21話
その現象が青天の霹靂のごとく突如起こり、その裂け目から眼球に刺さるように妖光が放射状に飛び交い、”
“陽裂”により、6443年続いた
そして、鳳皇と凰后の子息4きょうだいが
かくして、四鵬神界の北方の旧
この”陽裂”による鳳王朝の崩壊後に改暦し、鳳凰暦6444年から四鵬暦元年とした。
しかし四鵬国王は、彼らの両親である鳳皇と凰后の崩御により、これまで不老不死だった肉体も、不死ではなくなってしまった。そのため、後継者となる子孫を残さなければなくなった。
そのため甄祥は、冬亥国王として王族の血を絶やさなければいけなかった。この時点で東方の
そのうち彼の次男で甄祥の甥に当たる
四鵬暦2年、甄祥と蒯慎が婚姻の儀を済ませて、彼は正式に甄祥の夫――――すなわち、女王の配偶者である王配となった。
それに伴い、甄祥はまだこの時まだ2歳にも満たない
それは、彼女の切望で物心つかない子瑞に蒯慎を父だと認識させるためだった。
すると、彼は自身が得意とする気術を発揮したいがためにそれを了承した。
伯黎は榮騏の妻の元へ官を赴かせて、彼女に榮騏の部下が子瑞を親戚の養子に出すことになったので引き取りたいと偽って子瑞を引き取った。
そして子瑞が引き取られると、自分を出産した場所である幻術で生みだした空間で、甄祥の産婆を務めた時と別の女官が王宮を出ることになったと偽って彼を育て、子瑞と二人で住むこととなった。
しかも、その女官には子瑞の母は甄祥であることを知らせずに。
そこへは伯黎、そして両親となる甄祥と蒯慎のみが入るための呪文を知ることが許されなかった。
――――もちろん、子瑞の存在も含めて。
そして子瑞が引き取られると、自身を出産した場所である幻術で生みだした空間で、侍女に育てられた。
改めて子瑞の父となった蒯慎は自身が彼の実父ではなく、血縁関係で言えば従兄弟であることが気がかりで、あまり彼の父親として振る舞うことを好ましく思ってなかった。
それでも子瑞は蒯慎のことを父親のように慕い、自分に両親がいることが分かりとても喜んでいた。
やがて、甄祥と蒯慎との間に子が身籠り、蒯慎がそれまで王配として彼女の代わりに
そして遂に、翌四鵬暦3年に甄祥の長女として
次期女王となる萊珠は母譲りの緩やかな癖のついた紫黒の長い髪――――そして、それが毛先に行くほど父親と同じ藍色に変わっていった。
顔つきの方は、髪よりも父親の特徴が顕著に表れており、彼の切れ長の青い瞳をした目、そして雪のように白い素肌をしていた。
王位継承者の誕生に、子瑞の存在を知らない冬亥国民は、盛大に祝福した。
この時蒯慎は、萊珠が産まれるまで王の代理として務めなければならず、多忙なため3歳となった子瑞に会っていなかった。それで甄祥から、彼に会うように懇願された。
それで蒯慎は嫌々ながら、政務を終えた後の夜に子瑞の元へ赴き顔を出してはおいた。すると子瑞は、甄祥が萊珠を身籠って以来久しぶりに蒯慎の姿を見て大いに喜んだ。
しかし蒯慎は彼の実父でないのに本当に父だと思っていることが不快だったので、逃げるように去ってしまった。
蒯慎は結界の外に通じる並列した倉庫との隙間から周りに誰もいないか確認すると、身体をそこから出した。
その時、彼は上から自分に襲い掛かろうとする者の僅かな気配を感じる。
そして振り向いたその刹那、自分に覆いかぶさるような影が見えた。
ならず者は蒯慎の頭上から襲おうと飛び降りた。倉庫の上に刺客が潜んでいたのだった。
その影が降りてくると、蒯慎の胸元が斬られてしまい、『ギャアアアァァ』という断末魔を上げ口から血が湧き上がり、事切れてしまった。
女王の夫を弑逆した犯人は、すぐさま駆けつけた数人の見回りの兵に捕らえられた。
護衛に取り押さえられた刺客は高々と叫ぶ。
「放せッ!俺の親父は上級官吏だったが、こいつに罷免されたんだ!たかが賄賂を要求しただけで……」
「黙れ!下衆が!!お前が何をやったのかわきまえているというのか!!」
兵が捕らえられた男の首を即座に斬ったその時である。
「父上ええぇぇッッ……!!」
何と、この
結界が張られている空間との境にある塀は、もちろん内側からもすり抜けることは出来なかったが、子瑞はこの時すり抜けることが出来てしまった。
