50話
桃佳が中学校に入学し、
出会いは突如としとして現れた。彼女らは同じ1年4組で、その教室に桃佳が入ってくると、彼女に声をかけた者がいた。
「ねぇ、私、葉崎綾菜っていうの。同じクラスになったからよろしくね!」
「こちらこそ、私は星野桃佳だけど、こちらこそよろしくね!」
ベージュのショートヘアーでつぶらな小豆色の虹彩を持ち、雪のように白い肌を女子生徒、それが綾菜だった。
――――そう桃佳は、彼女が9ヶ月後、四鵬神界に転移後することを、知る由も無かった。
入学して早々、桃佳は綾菜ら同じクラスの数人の女子と親しくなった。普段は他愛のない話をよくしていた。
桃佳の幼馴染で後に、彼女とともに四鵬神界に転移する
美由とは違うクラスだったが、桃佳達は彼女のクラスに行っては綾菜を連れて行って、その組の女子生徒とも仲良くなった。
それは、2学期も終わりに掛かる12月のことだった。
世の流行は、中学1年生である彼女らにも影響された。巷では”
彼らの曲は桃佳と同級生、ましてや全校生徒の男女関係なく注目の的となり、その話題で持ち切りとなっていた。
そのような中、桃佳のクラスでも”
しかもこの時期は、テレビで大型音楽番組が放送されていた。それに出演されるたびに話題になるのであった。
「ねぇ桃佳、昨日の”
「うんうん!!見た見た!!その曲いいよね!!もう、PVの動画の再生回数1000万だってね!!」
桃佳はミーハーなので、その手の話にはつい乗ってしまう。同じクラスの女子から聞かれたらすぐ答えてしまう
しかし彼女らと同じ場にいたにも関わらず、綾菜はその話題に乗り気ではなかった。彼女はいつもこのような状況になると、乗り気にならなかった。
だが桃佳は、そんな彼女に構わずその話題を振ってしまう。
――――それが彼女にとって悪夢の引き金となるとは知らずに。
「そういえば綾ちゃんは、”
すると綾菜は、何かを侮蔑するかのような眼差しを桃佳らに向けて、低い口調で言った。
「私、その人達の曲ってさ、耳障りなんだよね……要するに好みじゃないの……なんでみんなその話ばかりするの?」
「お前、さぁ……今何て言った?」
「マジあり得無くね!?”
彼女の発言に対して同じクラスの男女問わず、衝撃というより嫌悪を感じて、辛辣な言葉を吐く。
彼女への誘導尋問と化した、話題を振ってしまった桃佳はいたたまれない気分になった。
それにもかからず、桃佳は必死に綾菜に対するカバーを試みる。
「ちょっと、みんな、ひどいよ!綾ちゃんに何でそんなこと言うの!?」
「ハァ!?お前まで何言ってんだよ!?”
しかし、桃佳の起こした行動はさらに事態を悪化させ、男子にも飛び火していた騒ぎが次第にエスカレートしていたのだった。
このように、同調圧力に抗った綾菜の発言に、クラスメイトの誰しもが肯定する者などいなかった。
それ以降桃佳のクラスでは、綾菜が”
――――要するに、彼女がクラスメイトからいじめを受けなければならないということである。
翌日、綾菜が登校すると、自分と桃佳とも一緒に話す女子生徒は彼女と会っても、今までしていたように挨拶をせずに無視するようになった。
それでも、桃佳は自分から綾菜に声をかけてきた。
「綾ちゃんおはよう。昨日はごめんね、あんな言い方して……」
「私に……話しかけないでくれる……」
桃佳は綾菜に謝ったが、まだ彼女は桃佳のことを許しているわけがなく、辛辣な言葉を返した。
綾菜は桃佳が自身の発言が原因だと思い、引け目を感じて謝ったように捉えた。
そのおかげで綾菜は、彼女がとったその行動が、自分を逆撫でしているようで気味悪く思った。
一方桃佳は、綾菜がそのような言動をしたことは、彼女から自分の何か大切な何かが奪われたかのようなショックを受けた。
更に、その様子を見ていた二人と仲の良い女子生徒が来て、詰問された。
「桃ちゃん、葉崎みたいなクズなんか、どうでもいいからさぁ」
「こっちに来てくんないかなぁ?」
上から目線で腕を組んで、相手を見下すような態度の彼女らに桃佳は謗られてしまう。
そして彼女らが桃佳の肩を叩いて綾菜のそばから強制的に連れて行った。
「桃ちゃんさ、まだあんなヤツとさぁ、絡んでるわけ?」
「あいつは”
「…………」
こうして、桃佳が綾菜に関わることを、クラスメイトの全員が許さなかった。
その日から綾菜は、昨日まで桃佳らと一緒に昼休みに弁当を取っていたが、綾菜も一緒に行こうとすると、桃佳以外の者から来るなと言わんばかりにらみつけられようになった。
それでも、綾菜は教室で一人で弁当を食べるのを屈辱だと感じ、トイレの個室で便所飯をせざるを得なかった。
それでも、個室の外からクラスの女子生徒からバケツで水を掛けられるのであった。
「ギャハハハ!!ざまぁみろ!!」
掛けた後彼女らは綾菜をあざけるようなけたたましい笑い声が湧き上がった。
綾菜はこのような目に遭い、自分のプライドがズタズタに崩れていくのであった。
そして彼女は、その原因を桃佳の空気を読まない無い発言だと決めつけ、ひどく憎み蔑んだ。
さらにクラスメイトからのいじめはエスカレートし、綾菜の私物を隠したり、盗んだりするようになった。
二学期の終業式の日、桃佳はクラスメイトのいない下校中に、綾菜が前にいたので声をかける。
「今までずっと謝れなかったけど、私が一番悪いよね……」
「何?今さら。じゃあ土下座でもするの?」
桃佳は自分のせいでいじめに遭ったことを綾菜に謝罪しようとした。
しかし、それに対して綾菜は、桃佳を嘲るような顔をして土下座を要求した。
しかし桃佳は、土下座など下校途中という場に置かれているため、それが出来るわけがなかった。彼女は立ち尽くし、顔を俯けるだけだった。
「土下座出来ないんなら、私に詫びようとしないでくれる?」
「…………」
綾菜は何も出来ないままでいる桃佳に付き合ってられず、そそくさと行ってしまった。
桃佳は本当に、この場で土下座しても綾菜へのいじめが無くなるわけがないので、それをする意味がなかった。
それでも綾菜は、土下座を桃佳に要求したのである。
そこまでして綾菜は自分を陥れたいのかと、桃佳は失望するしかなかった。
そして年が明け、3学期となった。
その始業式の日から、彼女は学校に姿を現さなかった。この日は、朝から酷く寒い中激しく雨が降り続いていた。
今まで綾菜がいじめを受けていたという事実も、教職員は気づいていろうがいまいが、関わろうとすることは無かった。
クラスメイトも綾菜がいないことで、皮肉なことにこの天気と違って、それまで淀んだ空気が晴れたかのような雰囲気になっているだろうと彼女は思った。
今日みたいな天気の中、自分が住む街に流れる川の傍に川辺に立っていた綾菜だったが、次第に目の前の川の中へと進んでいく。
そうしなければ、自分はいじめられるままだった。
自ら命を絶つことにためらうという思考は毛頭無かった。
そして、その日にテレビで女子中学生が失踪したというニュースが躍り出た。
その女子中学生の名は、『葉崎綾菜』だった。
警察に捜索願が出され、豪雨の中彼女を捜し回っているとのことだった。
――――すなわち綾菜は
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