第5話 男塾! 熱血聖騎士現る!!
さて、ケネス君を一人教会に帰らせ、今日はカイドーさんとこの畑でオクラを植え、帰りは馬を借りて教会に戻った。
すると、まーた中央教会のエンブレムを掲げた今度は騎馬兵がやってきていた。
はぁー。
今度は実力行使で、無理やり連れて行こうというのだろうか?
大体、なんで3年も放置していた聖女なんかに今更構う気になったのだろうか?
どうでもいいが、ここでの生活基盤が出来上がってるっていうのに、非常に迷惑だ。
憂鬱な気持ちで教会の勝手口から中に入る。
「ただいま〜。」
すると、ヌッと黒い影が前を塞ぐ。
見上げると、2mはありそうな大男がデンッとこちらを見下ろしていた。
「……どちら様でしょう?」
と、恐恐尋ねると、彼は何故か沈黙し、ジッとこちらを睨み倒す。
怖いんだけど……。
私、勇気を出して自己紹介。
「あのー……、私、岩谷佳代子と申します。一応、聖女でして、こちらの教会でご厄介になってます。」
すると、
「聖女様……。」
「はい。」
え? 何この人。
「しっ……失礼いたしたっ! 私は聖騎士団、白鷹部隊所属、グラハム・イェーガー少尉でありますっ!!」
と、ビシッと敬礼して挨拶してくれた。
どっかの誰かよりよほど丁寧な挨拶だ。
少なくとも、なんのいわれもなく批難してくる意思はないようなので、
「ご丁寧に挨拶くださいましてありがとうございます。立ち話もなんですから、こちらにどうぞ。」
と、茶の一杯でも出す気になれた。
すると、緊張してるのか大声で彼は言った。
「わっ私はっ! 無骨なばかりで!! おほめにあずかるようなことはっ!!!」
鼓膜が破れそうだ。
とりあえず、中に招き入れ、ハーブティーをお出しした。
「粗茶ですが……。」
「有り難く。……むっ! これは、ミントティー!!」
少尉さんのお顔が険しい。
「お嫌いでしたか?」
「いえ! 私に祖母がよく入れてくれた懐かしい味!! いたみいりまする!!」
えーと、褒めて、くれてるのかな??
少尉さんはお茶を一気に飲み干し、
「結構なお味でござった! ありがたく存ずる!!」
と、キビキビカクカクした動きで頭を下げた。
ちょっと感情が読みにくい人だけど、悪い人ではないみたい……。
怖いもの一周回ってなんだか可愛げがあるように感じる。
私はくすくす笑ってしまった。
「何かおかしなことでも?」
少尉さんに聞かれて、
「ごめんなさい。なんだか貴方可愛くて!」
「か……可愛い。」
少尉さん耳まで真っ赤になった。
「そのようなことは初めて言われました。」
「ごめんなさい。」
「いいえ。」
「それはそうと、中央教会からのご用事ですよね? どのような?」
「はっ! それは、ケネス神官殿が戻ってこられず、聖女様を中央教会にまでお招きするよう仰せつかっております。」
やっぱり。でもな〜……。
「そうですか。ですが……どうして今なのでしょう? もう一人聖女様がおりましたでしょう? その方を頼ることはできないのでしょうか?」
と、聞いてみるが、少尉さんは口を真一文字に結んで、
「申し訳ありません。申し上げられないのです。」
と、答えた。
私は少し考えた。
この少尉さんは私に対して、それほど敵対的な態度を取らない。聖騎士にも関わらず。
でも、お断りして、今度は何が来るかもわからないし……。
「ふぅぅーん……。では、こうしましょう!
私はこの村が気に入ってます。だから、この村に必ず帰って来られるように、契約を結ぶというのはいかがでしょう?
私はそちらの条件をできる範囲で飲みます。その代わり、ペイリン村での永住をお約束ください。それなら、中央教会に行くことも同意します。ただし、教会にとどまるのは長くとも3ヶ月にしてください。」
「ふむ。かしこまりました。持ち帰って一度検討してみましょう。」
「ありがとうございます。」
こうして少尉さんは部下を連れて帰ることに。
粘られることもごねられることもなく、何より、先入観だけで話を進めない人柄に好印象がある。
……顔面凶器だけど。
門前までお見送りすると、
部下の騎士達の視線が冷ややかで、やっぱり歓迎されてないことだけは間違いなかったが、少尉さんは
「突然の来訪にも関わらず、受けたもてなし、痛み入りました。感謝申し上げる。」
と、丁寧にお辞儀してくれた。
やっぱり、良い人だなぁ。と、感心して
「道中どうぞお気をつけてお帰りください。」
そう別れの挨拶を告げれば、部下の騎士達は不思議そうに顔を見合わせた。
なんだろう?