そして、彼らの目の前に男児のものと思われる姿が目に映ると、それがどういう意味か解った。
――――王夫妻に萊珠以外にも”息子”がいるのだと。
そのため、蒯慎が襲撃され駆けつけた護衛の兵によって子瑞の存在がばれてしまった。
兵はすぐさまそこにいた子瑞を捕らえ、
それに気づいた甄祥は、彼に問いただす。
「いったい何なのだ、この騒ぎは…………はッ!!」
甄祥は兵と共に連れて来られた、この場に姿を現してはいけない子瑞に気づいてしまった。
案の定、甄祥は子瑞を捕らえた兵に対して、眉間に深く皺を寄せて、目尻を前髪の下に隠れるまで釣り上げて天地を響かせるほどの怒声を上げた。
「なぜそやつはここにいる!!どこから連れて来た!!」
子瑞を捕らえた兵はこの国の王の叱責に心臓が止まりそうになり、憔悴しながら一部始終を話して、彼女に子瑞のことを問う。
「も、申し訳ございません。殿下(蒯慎)が斬られたということで駆け付けたところ、この童子が現れて……殿下のことを父と言っておりました……」
「わらわの夫が斬られたと……申すのか……!?そ、それでこの
甄祥は、兵から我が夫である蒯慎の訃報を聞いて、気を失いそうになった。
やがて彼女の目尻が頬骨まで下がり眼から涙がこぼれると、膝が折れて俯いてしまう。
それを聞いた兵は、迫真の表情で彼女に訊門する。
「それで、この童子は殿下の子ではなく、違う者との間に……!?」
「そうだ……その童は我が夫の子ではない。――――そうか、わらわが不貞の輩だとばれてしまったか……」
甄祥は子瑞を夫と婚姻する前に他の者と密通して、妊娠して産んだ子供だと正直にさらけ出した。
それから夜が明けた早朝、案の定黒智宮中に知れ渡り、それが事実なのかを確かめるため官が堰を切ったようにたなだれこんできた。
甄祥はこの件について、すぐさま黒智宮の外廷の
そして、この国の王が隠し子を連れ出して自分からこう告げた。
「この童がわらわの隠し子の子瑞と言う。この童の父とは誰なのか知りたいか……」
「それは、どなたなのですかッ!?」
甄祥の挑発的な発言に、官のうちだれか一人がそれに乗じて訊いたのだった。この詰問はここにいる誰もが一番知りたいはずだ。彼らはそうだ、そうだと声を張り上げる。
「この童の父は誰なのか……教えてやらぬ!!知りたければ、わらわにかかって来るがいい!!」
逆上したように血相を変えて、自分の命をかけてでも、子瑞の父が誰なのかを口を割ろうともしなかった。
もちろん、この場にいた何百もの官が、それを暴いてやろうと王に反逆をしたいという欲望と、それを犯した挙句自分の身がどうなるかという恐怖心の両方とが揺れ動かざるを得なかった。
そして、張本人たるこの国の王は、自分のその隠し子を連れてそそくさとその場を去っていった。
この事実は、黒智宮の官だけに止まらず、その日のうちに冬亥国の全国民に知れ渡った。
しかし、子瑞の父が誰なのかは、明かされることは無かった。
こうして、甄祥は冬亥黒王としての地位が失墜してしまった。
子瑞は自分の存在が発覚して以来、王太子だということで内廷の王の寝所である極央殿の東隣の卯震殿に移った。
しかし、王宮内から彼の父が誰なのか分からない不気味な”忌み子”だと罵られそこ以外自分の居場所が無かった。
そして甄祥は、この国の女性が自分と同じ目に合わないようにこのような法を布いてしまった。
それは、近親相姦、人妻や未婚の女性との不義密通や強姦、売春、女性をかどわかすなどといった、女性に性暴力を犯した場合にその加害者の男が死罪あたるとしたのだった。
この方の施行によって、冬亥国の男は大いに不満を発した。それに、子瑞のことも含め甄祥が甥の蒯慎を婿入れしたこともあり、自分の血を濃く残さなければいけないとはいえ、婚姻したことも批判された。
しかしその法が施行されても、官吏にバレないように生活困窮を理由に奴隷商人に人身売買が行われていた。
その光景を通報しようとした者は彼らによって、男性は殺害され、目撃した女性までもが売られるので、彼らはそれを避けるために黙秘するしかなかった。
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