第4話 ケネス、もうお婿に行けない(泣)

 さて、夕飯前のご挨拶? 彼的には宣戦布告だろうか?


 しかし、まぁ、年食ったな。私……。


 若い子が威嚇しながら物申しても、子猫の威嚇にしか見えない。この風林火山の如くの精神。


 うん。私、もうこのまま仙人になろう。


 空も飛べるはず〜♪


 そして待ってました本日のディナーは……。


 みんな大好きハンバーグ!!


 しかもなんと、豚肉とジビエの合い挽きとお高級なハンバーグ♡

 相方の添野菜は……焼いただけなのにアラ不思議! 甘くてほっぺが落ちちゃうニンジンさんに、香ばしく焦げ目をつけた玉ねぎさん、そして間引きハーブのレモンドレッシングあえサラダ!!


 今日の夕飯当番は私とグレタちゃん(15歳の青春真っ盛り)。


 ハンバーグこねながらグレタちゃん吠える。


「なんですか!! あのいけ好かない神官はっ!!! 顔がいいからって何しても許されるなんて思ってないでしょうね!?!? 」


「まぁまぁ。えーとケネス君だっけ? まだ若いんだし……。」


 私、グレタちゃんをどうどうするも、


「聖女様! あんなヤツを甘やかしちゃダメです!! 近所の悪ガキみたいにつけあがるに決まってます!!! とっとと追い出しちゃいましょう!!」


「ダリスさんのメンツに傷ついちゃうし、賓客としてもてなさなきゃ。」


「えーっ!! でも一矢報いてやりたいです!……あ、オレガノたっぷりハンバーグにしちゃいましょう!!」


 グレタちゃん悪い顔でニタリと笑う。


「コラコラ。」


 そして、夕飯も、皆で、完食。


 食べ終わった後で、ケネス君がちらりと同席するグレタちゃんを見る。


「彼女は?」


「グレタちゃん。今日一緒に料理当番してくれたのよ。」


 と、私が紹介すれば、


「そうじゃないでしょ!! なぜ下女が一緒に食卓を囲んでいるのですか!?」


「グレタちゃんだって頑張って作ってくれたんだから、一緒に食べるくらいいいじゃない。」


「な!? 下女に食べさせるような物をダリス様にまでっ!!!」


「美味しかったでしょ?」


 ケネスの皿はソース一滴も残らぬくらいに綺麗だ。

 パンにソースをたっぷりつけて食べてたものねぇ?


「ぐッ!! しかし、身分を軽んじるなど!!」


「私にとっては皆で楽しく食べるほうが大事なの。そういうのは中央教会でやってちょうだい。グレタちゃんワイン取って〜♪」


「はーい♡」


 グレタちゃん、ワインのデキャンタを私に渡す際に、ケネス君を一瞥しニヤっと笑った。


 ケネス君はプンスカ怒って食堂を後にする。

 グレタちゃんはその後ろ姿をあかんべで見送った。


「あーあ……。子供ねぇ。彼おいくつなのかしら?」


 あれじゃ結婚できても、相手からすぐ愛想を尽かされてしまわれかねん。オバちゃん心配です……。


「あれでも23歳です。申し訳ありません。思い込んだらなかなか改められない頑固者でして……。」


「あら……じゃぁもうご結婚を? 奥さま大変そうね?」


「あぁ。いえ、女嫌いもありまして、未だに。」


「フンッ!! あんな男結婚できるはずもありませんわっ!!」


「グレタちゃん……。」


 こうして、この日は終わった。

 しかし、若い子のエネルギーは凄い。ケネス君など、まるで嵐である。

 まぁ、興味がなくなればそのうち帰るだろうが……。


 翌朝。


 汲んできた井戸水に、熱湯を注ぎ程よい湯加減の湯船を作り、体をきれいにしてから朝食。


 朝食はいつも私が勝手に作る。


 今朝は3人分、えーと……。


 マヨネーズはまだ残ってたから、卵サンドで……。


 卵を茹でて、潰して、マヨネーズ!

 隠し味にチーズ、刻み玉ねぎピクルス!


