48話
玄龍は身動き取れなくなった彼女に何もせず、傍観しているかのようだった。
すると玄龍は、やっと動き出してこう唱えた。
「
玄龍の口から滝のような大量の激流が、魔物に向かって吐き出された。それはまさに、その名の通り荘厳とした瀑布と化した。
玄龍自体だけでも圧倒的な存在力を持っているが、この瀑流降によってより堂々たる威厳を誇っていた。
しかし、魔物はそれに押し出されずに、立ったままでいられた。
「何やってんだ!玄龍は水徳の龍王。木徳の魔物には逆効果だ」
「ハハハ!!馬鹿め!!こんな攻撃では私は倒せまいな。ああ、気持ちいい」
そのため玄龍の瀑流降も虚しく、
そして
特に桃佳は彼ら二人よりもきつく締め付けられ、身体に食い込み、はちきれそうになった。その苦痛が顔に露となってしまう。
「ん……ぐぐ……アアぁぁッ……!ああァァん……!!」
「んなぁッ……げ、玄龍……お前ってヤツは……!!」
彼女の悲惨な姿を見て、顔のかすり傷から血が止まらないなか
「玄龍やめろォォォ!!桃佳が苦しんでおるではないか!!」
「どうだ!お前は玄龍を召喚出来るようになっても、私ごときを倒せぬとは。呆れたもんよ!ああ、いい気味だわ!!」
玄龍の瀑流降を喰らい続けている魔物が桃佳をきつく締め付けること段々と快楽を味わっているかのようだ。
桃佳が締め付けられ続け、体力が摩耗していく。更に服は破け、身体中から流血が止まらなくなった。
「……うぐぐ……桃佳が……玄龍を……召喚出来るようになったっていうのに……」
「おい……玄龍!いい……加減に……水を出してんじゃ……ねえ!!」
未だ縛られたままの昌信も榮騏も、未だに魔物によって痛みつけられる桃佳に対していたたまれない気持ちが強くなった。
子瑞は目の前の恋焦がれる乙女が苦しむのをこれ以上見たくない余り、瞼をきつく閉じてしまう。
それでも桃佳は、四肢がちぎれるほど身体が痛みに耐えきれず、喘ぎ苦しむしかなかった。
それにより魔物は、自分が憎み続けていたという桃佳の様子を見て、愉楽に耽ってしまう。
「あァ……あァ……何という悦び。今まで感じたことの無い快楽。この上ないことよ!もっと苦しむがいい!!ーーーーん……何ッ!?」
何と、今まで魔物が受け続けてきた瀑流降によって流気を吸収していたが、段々と蔓の鞭の縛る力が弱まっていったのだった。
「……これは……浮木……そうか!魔物は木徳だが、水徳の玄龍の瀑流降の流気が強すぎて、浮木のように朽ち果てるのか!!」
「何ッ!!榮騏、それは
榮騏が言うように、魔物が放つ蔓の鞭がボロボロに朽ち果ててていく。
「こ……こんな、はずでは……!!」
玄龍の攻撃にやっと耐え切れなくなった魔物は、その水圧によって抵抗しきれずに遂に押し出され、後方の木にぶつかった。
それに伴い政信と榮騏、そして桃佳の身体と子瑞の
魔物の蔓の鞭が朽ち果て解放された桃佳は、離れた家屋の陰から出て様子を見ていた
「桃佳!!あっ、いけない!!」
その時萃慧は、桃佳を退こうと驚いて跳び上がってしまった。彼女は子瑞から託されていた
桃佳とともに鞭が解けて解放された昌信と榮騏は、彼女が落ちていった地点へと走り出した。そして子瑞も地に落ちて刺された冷迅刀を拾い上げ、そこへと駆けて行った。
「桃佳!無事か……!?あッ陽招鏡が!!」
「いけない!!――――あぁ、よかった!」
萃慧が陽招鏡を落としたことに気づいた子瑞は声を上げて喚起したが、陽招鏡は奇跡的に割れなかった。
その様子を見ていた魔物は、陽招鏡の存在に気づいた。すると、彼女は何か危険を感じたのか、自分がぶつかった木の陰に隠れた。
桃佳と陽招鏡が落ちた場所へ、子瑞らとともに駆け寄った榮騏だったが、彼のは魔物の不審な行動を見て何かを思いついたようだった。
「そうか!こいつはこの陽招鏡を見て姿を隠した――――ということは!そいつに陽招鏡をかざせば、正体が明かされるかも知れねぇ!!」
「確かにそうだ!こやつは木徳の陰の気流だったな。よし頼んだぞ!!」
榮騏の名案に子瑞は考えが合点し、それを彼に命じた。
そし子瑞と昌信、そして榮騏は桃佳の元にかけつけ、すぐさま榮騏は彼女のそばに落ちている陽招鏡を拾った。
「桃佳!!しっかりするんだ!!」
「こんなに身体をズタズタになってしやがって」
桃佳に駆け寄って彼女に子瑞と昌信が声をかけると、それに気づいたのか、目を薄く開けて気がついた。
「何……これ……子瑞くん、昌信も。ところで玄龍は?化け物はどうなったの?」
「大丈夫だ。あの魔物は玄龍が倒したが、逃げてしまった。今、榮騏が探しておるが……玄龍もどこに行ったのだろうか?」
桃佳は玄龍がいないと言われ、身を起こし辺りを見回す。すると一頭の紫黒の鬣を生やした、黒毛の体格の大きな馬がいた。
「何、あの馬。もしかして玄龍!?姿を変えたの?あっ、そう言えば覚龍杖は?」
「桃佳は奴に縛られていた時、ずっと握っていて手から離さなかったんだ、魔物が桃花の両腕を縛っていたからな」
「あっ!ほんとだ。良かった……」
子瑞が桃佳にそう伝えると、自分があの状態にあったにも関わらず、覚龍杖を放していなかったことに安堵した。
その頃魔物は
榮騏は陽招鏡を携え、彼女を追いかけていた。
魔物は一目散に、
「待ちやがれェェ!!貴様の正体を暴いてやるぞ!!」
魔物に追いつこうと、目で彼女を逃さぬように上方を見ながら、必死に
そして彼は、魔物に追いついて榮騏の姿が見えたのかその途端に跳び上がった。
榮騏は木の枝の上に着くと、自分の一つ前の木の枝に魔物がその前の木の枝に跳び移ろうとしているところを、眼に捕らえた。
魔物はすぐ後ろの木の枝の榮騏に気づいたが、もうその瞬間に彼が陽招鏡を彼女に向けて姿を映した。
陽招鏡は魔物を映すなり、そこからの閃光が彼女の姿をくらませた。
やがて陽招鏡から放たれた光が治ると、何と魔物は予想だにしない姿となった。
「何なんだ!一体。どういうことだ!?」
その様子を見た榮騏は、神妙なことが起きたあまり驚嘆してしまった。
姿を変えたは気を失って木から落ちそうになったので、榮騏が先に木から降りて、彼女を受け止めた。
「そういえばこいつ、桃佳と面識があって、彼女に恨みがあるとか言ってたが、どういうことだ?」
見た目が変わった魔物に対して、榮騏は不気味に思ってそうひとりごちて、彼女を抱えて哥邑へと戻った。
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