44話
遂に
しかし彼曰くこの時点で桃佳は、まだ召喚出来るようにはなっていなかった。
玄龍を召喚するには、彼の額に嵌められた黒瑪瑙の“
“玄龍娘々”という言葉自体を桃佳は理解できなかったが、それに変身することに戸惑うどころか、頭が真っ白にしまった。
「ななな、何でその……“ゲンリュウニャンニャン”っての私が変身しなきゃならないの!?」
「早くしろ!!
だが桃佳は、その“玄龍娘々”に変身しなければならないことにたいして、当然の如く拒絶した。
しかし、そのままでは、
桃佳の脳内でその両者がそれぞれ秤にかけられ、そのどちらかにするのかという判断に迫られた。
――――すると、その時だった。
『桃佳、お主には出来る。お主にこの冬亥国、いやこの
桃佳が玄龍娘々に変身するかしないか葛藤している中で、ここへと向かう前に
そう……彼は桃佳にこの冬亥国、ましてや四鵬神界を救ってくれると願っている――――いや、桃佳が彼に願われているんだということを思い出した。
自分にしか出来ないこと――――それは玄龍を召喚出来るようになるために、ここまで来て拒んではいけない。
(だから私は、玄龍娘々に変身なければならないんだ!!そうしなければ、子瑞くんの王位奪還が果たせられない!!)
桃佳はそう意気込むと、玄龍に決意を表明した。
「私、子瑞くんを助けなきゃ!!だから、”ゲンリュウニャンニャン”になってあなたを召喚しなきゃならない!!」
「そうか!!やっと覚悟を決めたか!!早く我の額の“玉”にお前の持つ
そう言った玄龍は、更に言葉を続けて桃佳に自分を召喚する方法を告げる。
「玄龍娘々に変身するために『
「うん分かった。じゃあいくよ」
玄龍から変身するためにそのようなバカげたことを叫べと言われても、桃佳は玄龍娘々に変身することを決意した。
すると身長が1丈(2.3m)もある玄龍は、桃佳に自分の額の黒瑪瑙の“玉”に覚龍珠を当ててもらうために、桃佳の前で跪づく。
そこまでする彼に、桃佳は躊躇うことなく、すぐに玄龍に言われた通りの行動を取った。
玄龍の額の”玉”に覚龍珠を当てた途端、身体が紫黒の光を放ったかと思いきや覚龍珠に吸い込まれるように消えてしまった。
すると覚龍珠が、彼を覚醒させた時よりもさらにけたたましく光を放った。
そして桃佳は紫黒の光に包まれ、力が込みあがった。それにより玄龍祠へと辿り着くまで一睡もせず、この手前の崖を登ったことによる溜まりに溜まった疲労が吹き飛んだ。
それどころか、身体の中――――特に
「何これ……不思議と力が、湧いてくる……!!」
「桃佳、早く変身するのだ!!玄龍娘々になるのだ!!」
「うん、分かった。
桃佳が玄龍を召喚するために玄龍娘々に変身しようとそう叫ぶと、覚龍珠に”玄”の文字が浮き上がり、その文字が水平に回転し、放射状に光を放った。
桃佳はその光は瞬く間に彼女の身体を包んだかと思うと、今度は、身体の周りに大量の水が集まって球体となりその中に閉じ込められてしまった。
そして、その水の球体が縮まり、飛沫を上げて弾けると、自分が着ていた上衣と
(キャアアアアァァ!!やめてぇぇ!!なんで着ていた服が消えるの!!こんなの誰にも
すると桃佳の脛から素足まで先程が消えたはずの水に包まれていて、それが金色の龍の彫金が施された黒革のショートブーツに変わった。
次にその水が胴体と上腕をまとわりつくように包み、桃佳特有の巨乳に沿った身体のラインを強調した服が着せられる。
その服は胸元がはだけて露出した紫黒の袍で、袖はオープンショルダーの振袖だった。ウエストには、紫黒の腰帯の上に重ねて玄龍を象った金属の留め具の革帯を巻かれている。
袍の裾は膝までの長さしかなく、それはチャイナドレスのように腰元までスリットが入っていた。
そして、手から肘にかけて紫黒の薄絹の手袋をはめられ、肩には紫の透き通った
更に頭部の二つの
耳には、黒瑪瑙の輪を描いた玄龍の耳飾りが付けられた。