 ベーコン焼いちゃお♪


 完成ー♪


 ケネス君、朝からまた眉間にシワが寄る。


「なんですか? これ。」


「朝ごはん。」


 皿には卵フィリングが入ったボールと、ベーコン、パンが乗ってる。


 私、気にせず、


「いただきまーす♪」


 パンにたっぷり卵フィリングを乗せ頬張る。

 やっぱ、卵はいい。

 朝といえば卵。


 ダリスさんにも起きてきて


「おはようございます。」


 と、食卓につき、一緒に食べる。


 ケネス君は、渋々食卓につき、恐る恐る卵フィリングを食べる。そして、パァと、顔が輝いた。


 そうか、そうか。


 美味かったか。


 そして、朝の日課農作業。今日はケネス君も参加。本日はモーガンさんとこの麦畑。

 今は春。春は雑草との戦いの前哨戦である。


 その前に、モーガンさんとこの畑まで歩かないといけない。距離にしておよそ2.5kmかるーく遠足だ。


 そして、たどり着く頃には……。


「あンれ、まぁ……。神官様だべ? こげぇな田舎道慣れてなかっただか?」


 ケネス君ゼーハー言いながら


「こ……こんなに……遠いならっ! 馬車を……。」


「え……停めるとこないじゃない。迷惑だし。」


 まさか、この程度でバテるとは、私、ちょっと呆れてケネス君を見下ろす。そして、


「すみません。ちょっと迷惑かけるんですが……彼を休ませてもらっていいですか?」


「そったらこと気にしねぇで!! 中央教会の坊っちゃんだぁ、しょうがねぇで!」


 と、奥さんのシシルダさんに言われ、ケネス君、ちょっと傷心したようだ。


 そして、ケネス君は畑横の、休憩用ガゼボに置いて、せっせと草抜き。


 私、ここでの生活も大分慣れ、1畝でヒーヒー言ってたのが、今や3畝連続で作業可能!


 お昼からはケネス君も草引きに参加し、私が麦の苗を間違って抜かないよう、見張りながら作業する。


「ケネス君。それ麦。雑草はこっち。」


「わ分かってる!」


 てな感じで、夕方には作業終了。


 ケネス、またバテる。


 まぁ、最初は私もそうだった。

 皆家に泊めてくれたりして、有り難かったな。

 と、ほっこり昔を思い出す。


 そして、やはり私一人では、彼を担いで帰れないので、泊めていただくことに。


 そして、モーガンさんとこの次男バズ君(隣町のシンシアちゃんといい感じ)が帰宅。今日も野菜がよく売れたとホクホク。


 そして、死にかけ5秒前のケネス君見てちょっとドキリ。


 シルバーブロンドでイケメンだから、弱ってると妙なフェロモンを出してしまうらしい。


 一応私、釘を刺す。


「彼、中央教会から派遣されてきた神官様だからね。シンシアちゃん悲しむよ〜。」


「聖女様!! いくらなんでも、男に手を出しゃしねぇっぺ!!!」


「なるほど、想像は致しちゃったと!?」


 キラーンと私の目が光る。


「かっ勘弁してくんろう!! 一瞬別嬪なお嬢さんだ思ったけんどもっ! 男は堪忍でぇ!!」


「あははは。いいさ。いいさ。青春の1ページってヤツだよ。」


「せ聖女様〜。」


 と、程よくバズ君をからかって遊んでると、ケネス君、チョー睨んでくる。


 もーヤダー♡ 怖ーい☆


 そして、夕飯はシシルダさん特製野菜シチューとチキンソテーにパン。


 美味しいンだなぁ、コレが!


 トマトベースのシチューにパンをつけワインと一緒に流し込む。プハーッ!


 コレがあるから頑張って働けるってもんよっ!!


 そして、翌朝――。


 床に、ケネス君の、死体がっ……!!!


「か過労死っ!?!?!?」


「そんなわけっ……あるかっ!!!」


 ケネス君首をぐいっと上げ叫ぶ。


「良かった~。元気そうで。」


「本気で言ってるのか!?」


「何で床に寝てるの? そういえば……。」


 私、ケネス君に尋ねたところ、ケネス君、わかりやすくビクッとなった。そして……。


「…………………で、う………ない。」


 声ちっちゃ過ぎて聞こえない。


「えーと?」


「き、筋肉痛で動けないんだっっ!!!」


 と、赤面して白状した。


 もー、しょうがないな。私、


「シシルダさーん!! 筋肉痛ですって!!」


「あいよ!」


 シシルダさん、サッとセイヨウオトギリとサフラワーをブレンドした特製鎮痛パックを手に登場。


「く……来るな! 何をする!!」


 ケネス君はどうやら、自らの貞操の危機を察知したらしい。


「じぃーっとしてろぅ! 痛ぇこたぁしねぇから!!」


 わ゙ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!


 朝、目覚ましアラーム代わりにケネス君の断末魔が響き渡った。


 そして、


 ベッドの上には、


 パンツ引っ張り上げられ、Tバック状態のプリケツからふくらはぎにかけて、鎮痛パックをたっぷり塗りつけられ、うつ伏せ状態のケネス君が……。


「まな板に乗った魚みたい。」


 私、ついうっかりポロリ。


「このくれぇでギャーギャー騒ぐて、嫁入り前の娘御じゃあンめぇに!」


 シシルダさん呆れてため息を漏らす。


 1時間後、ヨタヨタとケネス君一人で教会に帰らせた。

(私は次のお手伝いがあるからそのままカイドーさんとこの畑へGo!)












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