55話
そして
そこは、
彼らは
そして
そのため暴れ馬と化した玄龍を桃佳が振り落としそうになるのを免れなかった。
それで榮騏が自分の馬に乗りながら、手綱を引いて気性を抑えなければならなかった。
これから向かう趙蕭には、
彼女らとは石者山へと向かう道中、趙蕭を出た辺りで出会った。
子瑞はもちろん、彼女らは他の女官と再開するのを楽しみにしていた。
――――しかし子瑞らが趙蕭についた時には、凄惨な光景を目にすることとなるのだった。
* * *
子瑞らは、趙簫の手前約2里(963m)の地点まで辿り着いた。ここは女官達と再会した地点であるが、ここに来て榮騏は怪しい流気を感じたのであった。
「おい……何だ!この流気は!?趙蕭から感じるぞ!!」
「えっ、何が起きたっていうのか?」
「これはやばいのだ……!」
榮騏と同じく子瑞と
おかげで、彼らは寒気を感じたうえ気分が悪くなってしまう。
そして綾菜はかつて半魔へと姿を変えられていたので、城内から漂う怪しい流気を感じ取れることが出来はした。
そのため、自分の中で嫌な予感を感じた。
しかし、ともにいた萃慧はもちろん、蓬華と茜華もそれを感じ取ることが出来なかった。そのため彼女らは、どう言った事態と捉えていいのか分からず、狼狽えるばかりである。
だがこれは、彼女らにとっても一大事どころではなかった。
「ともかく先を急ごう!みんな無事だといいんだけど……」
「えっ!そんなに大変なことが趙簫で起きたっていうの!?」
桃佳の告げた言葉に対して、萃慧はことの重大さが分からず、ただただもどかしい思いをするだけだった。
さして一行は、趙簫へ一目散に駆けて行った。
やがて、そこへ段々近づけば近くなるほど、子瑞ら5人はむずむずとした悪寒がひどくなってきたことで、怪しい流気の量が増していくのを感じ取った。
案の定、城門へと辿り着くと、やはり様子がおかしい。人の気配は全くしなかった。
その代わりに、
「これは……!!城内から陰に著しく傾いた水徳の流気が流れているぞ!!これは、半魔に違いない!!」
「つまり……そこは、奴らの巣窟と化しているのか……!?」
「何だって!?他の女官達は無事じゃないってことなのか!?」
榮騏が発したことを昌信は上手く受け止めた。
しかし、それに応えた茜華は彼らのやり取りを聞いても、今そこで起きている事態が余計に分からなくなり、激しく憤った。
しかしここで戸惑っていては、自分達の帰りを待っている女官達――――ましてや、趙簫の民草が無事ではないという、最悪な事態が待ち受けていることになっている可能性がある。
「急いで趙簫の城内へと向かわねばならぬ。絶対に何か良からぬことが起きているのは間違いないぞ!!」
「半魔が溢れかえっているなんて……私達が、そこへ行かなければならないの!?」
綾菜はかつて、自分が半魔になっていた時の自分が残虐極まりない行いをしていたことを思い出し、余計に中の様子が気になって不安になってしまう。
意を決して子瑞らは、趙簫城内へと入る城門をくぐった。
「……何だこれは!?」
「どういうことなの!?」
やはり、子瑞らが予想だにしなかった最悪の事態がもう既に起こっていた。
それは、趙簫城内がまるで水攻めに遭ったかのようにありとあらゆる建屋が朽ち果て、崩壊していた。
しかも路上には、老若男女問わずと言った、大人数の水死体が広がっていた。
子瑞らは原因不明の惨憺たる事態が趙簫で起きたという事実を、誰しも受け入れることが出来なかった。
「やはりこういうことだったのか!!」
「酷いよ……こんなことって……!!」
「――――お前ら!馬から降りろ!!」