最後に桃佳の額に玄龍を模した紋が現れ、それに重なって玄龍が彫刻された黒瑪瑙が現れて、それが額当てとなった。
ようやく変身が終わったのか、桃佳を包んでいた光が弱まり、あたりの風景が見渡せるようになった。
桃佳は変身後の自分の姿を確認する前に、それに対する
「……桃佳、何なのだその格好は?」
「えっ……嫌ああああァァ!!なにこの格好!?恥ずかしい……」
すぐさま桃佳は自分の格好を見て、胸がはだけている上、肌の露出が多い淫らな服装となっていることに気づいた。
そのあまりの恥ずかしさに
「嫌だよ~~こんなの……子瑞くん達……特にあの榮騏のスケベジジイに見られたくないよ~~。うっ、うぐぅ……」
子瑞のために変身すること決めたくせに、桃佳は改めてこんな羞恥の念に駆られる羽目になることを今さら気づいて後悔した。
桃佳の様子を察した
「しょうがないのだ。玄龍娘々にならないと、玄龍を召喚出来ないのだ」
「ぐすん……ぐすん……、ハッ!そう言えば玄龍は?どこにいるの!?」
桃佳が意を決して玄龍娘々になったというのに、未だ玄龍の姿が見当たらないことに焦燥した。
すると覚龍珠から、紫黒の閃光がそこから何かがうねり出すように浮かび上がった。
やがてその閃光がうねりながら段々と大きくなり、その先端に顔を現した。
それは漆黒の鱗に覆われ、2本の角が生えており、鋭く力強い目つきをした紫黒の眼球、牙を向けて大きく開いた口、そして紫黒の鬣と髭を生やした龍の頭部だった。
玄龍の顔となってそれに続く曲線を描いた閃光は、段々と龍そのもの姿形に変わっていく。
その顔から下は、漆黒の鱗が煌めく身体の背中から尻尾まで生やした紫黒の鬣、そして四肢には5本の爪を付けていた。
そして現れた姿は、覚醒する前の玄龍の像よりも大きく、全長が約7丈半(17.25m)もあった。
こうして玄龍が今度こそ、誰が見ても龍以外の物には見えない立派な姿で召喚された。
玄龍のその荘厳さに、桃佳と
だが玄龍は、人間の姿だった時のような低く唸るような声で叱咤した。
「急ぐんだ!!我が君。早くせねば冬亥国王の命は無いぞ!!早く我の背に!!」
「えっ!?あっ、分かった。乗っていいってことね」
玄龍は桃佳を自分の背中に乗せると言ったので、彼はかがんで地に四肢を付け、頭を低くした。
その様子を見た桃佳は、遠慮なく玄龍にまたがった。
桃佳は玄龍の漆黒の鱗に触れて、思ったより暖かいことに気づいた。その証拠に玄龍から流気が湧いて、自分が吸収している様を身に感じた。
「
「いかぬ!お前のような
ぴしゃりと警告を発せられ、
すると龍召士として乗せてもらうことを許された桃佳は、恐る恐る聞こうと思ったことを玄龍に投げかける。
「あのさぁ、私があんたに乗せてもらったのはいいけど、飛ぶんだよね?空中を。じゃあ私ごく普通に落とされるよね?何か落ちないようにするにはどうすればいいわけ?」
「仕方ない。我の
玄龍から上から目線で言われたことに桃佳は、思わず口をとがらせて拗ねてしまう。
だがこうしている場合では無かった。
「あッそうだ!子瑞くんって今どこにいるか分かる?」
「ああ、冬亥国王ならこの
「それって、ヤバいのだ!早く行かないと主上もみんなも危ないのだ!!」
玄龍が言うように、人でも妖でもない怪しい存在によって子瑞や、哥邑の村人達にも被害を受けてはいけない。
桃佳もその
「お願い玄龍、早く哥邑に連れてって!!」
「しっかり我の鬣に捕まっておれ。決して落ちぬようにな」
さっそく玄龍は身を上げると、それをひるがえして玄龍祠の入口へと通路を目にも止まらぬ速さで突き抜けて行った。
「うわぁぁッ!!速っ!!落ちるううううゥゥ!!」
桃佳は玄龍の鬣に掴まり、勢いよく吹きすさぶ風にあおられながら身をかがんで落ちないように気を付けた。
「待つのだぁ!!
一方桃佳と玄龍に置いて行かれた
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