15話

 街全体が焼き討ちにあった靜耀せいよう門内からの焼死体による死臭が桃佳とうけい達がいる門の外にも漂っている。

 昌信しょうしんは自分が幻世げんせからこの四鵬神界しほうしんかいに転移した経緯を、子瑞しずいと桃佳に伝えた。


 美由びゆうが”陰昇士いんしょうし”として昌信とともにこの四鵬神界しほうしんかいに転移した原因を推測していると、子瑞は眉間に皺を寄せ、深刻な顔つきになる。


(もしそうだとすれば、美由とやらは、伯黎はくれいによって……いや……)


 子瑞は、自身が思案したことが憶測だと願った。

 同じく昌信の話を聞いていた桃佳はその内容に驚きつつ、そして彼に対して激しく非難する。


「美由ちゃんが、他のひとと付き合っていたの!?その後、昌信の前から消えて、その後死んだってこと!?そんな……昌信はどうして止めることが出来なかったの!?」

「馬鹿言え!!俺だって、美由を必死に探したんだ。それなのに美由はどこかに消えたように姿をくらましたから……それで、俺は事故って死んでここに転移されたんだぞ」


 桃佳は昌信のこれまでの出来事を聞いた彼女は、玉帝から聞かされた子瑞が王位を簒奪された件について、そして何故子瑞が昌信を転移させた理由について聞いていなかった。


 桃佳は意を決して、子瑞に恐る恐る尋ねてみる。


「あの子瑞くん、こんなこと聞いたら悪いと思うけど、何故悪い奴から王位を簒奪されたの?」


 桃佳は子瑞が何故、王位を簒奪された経緯を何気なく聞いた。しかし、子瑞に聞いた内容は彼にとって禁句だった。


 それでも子瑞は桃佳の問いかけに応じた。表情に悲哀を込め、麗しい響きの声に憂戚の色が浮かべて、自分に起こった悲劇を語る。


「――――それはだな桃佳、余が至らない王だからだ……これから話すことを聞いたら、余はお笑い種となってしまうが、教えてやろう」


 子瑞は涙ぐみながら自嘲してしまったが、自分の母で前王が崩御し、妹と王位継承争いをしていること、その最中簒奪され王都順羽じゅんう黒智宮こくちきゅうを抜け出して昌信を転移させた経緯、”流榮騏りゅうえいき”と名乗る人物を探していることを桃佳と恵良にも話した。


――――すると、桃佳と昌信とともに子瑞の話を聞いていた恵良けいりょうが悲観したように叫喚する。


「ひどい!!伯黎が主上にも萊珠りしゅ様にも、盾突いて謀反を起こすなんて!!その上、この靜耀までも焼き討ちするなんて……」

「そうだよね……こんなのあんまりだよね。王宮を抜けた子瑞くんは王位を奪還するために、昌信を幻世から転移させたんだよね」


 桃佳も子瑞が簒奪された顛末を聞いて理解すると、彼に同情してこう言った。


 そして恵良は、子瑞が桃佳と昌信が四鵬神界に転移した経緯を理解すると、彼らに懇願する。


「桃佳、昌信、お願い!主上が王位を奪還できるように助けてあげて!そして、この冬亥国とうがいこくに平和を取り戻して!!」

「うん、分かった。私、玄龍を召喚できるように頑張る」


 桃佳は恵良から願いを受け入れそう応えた。


「まずは、さっきも子瑞が言っていたが”流榮騏”とかいうやつを探さないとな」


 子瑞が王位を奪還するには、その人物を探し出し見つけることが先決だった。

 昌信がそれを口にすると、恵良はその名を聞いて何かピンと来たようだ。


「さっき言ってたその”流榮騏”って人、私知ってるよ!!その人なら、杜州としゅうにいるわ。私杜州出身だから、聞いたことがあるの」

「それは本当なのか!?杜州のどこにいるのだ?」


 ”流榮騏”が杜州にいることが分かると、子瑞達は歓喜した。特に桃佳は、子瑞らにも教えた玄龍祠げんりゅうしがある石者山せきしゃざんがある杜州に彼がいることを知り、喜悦した声で続けて聞く。


「ねぇ!その人は石者山にいるの!?」

「さぁ?そこまでは知らないわよ。主上、詳しい居場所を存じておらず、申し訳ございません」

「よいのだ恵良、杜州にいることが分かれば、とてもありがたいことだ。そこへ向かわねばならぬな!!良かったな桃佳、”流榮騏”の居場所も玄龍祠のがある石者山も杜州だということだ」


 ”流榮騏”の所在が判明し、子瑞達は探し物を見つけた時のように、意気高揚した。

 しかし、桃佳は自分たちが舞い上がっている中、急にテンションを下げて言い出す。


「でも……杜州ってここからどれくらい距離があるの?」


 するとそれを聞いた子瑞までもが喜んでいたところ、彼は我を取り戻して深刻な表情に変わる。


「そうだなここ靜耀は許州きょしゅうだから、ここから東に叙州じょしゅう岌州ぎゅうしゅうの先に杜州があるのだが。距離としては、2,894里(約1,354.392km)ほどもあるな……」

「ええぇッ!?そんなに遠いの!!」

「馬を買えばいいんじゃないか?杜州へと向かう途中の街で」


 それを聞いた昌信と桃佳は、自分たちが転移する前に使っていた距離の単位が”1里=468m”と自動的に換算されていることは、全然気づいていなかった。


 昌信と桃佳に質問攻めにされた子瑞は、顎に指を当てて考えたのち落ち着いてそれについて対応する。


「昌信が言ったように馬を買うなら、今日の暮れまでには何とかここ靜耀がある襄郡じょうぐん鴦県おうけんに面する隣の索郡さくぐん|の郡都で苣県きょけん趙簫ちょうしょうまでなら徒歩でたどり着ける」

「子瑞、本当に落ち着いているな。でも今日中にそこまでたどり着ける距離なのか?」


 昌信は冷静に判断を下す子瑞に対して感心しつつ、その後を心配して聞く。そして子瑞は淡々とこれに答える。


「そうだな、そこまで大体46里(21.528km)ぐらいだろう。だから今からだと夕暮れにはたどり着けるだろう」


 それを聞いた、桃佳が困惑する。

「趙簫までそんなにあるなら、夕方までに着かなかったらどうしよう?」

「そういっている暇はないぞ。早くここを出ないといけないな」


 桃佳の言った言葉に対して昌信がポジティブになって応えたが、二人ともまだ転移したばかりの世界では、物事はうまくいかないものだった。

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