異世界のスライムとは
「クイイーッッッっっ!!」
しかしその瞬間奇妙な鳴き声が聞こえ、俺は思わず後ろを振り返る。
するとそこにはその奇妙な鳴き声と違わず、奇妙な生物がいた。
体はドロドロと溶けているのに、それらは分離することはなく、その生物はその粘膜を手のように動かしている。
体の表面ははルビーのように真っ赤なだが、その内側は暗く、どろりと濁っている。
濁った底にかろうじて見える目がじっと俺を見上げていた。
一番近いのは、前世の知識でいうならばスライムとだろう。
でも、なんかホラー映画とかに出てきそうな見た目だ。なんというかグロデスクというか。ちょっとイメージと違う。
「グいぃ…。」
その生物はゾンビのような声を出すと、ズルズルと這ってネズミたちに覆いかぶさった。
一瞬でネズミがドロドロになる。それから、その液体をドロドロの体に吸収した。
その生物はゆったりと起き上がると、そのままいかにも、え?俺が仕留めた獲物ですけど、といった堂々としたふうで俺の横を通り過ぎる。
「グエッ…」
おどろおどろしいすがたに一瞬たじろいだが、無言で尻尾で足のように使っている粘膜に尻尾を引っ掛ける。
潰れたカエルのような声を出して、前に倒れ…、はしなかった。こいつには向きという概念が無いらしい。
前も言ったが、魔物には感情はない。ただ何かのプログラムに沿って動いているだけだと思う。けど、けどね。なんか態度がね?
「くいぃ!」
やっと俺に気づいたという体で、目がぎょろりと動き俺を見つめる。
いやさっきから気づいてたでしょ。見てたしね。
まあ、色々思うところはありつつも、『鑑定』する。
"グロデスクなスライム"
"『鑑定』のレベルが上がりました"
こいつのイメージが表示されると同時に、中性的な声が頭に響く。
やっと『鑑定』のレベルが上ったっぽい。
意味わからないけど『鑑定』しまくったかいがあったね。
「クイぃぃぃ!」
色々試したいことはあったが、叫び声を上げて襲いかかってきたので慌てて避ける。
俺がさっきまでいたところが溶けていた。それはまあ、ドロドロに。結構やばいやつだった。
もしかしたら、そういうスキルを持ってるのかもしれない。
一旦バックステップで後ろに下がると、再度『鑑定』する。
『鑑定』のレベルが上がったから、どんな感じか、知りたかったからだ。
でもまあ、もう期待なんてしませんよ、『鑑定』さん。俺は成長したのだ。
"レッドスライム
おお、ちゃんと俺の想像じゃなくって、本当の名前が、でる!
俺自身以外はテキトーだったあの『鑑定』さんがちゃんと分類に沿った『鑑定』をできるなんて。普通にすごい。
だってレベル1の『鑑定』、自分が思ってたことを文字に起こされるだけだもん。若干恥ずかしいし。
それにしても、目の前のこいつ、スライムだったのか。まあ確かにどっちかって言えば、スライムに似てはいるのかな?中に目が入ってるし別の種類の生物な気もするけどね。
異世界のスライムの謎について考えつつも、レッドスライムの動きを観察する。でも、移動速度も遅いし、初めは飛んだのにびっくりしたが、1回に飛ぶ距離も短い。
気をつけていれば、別にやられることはない相手だ。
しかし、倒そうと考えるとこいつは途端に難しくなる。なんと言っても触れただけでドロドロに溶けるのはやばすぎるのだ。
まあでも俺に関しては相性は別に悪くない。『進化』前だったら逃げる一択だっただろうけど、今の俺には『毒射』があるのだ。
さっきの戦闘でちょっと使えないっぽいイメージになってしまったが、今回は結構相性抜群だ。
コントロールがまだ全然できないが、これくらいの近接戦なら大丈夫だろう。
『毒射』
そう念じると、喉元にせり上がってきた毒をレッドスライムに向けて吐く。
相変わらずひょろひょろと飛んでいって、あ、横にそれた。
よし、もう一発。
『毒射』
『毒射』
『毒射』
................
"『毒射』のレベルが上がりました"
なんとかレッドスライムに毒液を当てようと頑張っていると、何回目かのところで『毒射』のレベルが上がり、次の瞬間には毒液がレッドスライムに直撃していた。
「くぃぃぃぃぃー!!!!」
レッドスライムは断末魔を上げると、そのドロドロの体が崩れ落ちる。
やっぱり毒液は結構相性がいいみたいだ。
"レベルが上がりました"
中性的な声が響きレベルが上ったことを知らせる。
それを聞くと、俺はゆっくり立ち上がる。
それから今度こそやっと帰れると住処にしている穴に戻っていった。獲物は結局なくなってしまったと嘆きながら。
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