54話
すると彼がその理由として、桃佳に好意を抱いているのだと告白したのだった。
子瑞のその発言に桃佳は、それを受け入れればいいのかどうかわからないままだった。
そして昌信は、彼の取った行動が気に喰わなかった。
昌信自身が子瑞と桃佳を連れて来たのだったが、いきなりこんなことをカミングアウトした子瑞に対して、あざといのもいい加減にしろと感じた。
更に、子瑞が昌信に話を投げかける。
「余が桃佳に恋をして何が悪いのだ?それに桃佳とお主とは
「と……桃佳とは、幻世では同じ学校に通っている後輩と言うだけで……、何も関係を持って……いない。それに美由のことまで、話に持ってくるな!ほ……本当にしつこいなお前は!」
子瑞は、昌信に桃佳との関係を執拗に問いただした。
対して昌信は桃佳のことが気になっていることを彼から示唆されたので、焦燥に駆られておぼつかない口調で返してしまった。
そのうえ昌信は、子瑞が恋人である美由のことを引っ張り出したため、腹立たしかった。
桃佳は子瑞から告白され放心していたので、このような男同士の言い争いに巻き込まれてしまい、どうすることも出来なかった。
そして更に子瑞は、昌信に問いただした。
「だが、昌信は美由にフラれたから、桃佳に好意を抱いているのではないか?」
「ち……違う!それが原因で桃佳のことが……気になったわけじゃない……!俺にはフラれたとは言え美由のことはあきらめていない……美由を救わないといけないし、お前の王位奪還を果たさなければいけないんだ!」
昌信が子瑞から指摘されたことが図星であり、必死にそれを否定したつもりだが、子瑞の顔から目を逸らしてしまった。
そのような昌信の様子を見た子瑞は、桃佳は自分のものだと言わんばかりにキッと鋭い視線を見せた。
すると、ここまでの子瑞と昌信との骨肉の争いを見て不安になっていた桃佳が、やっと口を開いた。
「そうだよ子瑞くん。王位を奪還して、確かに昌信が言う通り美由ちゃんを救わなきゃいけなんだよ。それに、
「そうだ、桃佳の言う通りだ。それがお主達が与えられた使命なのだ。だから何としてでも王位奪還しなければならぬ!そしてーーーー」
「そしてーーーーって何だよ?」
桃佳は今回の王位奪還の目的を主張すると、子瑞が昌信に据えた目を緩ませながら、彼女に方を見て頷いた。
それを見た昌信は、彼はまだ何か含んだような言い方をしたので怪しんだ。
そして子瑞は、改まってキリッとした眼差しを桃佳に向けたまま切り出した。
「そして余は、王位奪還をした暁には、と……桃佳を王妃として迎えて入れたいと思っておるのだ!」
「えェッ…………!?」
「何だって!?」
桃佳に対して、子瑞が更に言い放った言葉に、彼女も昌信も再び衝撃のあまり身が固まってしまった。
それを言った当の本人は、さっき紅潮させた顔が燃えるように色づき、桃佳を真剣な目つきでで見つめた。
対する桃佳は、頭の中が真っ白になって、思考回路が停止してしまった。
子瑞からプロポーズされ、さらに彼を得体の知れないものを見つけた時のように見てしまう。
昌信は驚愕のあまり、呆れて物も言えなくなった。
その上彼は自分の元から美由も、桃佳も自分から遠のいていくように感じ、一気に虚無感が込み上がるのを覚えた。
それを立ち聞きしていた綾菜はというと、なぜ子瑞が桃佳という自分を苦しめた女を妃としたいと言ったことで、大きな衝撃を受けてしまった。
精神的に混乱していた桃佳は、それが治まろうともしない中やっと口を開いた。
「ししし…………子瑞くんさぁ、それマジで言ってるの?私を……妃にしたいって……けけけ、結婚しろってこと!?」
「そういうことだ!!」
それを肯定した子瑞は、何と桃佳に吸い寄せられるように近寄ったと思いきや、更に彼女の両手を手に取った。
桃佳は子瑞が自分に取った行動にビクついて、肩をすくめてしまう。
