第3話 素晴らしきかなスローライフ! と、思ってたのに!!

 昨日の騒ぎから一夜明け、

 とりあえず私のお手伝いは、毎日順番に一軒一軒回ることになった。


 あの時、ダリスさんが来てくれなかったら、事態は収拾してなかっただろう……。


 しかし、私の女神の神通力は、作物を大きくしたり、味を良くしたり、除草、防虫効果まであるらしい。


 お陰で、


「聖女様! 今日は人参の種まきでぇ! よろしく頼むわぁ。できたらにんじんケーキにして持っいくで!」


「わぁ、美味しそうですね〜。」


 など、村人達と気軽に話すように。


 バツイチアラサーの、ささくれだった心には人情が染みる。


 あ~。平和だ。


 いつまでもこの平和が続けばいいのに〜。


 そう切に願いながら、1ヶ月、2か月と過ぎていく……。


 いつまで経っても、中央教会からなんの音沙汰もないな〜なんて思ってたら、街に野菜を売りに出てたジョージ君(17歳、現在彼女募集中)から、美人な聖女が現れたとかなんとか……。


 ダリスさんいわく、希に聖女様が2人現れることもあるらしい……。


 へーーーーー。

 まっ、いいや。

 村での生活が平和すぎてサイコーだし。


 少し農作業を手伝うだけで感謝され、毎日完全無農薬の新鮮野菜に、新鮮ジビエに、絶品ソーセージ、等が頂ける。

 そのせいか、最近肌艶もよく、化粧品がなくてもいい感じに! 


 むしろ、もう一人の聖女ちゃん現れくれて、ラッキーみたいな。

 なんか都で祭り上げられて、巡礼とかお役目果たしてくれてるみたいだし。

 メシウマすぎてサイコー……。


 そんな、程よく働きながら平和に過ごし、早3年。

 その間、魔物討伐とかで村の男達が出兵したりしたが、一応聖女だしなと思って、約100人分の簡単な木製ビーズのアミュレットを作成。


 そのおかげかわからないが、彼らは全員無事に帰ってきた。


 良かった良かった~。


 なーんて……この、ウフフアハハなスローライフは、いつまでも続きはしなかった。


 翌年の春。


 それはやって来た。


 中央教会の天馬と盾のエンブレムを掲げた、たいそうご立派な6頭立ての馬車が。


 そこから降りてきたのは、シルバーブロンドの長髪の若い神官。

 彼は降りてくるなり、たいそう苛立った様子で私を呼びつけた。

 そして、開口一番に、


「聖女様におかれましては、地方でのご静養は十分かと存じまする。ゆえに、そろそろ中央教会へ参上していただきたく参りました。」


 と、睨みながら言う。


 喉元まで出かかった「イヤです。」を必死に押し殺し、私は出来る限りにこやかに


「静養? そちらからの召喚がございませんでしたので、私はてっきり、ここに留まっているべきなのだと勘違いしておりました。申し訳ありません。」


 すると、神官、ギッと睨む。


「何をふてぶてしい! お役目にある聖女様であるなら、最初に中央教会に顔を出すべきでしょう! それを我々から出向いたのです! 感謝されこそすれ、口答えなどっ!!!」


 これ、断っても良いんじゃね?


 そう思った私は反射的に


「じゃぁ行きません。」


 と、答えた。


「な!!!!!?????」


 若い神官は、狐につままれたような面白い顔になった。イケメンが台無しだ。


 ダリスさんの蒼白な顔を見て、不味ったかもとは思ったが……。


 我慢は良くない。と、前回の苦い結婚生活でよくわかった。同じ鉄は踏むまい。


「では、お気おつけてお帰りください。」


 と、私は踵を返して教会にある自室へ戻った。


 そして、そのまま帰るのかと思ったら……。


 昼食を食べに食堂に行けば、いるんだな〜あのイケメン神官が……。


「帰ればいいのに……。」


 思わず呟いてしまった。


「私どもとて来たくて来たのではありませんっ!! 聖女をお連れせねば、私が咎められるのです!!」


 知らんがな。


「そんな居直り強盗みたいなこと申されましてもね……。」


「強盗!?!?!? いくら何でも侮辱が過ぎましょう!!!!!!」


「じゃぁ私のことは侮辱していいと?」


「礼儀もわきまえぬ相手に不要でしょう!!」


「なるほど、難癖つけるのが礼儀と? それも初対面の相手に……。

 どのようなご了見かは存じかねますが、貴方のように最初から敵意むき出しの相手なんて、信用できません。なぜそんな相手にホイホイついて行くと? もう少し考えられないのですか?」