とは思ったが、彼らはそのまま帰路についた。
そして、グラハム少尉一行が帰路を進めている道中、部下の一人が尋ねた。
「少尉! 聖女を連れ帰らずによかったのですか?」
「馬鹿者っ! お使えする聖女様に無礼であろう!」
「申し訳ございませんっ!!」
「それに、聖女様とて妥協をお許しくだされた。話は一度持ち帰り、枢機卿のお考えを仰がねばっ!」
と、グラハムは答えた。
それを聞いて部下達は、聖女、岩谷佳代子に驚いた。
見送りの際の堂々とした態度も驚いたが、この見た目だけで脅せる、グラハム少尉相手に渡り合い、条件を引き出させたのだ。
確かに、グラハム少尉は面倒見が良く人徳を兼ね備えた男ではあるが、この顔の怖さと巨体で、ある程度付き合いがなければ、誰もが萎縮する。
イェーガー家と言えば騎士の名門だが、グラハム少尉が見合いの席に出れば、お相手の令嬢は怯え泣き出し、逃げ出す始末。おかげで29歳の今も未婚のままだ。
そんな男と、一対一で交渉で渡り合った、それも女の身で。
性悪かどうかはさて置き、度胸の座りようは半端でない。
初対面で少尉も一目置いている。
これは……一筋縄ではいかない相手だ!
と、部下達は生唾を飲んだ。
一方、肝心のグラハム少尉は、
「ごめんなさい。なんだか貴方可愛くて!」
と、微笑む佳代子を幾度も反芻しては、緩みそうになる頰を引き締めようと、鬼の形相を作っていた。
ようはこの男、佳代子に一目惚れしてしまったのだ。
イェーガー家の三男として、お見合いには幾度も臨んだが、その度にご令嬢方には泣かれ、パーティーに行けば避けられ、これはもう生涯独身しかないと、半ば諦めていた。
そんな折、佳代子の
「ごめんなさい。なんだか貴方可愛くて!」
の、笑顔にあっさり陥落。
今までの聖女のせいで、理由もなく貶められた佳代子の名誉を回復すべしと、使命に燃え上がったのだ。
そんな面倒なことになってるとも知らず、
今夜のディナー、アヒルのオレンジ煮と蕪のコンフィーにアーティチョークのバターソテーをいただきながら、至福のひとときを味わっていた。
そして、翌朝、早速少尉さんが今度は馬車を引き連れ、教会の色である白の正装でお見えになられた。
「うふふふっ。王子様みたいですよ!」
と、冗談を言ったら、グラハムさん一瞬ボーッとなって、我に返ったように慌てて
「教皇殿下は聖女様の条件を承諾されました!つきましては、中央教会まで、教皇殿下に謁見願いたく存じます!!」
と、やっぱり鼓膜が破烈しそうなボリュームで喋る。おかげで、私のHPは10くらい吹っ飛びました。
朝か食らったダメージと、佳代子の中で出来上がった“少尉さんは良い人”像で、まぁ良いやと思い
「は、はい。」
と、かるーくお返事したところ。
「少々お待ちを! お支度がありますゆえ。」
と、ダリスさんが……。
まぁ、あの勢いでつい返事しちゃったが、軽率だったと、佳代子も思い、一旦下がった。
「ダリスさん。ありがとうございます。ちょっと冷静さを欠いてました。すみません。」
と、佳代子はダリスさんに頭を下げた。
「いえいえ、聖女様は賢明であられる。それほど心配もしていませんよ。しかし……。」
「何かあったんですか?」
「お聞きしますが、聖女様はあの、イェーガーの三男をどう思っておいでか、お聞きしても?」
「顔は怖い方ですが……良い人ですよね? 真面目で実直な……。」
それは、そうだが、そうじゃない!!
ダリスは教皇殿下の排出される神聖貴族一門の出、イェーガー家のこともよく知っていて、あのグラハム少尉も子供の頃から顔見知りだ。
だからこそ知ってる。
あの少年、イヤ、もう三十路近い男であったは、少し照れ屋で、感情が顔に出そうになると、しかめっ面をして、大声になる悪癖があった。
先程のあの態度、もはや隠しきれてない。
多分、間違いなく……。
「私は、彼を幼い頃から存じてます。ですので、多分、恐らく……彼は、聖女様に恋しています。」
「へ――――――――――――――?」
佳代子は、ダリスの言葉を聞いて、宇宙の神秘を覗いているような気分になった――――。
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