第6話 中央教会の大失敗
女神正教中央教会―――。
女神降臨の地に作られた大教会で、その歴史はすでに千年を超える。
その歴史の中で、女神様が異界より遣わされる特別な使徒が聖女であり、初代聖女ペイリン降臨から、多くの聖女達がこの地を支え教会を導いてくれていた。
が、
女神は、時として気まぐれで、聖女というにはあまりに酷い者も多数存在し、教会ではその言動を隠匿していた。
しかし、隠匿も限界があり、教会への不信が囁かれる事態に発展することも……。
だが、聖女は勝手に降臨してくるし、異界の知識は危険を孕んでおり、放置も危険。
それだけではない。
彼女らは神通力を持ち、それをよそに持っていかれては困るのだ。
ならば一番いいのは飼い殺し。
教会のためにならないのなら、一生幽閉しておくのが一番手っ取り早く、安全である。
ところが、規格外というものはごく希に存在する―――――――。
今回現れた聖女は2人。
1人は首都付近で現れ、もう一人は初代聖女降臨の地ペイリン村に現れた。
1人目の聖女は月島莉緒という日本人で、虫も殺さなさそうな幼い顔立ちだが、豊満な体を持ち、聖騎士も神官も鼻の下が伸びる。
現教皇のニコライも高齢ゆえ、その気にはさすがにならないまでも、先の聖女のようなことはないだろうと、甘く判断してしまった。
それに、3代続いた聖女達のやりたい放題は、教会の威厳を失墜させるには十分で、見目のよろしい聖女は教会の復権に大いに役立つと、現教皇は考えたのだ。
だが、それが、誤りであった。
この莉緒という娘、一見男慣れしていなさそうに見えたが、そこらの娼婦共より男の扱いがうまく、上手に遊んでいた。
それだけではない。
想像以上に策士で、教会の後ろ盾だけでは自由に動けないと思ったのだろう……。
彼女はこともあろうに、隣国パララインの王太子の子をその身に宿した。
通常の貴族令嬢であるなら、正式な手続きを経ずに既成事実を作った場合、下手すれば子供は非嫡出子とみなされ、最悪輿入れも叶わず、一生涯陰日向の身。
だが、彼女は聖女。
国は神通力を手に入れることができる!
しかし、教会と軋轢を生みかねないので、交渉の余地はあるだろうと、パララインの王太子と秘密裏に接触を試みるも……。
結果は賛嘆なるものだった。
皇太子は聖女にすっかり骨抜きにされ、まともな判断もできないようであった。
聖女月島莉緒は教会も一国も手玉に取り、その威権は教皇に並びうるものになってしまったのだ。
教皇ニコライは激しく後悔した。
こんなことになるなら……地味なもう一人を手駒に使えばよかった!!
しかし……、今からでも祭り上げ莉緒の対抗馬にできれば、最悪莉緒をパララインにわたすことになっても、聖女という切り札は手元に置いておける。
ところが、
信心深く真面目な神官ケネス·オストに、もう一人の聖女を連れてくるように指示したが、丸一日経っても帰らなかった。
そこで、次に脅しの意味も兼ねて、グラハム·イェーガーを送った。
あの者ならわざわざ手をあげずとも、一睨みしただけで、聖女は怯え命おしさに言うことを聞くだろうと、思っていたのだが……。
そうは問屋が卸さなかった。
あのグラハム少尉相手に、物怖じもせず交渉し、中央教会に滞在するのは長くとも3ヶ月だと期限を切ってきた。
度胸の座りようが尋常ではない!
莉緒より手に負えない女かもしれない――。
そう思うと、目眩が起こる。
教皇ニコライは女神像に手を合わせ、
「迷える我らに御導きを……。」
と、祈りを捧げた。
その頃、佳代子はダリスから衝撃の事実を聞かされ、思考ストップ状態だったが、
「おはようございます。何事ですか?」
と、すっかり筋肉痛から回復したケネス君を見て、
ハッと、思いついた。
「ケネス君! あなたもう一人の聖女のこと知ってるのよね!? 教えて!!」
「はぁ……。」
ダリスさんからケネス君に事の顛末を説明―――。(グラハム少尉が、佳代子に惚れてるらしい面倒くさい話はしなかった。)
「なるほど――。
もう一人の聖女莉緒様ですね……。」
ケネス君、明らかに口ごもる。
「ちょ、ちょっと黙らないでよ!! なんか、怖いじゃない!?」
嫌な予感……。
「……最初は、聖女にふさわしい清らかな方だと思ってたのですが……。その、異性交遊を好むというのか……そういう方ではないと思っていたので……ショックだっと言いますか。」
あー……つまり、ビッチであると……。
うー……わー……行きたくない。中央教会。
グラハム少尉のこともなんとかしなきゃ……。
悪い人じゃないから、できるだけダメージ少なく……。
でも、腹くくらなきゃね……。
「よし! 行ってみようかな中央教会!!」
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