信黄宮の鳳凰廟どころか敖宮を含むその周囲の直轄地、司隷しれいである鳳山高原全体が廃墟と化した。


 こうして彼らの猛攻に耐えられず、鳳皇と凰后は天へと昇天した。すなわち崩御したのである。


 しかしその寸前に鳳山高原から暴風が吹き荒れ、それが鳳凰神界全土に及びかねなかった。

 彼らはその被害を収めるために結界を張って、その範囲内のみで被害を食い止めることが出来た。


 鳳皇と凰后は崩御したため鳳王朝は崩壊し、各四鵬領は四鵬国として4カ国に分裂して鳳凰神界は四鵬神界となった。


 鎮星壌が役目を果たせなくなったため、五徳の流気が生滅衰盛し、天地万物が循環出来なくなり、各四鵬国の流気源の流気の量も衰えてしまった。そのため妖怪が跋扈し、災害や流行病が絶えなくなり、極悪人が増えて治安が悪化した。


 それで、欠けた鳳王朝の流気である土の流気源の鎮星壌を復活させ、ライトウとケイゴウから鳳山高原を奪還して鳳王朝の再興が使命となった。


 しかし冬亥国ではそれどころでは無く、皓然が海伯黎かいはくれいに簒奪されたのである。


 そのため桃佳達が立ち寄った趙蕭ちょうしょうのように浮浪者が溢れ、住人らも正気を失ったかのようにやつれてしまい、街全体が活気を失っていた。


 この現象は、王以外の者である伯黎が陰昇玉いんしょうぎょくを使ったことで、辰星泉から出る流気が陰と陽との均衡が取れなくなり、陰の流気が優勢となってしまい、この冬亥国が衰えたのだった。


 これは冬亥国だけの問題だけで無く、辰星泉からの陽の流気より陰のそれが優勢となってしまった。

 それが各四鵬神界に五行相生してしまうことにより、四鵬神界全体が冬亥国と同じようになり、陽裂が起きた時よりも、更に悪影響を及ぼすのであった。

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