「そのような我が儘!!」


「ケネス神官殿!!」


 と、ダリスさんが声を張り上げた。普段穏やかなのにその迫力たるや、イケメン神官はすっかり鳴りを潜めてしまった。

 そしてダリスさんは続ける。


「我が儘とは、言葉が過ぎるようですぞ。

 それに、聖女様の神官として任を頂いて来た貴方が、聖女様に敵意むき出しでは周りに示しがつきますまい。それに、この村で聖女様を無碍に扱うと手痛い目にあいますぞ?」


「な? 脅すのですか!? 教皇殿下のお血筋の貴方が!!!」


 教皇殿下の血筋!? ダリスさんが??

 わぉ! ロイヤル〜。


「聖女様も、お腹立ちはごもっともではありますが、どうぞ寛大なるお心でお願いします。」


「わかりました。ダリスさんがそう言うなら。」


 こうして、しょうがなしこの険悪ムードのなかお昼を食べることに……。


 はぁ、今日はクラン君が釣ってきた川魚のムニエルなのに……。

 しかも、今日は朝から難癖神官君が来るから、一緒に川釣り行けなかったんだよね〜。


「行きたかったな〜。川釣り。」


 そうため息交じりに呟けば、すかさず難癖君が反応する。


「川釣り?」


「聖女たるものは川釣りなんて、おはしたないことしちゃいけませんでしたか〜? スミマセーン。」


 いい加減うんざりした私は嫌味っぽく返す。

 しかし、なんだか難癖君は目をパチクリして驚いた様子。


 そして、難癖君はダリスさんのほうを見る。

 ダリスはその視線にこう答えた。


「聖女様はこのように、素朴な方でらっしゃいます。農作業になども参加され、おかげでここしばらく豊作続き、皆喜んでますよ。」


 難癖君は腑に落ちなかったのか、疑義を挟もうと口を開くも、


「因みにですが、聖女様は最初からこのようなお方でしたよ。国も習慣も違うところに突然やって来て、我々を謀ろうなど、それこそ荒唐無稽ではありませんか。」


 すると、難癖君黙り込み、そのまま黙々と食事をとった。


 本日のランチは

 クラン君が釣ってきたマスのカリッカリのムニエルに、庭で育てたハーブを添えて、添野菜はほうれん草ソテーに、ジャガイモのヨーグルト入りマッシュ

 魚もさることながら、添え物野菜も噛むごとにまろやかな甘みが広がり絶品!

 特にジャガイモなんかは、この世界ではメジャーじゃなかった作物だったにも関わらず、私が布教した大変思い入れ深い野菜!

 不味いはずがない!!


 そして、皆で、完・食!!


 難癖君思わず、


「美味しい!」


 と目を見張る。


 フフン! 私、ドヤ顔が隠せない。


 難癖君はちょっと悔しそうだ。


 ちょっぴり優越感。


 そして、その日の晩……。


「しばらく、貴女をここで見守ろうかと(監視しようかと)存じます。」


 と、上から目線なのは変わりないにしても、多少軟化した態度で、難癖君は言った。

 私は、


「えぇ~。帰らないの。ここでいつまでも、私、平和に暮らしたいんだけど……難癖君。」


 と、正直に答えた。


「難癖……。」


「気づいてないの? 貴方私に自己紹介すらしてないよ?」


 すると、さすがにバツが悪そうに難癖君は頭を下げた。


「……これまでのご無礼申し訳ありません。私は、中央教会でお仕えする神官、ケネス·オストでございます。よろしくお願いします聖女様。」


 聖女様ねぇ。


「私の名前、“聖女様”だと思う?」


「は?」


「私ね、岩谷佳代子って言うの。よろしくね。」


「イ……イワタニ様……。」


「そう。様も別にいいけどね〜。」


「はぁ。」

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