6話
月に暗雲が立ち込め、この国の運命を表しているかのようだった。
元恋人に、他の男と付き合っていることを告げて彼の目の前から消えた後、追いつかれまいと闇の中一目散に逃げてその後、自分がどこに行ったのかよく分からなかった。
その後の記憶も曖昧でいつの間にここにいたのだった。
もしかして、自分は死んだのかと思ったが、そうではなかったらしい。
自分がこの部屋に来る前、自分がどこでどのような目にあっていたかを思い出す。
その時、目の前にいた男の顔は自分の姿を見ると、これは重畳だと言わんばかりに不気味な笑みを浮かべた。
その男はこのようなことを言っていたような記憶がある。
「この娘を傀儡として偽王に就かせ、この国を乗っ取って、ほしいままに出来る。」
彼女はこの部屋に連れて行かれる前に、絹で出来た胸元がはだけた着物のような上衣を着て、膝上より丈の短い
その部屋は何者かから彼女にあてがわれていた。そこは
それらは龍や鳳凰の彫刻が施されている。
彼女は眼の輝きも無く、自ら動こうとする意思を失っていた。無論なぜ、この場にいるのかというのが理解出来なかった。
要するに、彼女は気が付いた時から何者かに洗脳されてしまったようだ。
彼女の背後には、男が二人立っている。
一人は長身で、少し癖がかかった長い銀髪の前髪を真ん中で分け、背中に北斗七星が刺繍された黄色い
頭には太極図がついた立方体の黒い巾を被っており、まるで術士のような風貌だった。
その見た目通り、彼は“
その顔は透き通った白い肌をしており、瑠璃のように碧い虹彩の眼を持ち、あたかも女性に見間違えるほど、中性的で端正な顔立ちである。
もう一人は、その気術士の男の横に立ち、彼より背が高く肩幅が広い大男だった。
そして、瀧に打たれても浸食されない岩石のように屈強な体格をしている。
彼は黒い袍を着ていて、前髪以外逆立った赤茶色の短髪で、襟足だけを伸ばして結んでいる。
その顔は、常に眉間にしわを寄せて、強張った表情で憤怒を表している。
すると、気術士の男が少女に声をかける。
「
「いいえ。ここでいいです……」
『
すると気術士の男は隣の、豪傑と言わんばかりの風格の男に話しかけた。
「
「別に……」
『
魁瑠は彼女に勢いよく詰め寄ると、両腕で彼女の肩を掴んだかと思うと、その腕を背中に回してきつく抱き寄せる。
「……!」
この大男に身を動かすことのできなくなった彼女は、洗脳されているため、抵抗をしようとする意志は出来なかった。
そのため、彼女は虚しく抱いた方の力任せにされるままだった。
それを見た、気術士の男は両手で手を組み印を結ぶと、彼女の動きを固めている魁瑠を、自らの術によって動きを止めて金縛りにした。
「
「この娘を先に抱くのは私だ。お前の好きにするように言ったが、抱いていいとは言っていない」
それでも口は動く魁瑠は『
伯黎は彼が取った行動に、自らが求める物を横取りされたことで、魁瑠に対して怒りが湧き上がり、咄嗟に彼を排除しようと行動を移していた。
そして魁瑠に向かって、印を結んでいた両手を開いて彼に両手の掌を向けた。
すると、彼の巨躯が一寸ほど浮き上がったその刹那、そのまま吹き飛ばされこの部屋の壁にぶち当たってしまった。
魁瑠はぶつけられた衝撃で気を失い、その場にへたり込んでしまった。
先ほどまで、彼女は魁瑠によって拘束されていたが、彼が伯黎になんらかの術で吹き飛ばされたおかげで解放された。
しかし今度は伯黎の方が彼女に向き直り、先程魁瑠を金縛りにした時と同じ印を結び、彼女動きを再び封じこめた。
その少女は、自分の意のままに動くことは出来なかったが、思考はある程度制限されていなかった。
伯黎は彼女をその状態にしたまま、不敵な笑みを浮かべながら彼女との距離を縮めて面と向かってこう言った。
「フフフ……なかなか綺麗な面構えだ。なんと美しい。あまりの美しさに思わず嫉妬してしまうほどだ名を何と申す?」
「
伯黎に対して肌と肌とが擦れ合うほど、近い距離まで迫られた彼女は、自身の名を発することしか出来なかった。
だが彼女の名は、元の世界では『
『月美由』と名乗った彼女は、そのようなことを考えている場合ではなく、これ以上もがくことは、出来なかった。
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