第8話 教皇の思惑
佳代子は法皇と謁見のため、豪華な部屋に案内された。中で待っていた法皇は、
「ようやくお会いできて嬉しく思います。」
と、敬々しく挨拶するが、佳代子にはとてつもなく胡散臭く見える。が、ここは大人。
「こちらこそお招きいただき、有難うございます。」
と、笑顔の会釈で返した。
ニコライは席を勧め、佳代子もそれに応じ、二人の会談はスタートした。
まず、ニコライから口火を切った。
「まず、3年もの間、聖女様にご挨拶一つ無かった非礼、お許し頂きたく存じます。」
ニコライは頭を下げ、まずは教会側の非を詫びてきた。
ま、当然だが……。少しでも情報を引き出したい佳代子は
「わかりました。謝罪は受け入れます。そちらにもご事情がお有りでしょう、よろしければお伺いしても?」
と、一旦謝罪を受け入れながらも、もちろん教えてくれますよね? と、含みをもたせながら尋ねた。
すると、
「実は……ご存知かもしれませんが、前の聖女様方が振る舞いに少々難が……ありまして……女神様は我々に、試練をお与えにならた。我らの信仰をお試しになられたのです。」
「……そのあたりは伺ってます。」
試練ねぇ……。天災っていうのかなぁ。
そこは同情せんでもないが……。
佳代子はぼんやり思った。
「そうですか。それで、ですね……、今回、聖女様がお二人ご降臨されました。ですので、お二人の間で摩擦が起きれば……教会の権威を失墜させるやもしれません。それに、一人目の聖女月島莉緒様は当初、良く働いてくださいました。ですから……、その……。」
「なるほど? 私がどういう人間かもわからないのに、教会に入れたくなかった……と、言う事でしょうか?」
「不躾ながら、申し訳ございませんっ!」
ニコライは頭を下げる。そのハゲ頭を見ながら、佳代子は畳みかける。
「それで? よく働いてくれる聖女様がいらっしゃりながら、私を呼び出す理由がよく解りませんね。どうしてですか?」
すると、ニコライは言いにくそうにこう言った。
「それが……莉緒様は、隣国パララインの王太子殿下と深い仲に……。すでに懐妊しておいでです。それで……。」
あー……。
隣国に聖女が持っていかれちゃうから、放ったらかしだった私を呼んだ……と。
それにしても、ただ私に聖女のお役目を果たさせたいだけなのかな?
「そうでしたか。それで? 私に要求することはどういった事で? 聖女のお役目を果たしてほしい、ということでしょうか?」
「それもありますが、どうか……莉緒様に教会側に残っていただけるよう、説得をしていただきたいのです!! このままでは、パラライン王国に力が偏りすぎてしまいます! 聖女様を教会に置くのは、無用な争いを避けるためでもあります!」
「なるほど。」
言ってることは……間違いではないだろう……。
しかし、それを言うなら、教会だって権力保持のために、聖女を手元に置きたいのだろうし。
私が今まで読んだ歴代聖女の記録だって、教会側にとって、都合の良い内容しか書いていないのだろうし……。
うーん……。情報が圧倒的に足りない。
聖女の仕事って……各地にある聖石に神通力を注ぐって言うヤツだよね?
だったら……。
「では……、こうしましょう。私はこれから聖石に神通力を注ぐお役目、遅まきながら勤めさせていただきたく存じます。その過程で、月島リオさん? の説得も試みてみましょう。ただし、旅の拠点はペイリン村です。従者の選定も私が行います。」
「それはっ……。せめて従者だけでも、こちらから選ばせてくださいませんかっ!?」
「各国を巡るのです。長い旅になるでしょう……なら、気心がしれた相手と共に廻る方が良いでしょう?」
「それは……そうですが……。それでは各国に、妙な勘ぐりをされてしまいます!」
「全くの部外者ではありませんよ? 私が同行を考えているのは、ダリス神官様と、ケネス神官様、女性がいないのは困るので、ペイリン村のグレタ·ニアレイクさんに、同行をお願いしようかと思ってます。」
「…………。ではせめて、1人でもこちらから人選させてください。」
「わかりました。」
ふむ、この
やっぱりあやしい。
こうして、教皇との初めての会談を終えた。
これで帰れるっ、と何も考えず、案内する神官たち後をついていけば……さも当然と、言わんばかりに、聖女の居室に連れて行かれ、宿泊する手はずをすっかり整えられてしまった。
まぁ、教会の世間体もあるのだろう。
しょうがない。一日くらい泊まってやるか…………。
そして、この日、中央教会でいただくお品は……
ホワイトアスパラのスープ
きゅうりのマリネとクリームチーズのミルフィーユキャビアを添えて
エビとチーズテリーヌ
タラのポワレ、ミントソースを添えて
デザートにグレープフルーツのタルト
と、食べきれないほど豪華だ。
美味しい。美味しいけど――――、
今、部屋には、置物の様に控える女性神官数名と、佳代子だけで、音は食器のカチャカチャなる音だけ。
料理も、広い教会内で厨房から運んでくるのだから、当然冷めきっている――――。
ふと、離婚を決めた日のコンビニ弁当が思い出された。
あの時、チンするのも億劫で、そのまま食べたっけ? 忘れもしない。横浜中華フェアの美味しそうなお弁当……。
でも、あの時のお弁当、
美味しくなかった―――――――――。
ペイリン村の温かいご飯。
食べたいなぁ……。
佳代子はペイリン村が恋しくて、改めて、そこでの暮らしに、ありがたみを覚えるのであった―――――。
その頃、パラライン王国城内では――――。
「莉緒っ……。やっぱり、教皇がもう一人の聖女をっ……担ぎ出したようだよっ……。
ハァ……。」
ブロンドの青年が、ベッドの上で息も絶え絶えに言った。
「ふーん……。まぁ、わかってたことだし、どうでもいいけど? でも一度会ってみたいわね?」
月島莉緒は、少し膨らんだお腹を擦りながら言った。そして、イタズラっぽくニッと笑うと
「ロイドったら……。一人で気持ちよさそうね? 私、まだ安定期に入らないし、しばらくは大丈夫かしら?」
と、そっと彼のを撫であげる。
「そっ……そんな……。キミが僕をこんなにしたのにっ!!」
「大丈夫。せ・き・に・ん 取ってあげる♡」
莉緒はそう、パラライン王太子であるロイドに甘く耳元で囁やけば、彼は苦しそうに呻いた。
そして……。
あぁっーーーーーー!!
ロイドは熱と甘さを帯びた叫び声を上げ、果てた。
「莉緒っ。僕はこの立場があり、お腹の子の父親なんだ。僕のこと……頼ってよね。」
ロイドは半身を起こすと莉緒を抱き寄せた。
「うん。ちゃんと守ってね。」
莉緒はロイドの胸板に頰を擦り寄せる。
そして、ロイドの腕の中で少し考えた。
彼女はどうなるのだろう?
と、
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