榮騏が急に叫び出したと思いきや、皆彼の言う意味が一瞬理解しかねた。
その刹那、後方の一行らがくぐった城門の上の楼閣から、勢いよく流れる流水が彼らを襲ったのだった。
それに気づいた彼らは、榮騏が言った通りに馬から飛び降りた。
行動を取ったお蔭で、間一髪その激流に飲み込まれずに済んだ。
子瑞らが跳び降りて空になった馬も、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れて敵の攻撃を避けた。
「誰だ!!趙簫をこのようにしたのは!!」
「待っていたぞ
するとそこから現れたのは、人間とも妖怪とも似つかない、奇怪な様相を呈した半魔だった。
しかも彼らは次々と城壁の歩哨からも、城内の瓦礫からも辺り一面無数の半魔が姿を現した。
それは、破れた皮膚は鮫肌のように青黒くザラザラしていて、身体中に魚の鰭のようなものがそれから生えていた。
頭部にも毛髪の代わりに鰭が生えていた。
顔はというと、頬は痩せこけ、目は鋭い角度で吊り上がっており瞳孔が半魔らしく縦長で、口も三日月のように長く裂けている。
榮騏達が恐れていた最悪の事態が起きていた。この趙簫は彼ら半魔によって全滅していたことが明らかとなった。
子瑞は半魔どもが何故ここ趙蕭に赴くことを知っているのかなじる。
「何故、我らがここに来ることを知っているのか!?」
「教えてやろう。お前らがここに来るのは、ここでお前の帰りを待ち侘びている女官達を亡き者にしろと
「伯黎様は女官らの僅かばかりの流気を辿って、位置を掴むことくらい容易いからな」
子瑞の問いに対し、二人の半魔が交互に答えた。彼らが告げたことを事実だとしたら、女官達の安否がどうなのか子瑞らに不安がよぎった。
その答えは、すぐに解った。城門とは反対の城内の方から、皮肉めいた嗤い声が上がった。
「ヒヤッハッハッハ!!お前らが探している女官は、ここにいるぞ!!」
そこにいる半魔は嗤いながら、その辺に転がった水死体の中のうち一人の頭部に生えた長い髪ごと掴んで子瑞らに見せた。
それは結っていた髪が解けてしまっていたが、絹の
「キャアアァァッッ!!
「貴様ァ!!よくも燕寿を!!」
燕寿という女官の遺体を見た一行は、萃慧は顔を覆って泣き崩れ、蓬華と茜華は半魔どもを激しく罵った。
燕寿の死体に生えた頭髪を掴んだ半魔は、そのままポイッと路上に捨ててしまった。その屍は路面にビタッと音を立ててぶちまけられた。
「この娘達は皆俺らが殺す前に辱めてやったぞ」
「皆麗しい肌をしておったわ。そりゃ可愛いのなんの」
このような惨劇をここで会うはずの女官達が受けたことを知り、子瑞ら誰しもが、悲哀と屈辱と憤怒に満ちた感情を顔にむき出した。
一行のうちここに着く手前で女官達と立ち会った者は、別れを告げた際の彼女らの笑顔を思い出す。
しかし、ここにいるはずの女官達も趙蕭の民草も皆、どこから湧いて出た半魔どもの殺戮の餌食となってしまった。
特に、同じ女官として彼女らとともに過ごした蓬華と茜華は憤りを感じた。
そして萃慧は、今まで親しく接していた女官らを失ったことに激しく慟哭した。
「よくもこのような、弱き者を誑かしおって!!余がうぬらを葬ってやるぞ!!」
子瑞が半魔どもに宣戦布告した瞬間、もうすでに彼らは四方八方から一行のうち桃佳ら女性陣に向かって飛びかかってきた。
すると子瑞はもちろん、昌信と
「きゃああアアァァ!!」
「みんな!危ないのだ!!」
「ここは俺達に任せろ!!」
こうして、彼ら4人は無数の半魔へと立ち向かって行った。
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