第9話 さぁ! 旅に出よう!

 さて、佳代子は一晩中央教会に泊まり、夕食を終えたその日の晩―――――。


「眠れない。」


 キングサイズのふかふかベッドで、何度も寝返りを打って、寝ようと目を瞑るも、余計に眠れない!!


 このだだっ広い部屋、明かりを消すと真っ暗で、窓も重厚なカーテンを下ろされてるから、星明かりや月明かりも漏れることはない。

 それに、ペイリン村の教会は雑木林が隣接していたせいか、フクロウとか虫とか蛙とか、自然のBGMが流れていてそれが心地よかった。


 ところがここは、静かだ。静かすぎる!


 冬に雪が積もった時の様に、無音なのだ。

 そばに控えてるはずの、神官や下女達の息遣いさえ聞こえない。


 コレじゃホラー映画じゃない!!!


 佳代子は、子供のように布団を頭まで被りこんで、朝がくるのを待った―――。


 そして、長ーーーーーーーーい夜を越え、

 夜明けと共に佳代子はベッドから這い出し、ソファーの上で膝を抱えて、チョンっと座り込んでいると、お世話をしにやってきた、神官たちや下女達がその姿を目撃して、やや騒ぎとなった。

 が―――、


 結果的に佳代子には良い結果となった。


 なぜなら……。


「ただいまっ!!!」


 佳代子は少し涙ぐみながら、馬車を飛び降りた。

 早々にペイリン村へと帰ることができたのだ。


「聖女様!?」


 ダリスは佳代子の予想外に早い帰還に驚いた。


 何しろ教会側が何度も人を遣わし、佳代子を呼ぼうとしたのだ。


 帰って来るとしたら、早くとも半年は先だろうと、思っていた。


「思っていたよりお早いお戻りで、驚きました。」


「え……。ムリあんなところ。ホラー映画に出てくる洋館みたいなんだもの! 精神削られるっ!!」


「なにはともあれ、お疲れでしょう……。今日はお休みになられてください。」


「はい……。」


 佳代子はダリスの言葉に甘え、自室のベッドでぐっすり眠る。


 そして、目覚めればお昼も遠に過ぎておやつ時……。


「おはようございます。」


 佳代子はダリスとケネスの顔を見ながら、はたと気がついた。


「ダリスさん、ケネス君、すみませんっ!!」


 起きがけにいきなり佳代子が謝ってくるので、ダリスとケネスは驚いた。


「は、はぁ……?」


 佳代子は、気づいたのだ。

 ダリスやケネスになんの相談もなく、旅のお供に指名してしまったことに。

 売り言葉に買い言葉だったとはいえ、今更撤回もできないだろう……。


 佳代子は中央教会での経緯を話し、ダリスとケネスに素直に謝った。


「本当に、すみませんでした。なんの相談もなく、勝手なことを……。」


 ケネスは少し呆れて、


「言ってしまったものはしょうがない。

 どちらにしろ、パララインの王太子妃殿下に、聖女のお役目をさせるわけにもいかない。元々、私はあなたについて行くとつもりでしたし……。」


 と言った。以外にも、ケネスはそこまで怒ってはいないようだ。


「怒らないの?」


 佳代子は尋ねたが。


「軽率ではあるかと思いますが、あなたにお使えするよう、教皇から仰せつかってましたし。

 その……、莉緒様とあなたを混同視してしまったのは、私が未熟であったと……自らを悔恨するところで……。

 その、申し訳ございませんでした。」


 まぁ! この子ったら! ちゃんと謝れたのね!


 佳代子は、感無量になって、ケネスの頭をよしよしと撫でた。


「またっ!! ……子供みたいに!」


「イヤ〜〜。つい、反抗期の息子が成長したみたいでさ~。」


 私のいい笑顔に、ケネス君は顔を真っ赤にしてぐぬぬっと、歯を食いしばった。


「オホンっ。私めも、聖女様に同伴できること、誉れに思えど、迷惑ではありませんよ。村の者は寂しがるでしょうが、聖女様の本来のお役目ですから、分かってくれるでしょう。」


 ダリスさん……。


「こちらに来てから、本当にお世話になりっぱなしで……。」


 歳のせいか涙腺が緩む。


 そんなこんなで、私、岩谷佳代子は、旅に出ることになりました。


 この3人の絵面、水戸黄門……いや、西遊記か? 

 聖女の私が三蔵法師のはずだが、その座はやはりケネス君か……。(さしずめ私は、沙悟浄だろうか?)


 まぁ、準備等もあるので村をすぐ出るわけではなく、約1ヶ月後に出立となった。


 その間、ケネス君が教会との窓口を担当し、ダリスさんが順路の確認、各所立ち寄るであろう村や街の代表に手紙を送るなど担当し。

 私は出来うる限り村を回り、農作業の手伝い……。


「聖女様……。お役目たぁいえ、行ってまうんだなぁ……。」


 村の皆は私の手に大量のお土産を持たせて泣いていた。


 うん。この量、荷馬車がいる……。


 帰りは、ゼハーおじいちゃんとこの荷馬車を借りて帰りました。


 そうして、瞬く間に時間は流れ、クチナシの花が咲く頃には、出発の1週間前となっていた。


 そんな時に、なんで彼がいるのだろう?


 そりゃ体力抜群だから、草抜き要員としては戦力になるんだが……。


 グラハム少尉!


 佳代子は一瞬、教会へ行くまでの結構な地獄の道中を思い出し、ゾッとした。


 もしかしなくても、お勤めの旅って、この人と一緒の馬車に乗るの???


「聖女様っ!! こちらの草抜きは完了致しましたっ!!」


 グラハム少尉は、大量の草の山を背にキビっと報告してくれた。


「さ、さすが……少尉さん……。」


 グラハム少尉の草抜き稼働率は機械並で、1時間もしないうちに、引き抜かれた雑草が山となっていた。


 イヤ、何というか、少尉さんをこんな使い方……。

 めっちゃ助かるけど……。


「いや〜。さすが軍人だべ! このまま村にいついてほしいくらいだべや!!」


 村の皆も喜んでる。

 あー……比べちゃ悪いけど、ケネス君の時とはエライ違い……。

(ケネス君の時は皆生暖かかったもんね〜。)


 ま、なんとかなるでしょ!!

 多分…………。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る