美少女龍召変身記～龍を召喚するために変身ヒロインになります！！

５２話

　子瑞（しずい）は綾菜（りょうさい）が"暗愚恋羅（アングレラ）"が嫌いであることを"個性"だと諭した。

　更に彼は綾菜にもう"一人では無い"と説き伏せると、それが彼女の心の中にそれが響いたようだった。

　それに綾菜は、子瑞が自分と同じ"孤独"という立場であったことを共感してくれたので、桃佳（とうけい）をこれ以上攻めても何も解決しないということを理解した。

「そうね……私が"暗愚恋羅（アングレラ）"が嫌なのは、あなたが言うように私の"個性"だよね。それを許さないクラスの連中が悪いのよ。もう桃佳だけを責めても何も変わらないんだよね。それにあなたが言う通り、私は"一人ではない"よね」

「……綾菜、それって本当なの？私が原因じゃないってこと？」

　そう言って桃佳（とうけい）は立ち上がり、綾菜の元へと詰め寄る。だが綾菜は桃佳から目を逸らし、その目線は子瑞へと向けられた。

　それを見た子瑞は一瞬驚きを隠せなかったが、すぐに綾菜の方を見て破顔した。

「ええ……分かったわ。子瑞が私の"個性"を認めてくれた。そう言ってくれて嬉しいの。じゃあ桃佳、私こそごめんね。あなたが悪いって私が勝手に決めつけて、土下座までさせて」