「桃佳、余の妃となってこの
「やめてッッ!!私に近づかないで!触らないで!子瑞くん、しつこいよ!何で急に私があなたの妃になれって言うの!?」
桃佳は子瑞から妃になるように執拗に迫って来たかのように、煩わしく彼に取られた両手を勢いよく払いのけて、彼から身を遠ざけた。
それに対して子瑞は、自分の全てを失ったかのような絶望感を表した視線を桃佳に向けた。
それを受けた桃佳は彼に対して嫌悪したのかどうか分からないが、目を伏せて涙を浮かべた。
そして、そのやり取りを傍観していた昌信が子瑞の前に立ちはだかり、彼の両肩を掴んで揺さぶる。
「やめろッ!子瑞!!桃佳が嫌がっているじゃないか!」
「何故だ?何故拒むのだ……!?桃佳……」
茫然自失となりながらそう言った子瑞は、掴まれた肩を震わせながら膝が折れ、それが地に着いて座り込んでしまった。
そして、子瑞の求婚を頑なに拒否した桃佳は涙をこらえられないまま、顔を俯けたまま彼にこう言った。
「子瑞くんは……王位を奪還しなきゃいけないんだよね……私に妃になれって言われても、それが出来なかったら意味無いじゃん……」
「そ……それもそうだな。今急に桃佳に妃になれと言っても、お主も困るだろう。本当に済まなかった」
子瑞は桃佳から自分が王位奪還するが先決だと指摘され、彼女を妃にすることしか考えていなかったことを恥じた。
そして狼狽していた彼は気を取り戻して、立ち上がる。桃佳もそれを見て、子瑞が王位奪還の意思を自覚したことを受け止めた。
すると、昌信が彼らをなだめてこう言う。
「俺達は今は、子瑞の王位を奪還することだけを考えなければならない。そうしなければ、この冬亥国が滅んでしまう。子瑞、王であるお前のためにここまで付いて来たんだ!それなのにお前は、私情を剥き出しにしやがって……」
「そうか。余としたことが……思わず王位奪還よりそのようなことばかりに気を取られていた。こう考えることはやめにせねばならぬな」
「それに美由ちゃんも、子瑞くんの王位を奪還といけないしね。さあ、早く
子瑞は桃佳を我が物に出来なかったことにより放心状態になっていた。
しかし桃佳の発言によって、王位を簒奪されたという自分に置かれた立場を理解した。
その様子を見た桃佳と昌信も、子瑞が正気を取り戻してくれたことに安堵した。
こうして子瑞ら3人は、見失っていた今回の旅の目的を改めて確認することが出来た。
気を取り直した彼らは、これまでの旅の疲れを癒すために今、ここに滞在している宿の建屋へと戻っていった。
―――――しかし、彼ら3人の話の一部始終すべてを
綾菜が
綾菜はこの時点で、自分のこと心からを受け止めてくれる子瑞に対し、著しく好意を抱いていたのだった。
それなのに、子瑞は綾菜自身がひどく軽蔑している桃佳に妃になるように迫った。これを見た綾菜は、これにまでもない屈辱と喪失感を抱いた。
その上、なぜ子瑞が選んだのが自分では無いのかと思うと、自らの腸が煮えくり返るほど、憎しみが込み上がった。
綾菜は3人が宿の裏側の建屋と倉庫との隙間から出て、宿の建屋へと曲がっていく。
綾菜はそこへの入り口の陰に隠れていた。桃佳がその最後尾にいたことを確認した。
そして桃佳にこう耳元で呟いて、綾菜は桃佳に気づかれないようにこう告げた。
「コクられたからといって、調子に乗るな。クズが――――」
そして綾菜はそう言った後、桃佳にそれを気づかれないようにすぐ桃佳達が出て来たところへと隠れた。
その被害者である桃佳は、誰かから何か辛辣なことを言われたかと思ったが、それを言った本人の姿を捕らえられなかった。
その上、自分に何と言われたのかが上手く聞き取れなかったので、気のせいだと思って客室へと戻っていった。
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