「いいんだよ、謝らなくても。綾菜は悪く無いんだよ」

　やっと綾菜が桃佳のことを許してくれた。そのことに感心を抱いた子瑞は、彼女のもとへと駆け寄る。

　この時綾菜は近付いてくる子瑞に対して、胸の鼓動が高鳴り出す。

　そして子瑞は自分の呼吸が彼女の肌に当たるほど迫ったと思いきや、なんと彼女の両手を取ったのであった。

「そうだ、もう綾菜は"一人ではない"のだからな。そなたをこれ以上傷つける者は余が許さぬ。そなたを見捨てぬわけにはいかぬ。余と一緒に行かないか？」

「子瑞……本当にいいの……？」

「子瑞くん……？」

　綾菜は子瑞が自分に取った行動に一瞬吃驚したが、それが段々と彼女自身の心の揺さぶりを激しくさせた。

　そして、綾菜の目から流が溢れて頬をつたっていった。

　――――この時綾菜は、子瑞に対して心の奥底からある感情が芽生えたのであった。

　一方それを見た桃佳はこの状況を理解できず、それを表した視線を二人に向けていたのだった。

　そして、今まで黙って見ていただけだった昌信（しょうしん）、榮騏（えいき）、蒙蒙（モンモン）らも、子瑞が説得させて綾菜が桃佳を許してくれたことに感銘した。

「桃佳、ずっと悩んでいたのか……」

「子瑞、お前本当に口達者なもんだ！！」

　このように桃佳が綾菜をいじめていたという誤解が解け、そのお陰で綾菜がそれを許してくれたことで、彼らは和気あいあいとなった。

　その中で、子瑞は今まで忘れ去られていた、ある者らの存在にやっと気づいた。

「あっ！そう言えば、蓬華（ほうか）と茜華（せんか）はどこにいるのだ？」

「二人なら、あそこの家と家の間にいるぞ」

「そうよ、ここにいるわ。でも早く手当しないと……」

　子瑞に彼女らがいる場所を昌信が教えると、そこにいた萃慧（すいけい）が応えた。

　そのことに気づいた彼らは、蓬華と茜華がいるという崩落しつつある２軒の民家との間にある隙間にたどり着く。

　彼女らを見た一行は、驚嘆した。

　彼女らは既に意識を失っており、半魔（はんま）だった綾菜の蔓の鞭で叩きつけられ、さらに縛られたことで装着していた甲冑は破壊されていた。

　その下に着ていた袍はいくつもの箇所が破れていて、そこから切り傷が晒されていた。

　そして肉体がはち切れんばかりに締め付けられたのか、その箇所の肉が深くえぐられていた。

　 彼女らの容態を見て、誰もが動揺する。

「どうしよう？こんな状態じゃ、私達に出来ることなんて……」

「彼女らはどうすれば、助けられるのだろうか？」

　蓬華と茜華のひどい傷を負った様相を見て、手の施しの無く途方に暮れていた。

　すると、離れていた場所にいる馬となった玄龍が、桃佳らの様子を見て急に喋り出した。

「我が君、覚龍珠（かくりゅうしゅ）を傷ついている奴らの身体に当てると、治すことが出来るぞ」

「玄龍、それほんと！？それで二人は助かるんだよね？うん、やってみる！！」

　玄龍に言われるがままに、桃佳は右手に持っていた覚龍杖（かくりゅうじょう）に付いた覚龍珠を、まず蓬華の腕に出来た肉がえぐれた傷に当てた。

　すると覚龍珠が柔らかな紫黒の光を放つと、縫い合わせても治せないほど肉がえぐた傷を治癒していくのだった。やがて蓬華は、意識を取り戻したのか目を開けた。

　それを見た桃佳らは、その回復力に驚愕するとともに、蓬華の身体が元通りとなったので歓喜した。

「これは……一体どういうことだ？何が起きたというのか！？」

「蓬華！良かった……無事で」

　無事意識を取り戻し、体を起こした蓬華に子瑞らは喜びに沸き上がり、次に茜華に覚龍杖を当てた。

　彼女も蓬華に続き、段々と傷が痕も残らず消え去り、意識を取り戻した。

「何だ……お前らどうしたのか？」

　茜華も回復し、桃佳が覚龍珠を当てたことによって一層彼女らが瀕死の状態からの無事に生還した。

「おお……！二人とも助かったのだな。桃佳、いや玄龍本当に感謝する」

「我は……そのように我が君に教えてやっただけだ……」

「ちょっと、玄龍。私のことをさっきから"我が君"だなんて言わないでよ」

　玄龍が改めて"我が君"と呼ばれた桃佳は、なぜかじれったい気分になった。

「桃佳、本当に私達を助けてくれて済まない……」

「ベ、別に姉貴だけでなく、私まで助けてくれなくてよかったんだからな！！でも……ありがとな……」

「ツ……ツンデレだったの？茜華って……！？」

　桃佳は茜華が思わぬツンデレ発言をしたことに、吃驚しつつドン引きした。

　すると榮騏が声を張り上げる。

「よおし！！蓬華も茜華も助かったことだし、子瑞の王位奪還に向け王都順羽（じゅんう）に出発したいとこだが……嬢ちゃん、俺らも手当てしてくんねぇかな？」

「言われなくても、分かってんだけど……」

「桃佳、すまぬが頼んだぞ」

　そう言われても、やるべきことは分かっていた桃佳だった。子瑞ら三人も覚龍珠で手当てした。

　その時、覚龍珠の輝きが消えるとともに、覚龍杖自体が霧消してしまった。

「えっ、えっ何！？覚龍杖が無くなった？――――って、ああ！？」

　桃佳は自身の身体が光に包まれたと思いきや、服装が元に戻った。一瞬この事態に慌てて、突拍子もない声を上げてしまった。

　それを見た周りの者どもは、わけが解らず顔をキョトンとならざるを得なかった。

「玄龍！！みんなの前で私の服装を元に戻さないで！！」

「我が君、そんなことより右手の小指を見るんだ」

　そして桃佳の右手の小指に、昌信が陽招鏡（ようしょうきょう）から凍牙槍（とうがそう）を召喚した時と同じように、指輪が嵌められた。

　それは、玄龍が浮き彫りされている黒瑪瑙の指輪だった。

「我が君、覚龍杖は普段その珠現輪（しゅげんりん）となり、玄龍娘々（げんりゅうにゃんにゃん）に変身する際に、召喚することが出来るぞ」

「それは解ったから、勝手に変身を解除しないでくれる！！」

　桃佳は、覚龍杖がそういうシステムになったことに感心した。しかし桃佳は、そんなことより自身の服装が突然元に戻ったことで玄龍をなじった。

　半魔となっていた綾菜と戦い始めてから時が経ち、石者山（せきしゃざん）が連なる、兌震山脈（だしんさんみゃく）の山並みから陽が登りだしていた。