初進化

深い眠りの海から浮き上がる。こんなにゆっくり寝たのは久しぶりだ。

俺は目を少し開けながら、自身にかかっているはずの布団を引き寄せようとし…。布団も手もないことに気づいた。

かわりに目の前には茶色い鱗が並ぶ尻尾がくるくると揺れる。




「シャアッ!(あっ)」


俺は蛇に転生したことを思い出した。あと、下の岩が痛かったので布団欲しいと思った。まあ贅沢はいってられないけど。いま蛇だし。




そんなことを考えていると、だんだんと意識が覚醒してくる。


するとひどい空腹感に気づき、欲望のまま目の前にあったネズミに噛みつき…あ、と気付いたが時すでに遅し、ネズミ肉を飲み込んだ後だった。

俺は凄まじい激痛に備えて目をつむる。


しかし激痛は訪れなかった。少し痛みは訪れるが、全然我慢できる程度。

不思議に思ってお腹を叩いてみたり、はねてみたりしたけどそれ以外は何も起こらなかった。


うーんと悩んでいると、一つあることを思い出した。



思い当たったのは、なんかねてる間に『毒耐性』を獲得したとかなんとか言ってた気がするってことだ。



痛くないなら気にしなくってもいいかと思い、空腹感もあり、夢中でネズミを全部平らげる。食べながら気づいたが、体感では結構寝ていたはずなのに、ネズミ肉は腐っていなかった。


これも謎深いゲームシステムのおかげかもしれない。まあ、今のところは便利だしスルーでいいけど。


ネズミを平らげ、気持ちに余裕ができると、寝る前に聞こえてきた声が気になってきた。


よし。こういうときは『鑑定』様だ。


<種族>スモールレッサースネーク

#進化可能#

               


<HP> 10/10

<MP> 3/3

<物攻アタック> 9

<物防ディフェンス>5

<魔攻マジック>5

<魔防レジスト>3

<体力> 8

<瞬発力>8


:レベル5  <5/20>


スキル『毒液注入(微弱)Lv.8』『逃走Lv.2』『熱感知Lv.1(Max)』『毒耐性Lv.1』『鑑定ステータスオープンLv.1』


称号『異端者』



ネズミたちと戦ったからか、レベルや能力値が上昇している。この世界では生物を倒したりするとレベルが上がるらしい。

基本的にはゲームのようなシステムだな。


やっぱ『毒耐性』を獲得してるっぽい。俺は不幸体質なのでこういうところに耐性をつけさせてくれるのは有り難い。またいつ毒食うかわからないし。



そして、名前の横にある進化可能という文字。

戦闘中にも聞こえたが、ある程度のレベルに達すると、『進化』―強くなることができるのかもしれない。

もしかしたら違う条件があるのかもしれないけど、レベルが5に達したときに聞こえたからだいたいそれで良さそうだ。


#進化可能#という文字をじっと見つめると、数秒後に画面が切り替わった。



"進化候補"


#レッサースネーク


スモールレッサーウィークスネークの正統進化先で最終形体。劣った弱い蛇。


#ヴェノムスモールレッサースネーク


スモールレッサースネークの特異進化先。噛みつきと毒でのでの殺傷を得意とする蛇の劣化種。



上のが俺の正統進化先で下のが特異進化先か。

多分正統進化先はもともと持っている進化先、特異進化先っていうのは、本当はないけど何かの経験とかで追加されたりする進化先なのだろう。

まあ、俺の主体の攻撃は噛みつき&毒(微弱)だからな。理にかなっちゃいる。微弱って部分が悲しいけどね。


正統進化と特異進化先、どちらにするか。


まあ悩む時間も必要ない。説明を読んだときから決まっている。2度言うが、俺の主体の攻撃は噛みつきと毒。特異進化先はそれが今より強化されるのだろう。


生き残るためには、これしか強くなる選択肢はないし、あと俺としては正統進化先の最終形態っていう文字が気になる。

最終形態ってことは多分これ以上進化しないのだろう。

生き残りたい俺としてはこの選択肢はありえない。

強いならまだ考える余地はあるが、レッサースネークだしな。スモールが取れただけだ。


俺はヴェノムスモールレッサースネークに『進化』と強く念じる。すると、ドクンと心臓が波打つ。体中が熱くなる。


力が抜け、立っているのが敵わず体が崩れ落ちる。

なるほど、『進化』時は結構無防備っぽい。ここに逃げてきてよかった。




――――――――――――



数分経って『進化』は終わった。それにしても凄まじく痛かった。


体の中にある臓器が無理やり広げられているような感じ。ヴェノムだから、もしかしたら毒を注入する系の器官を拡張したのかもしれない。


額にたれた汗を尻尾で拭うと、ふらりと立ち上がる。

地球で人間だったときにはなかった器官だけど、あの戦闘で不器用ながら一応使えるようにはなった。

だって手ないし、尻尾使わないと結構色々出来なくなる。

実は尻尾をもっと正確に使えるようになりたいなとか思ってたりするくらいだ。


まあそれは置いといて、ステータスだ。どのように変化したのかを見たい。



<種族>ヴェノムスモールレッサースネーク


               


<HP> 10/10

<MP> 10/10

<物攻アタック> 9

<物防ディフェンス>5

<魔攻マジック>5

<魔防レジスト>3

<体力> 8

<瞬発力>8


:レベル5  <5/20>


スキル『毒液注入Lv.1』『逃走Lv.2』『熱感知Lv.1』『毒耐性Lv.3』『毒射Lv.1』『鑑定ステータスオープンLv.1』


称号『異端者』




『毒液注入(微弱)』が『毒液注入』になった。やったね。

微弱って部分が悲しかったから、普通にこれは嬉しい。


他は、MPが大きく上昇し、『毒耐性』のレベルも上がったのか。

あと、『毒射』っていうスキルが加わったんだね。


予想だけど『毒射』っていうのは、毒を射つってことだから前世の毒を射ってた蛇みたいに撃てるのかな。

その蛇の毒はあたっても効果があるらしい。


もしそれだとしたら全く無かった遠距離攻撃が使えるようになりそうだ。結構いい。


それと個人的には、MPが上昇したのと、この『毒射』は何か関係がある気がするんだけど、どうかな。

もしかしたらこれで魔法みたいなのができるのかもしれない。飛んでいった毒を動かして敵を正確に狙い撃つ、みたいな。



というわけで早速戦闘だ。『毒射』とか諸々『進化』による性能を試してみたい。


俺が隠れ家としていた小さな岩の隙間から顔を出し、小洞窟に出る。


そういえば言ってなかったが、ネズミと戦ったのもここだ。

ここは高さ約2メートル横幅3メートル位で、あの圧倒的強者が蠢く洞窟にはいられない俺みたいな弱者たちの住処だ。だから俺の弱さで通用するともいう。



そんなことを思いつつ、慎重にひんやりと冷たい洞窟を歩いていく。

俺の『熱感知』スキルのおかげで結構見えるが、前世の人間の姿だったら真っ暗で何も見えなかっただろう。


そういや、この世界に人間っているのかな。人間の他に、エルフとかドワーフとか獣人とかいて、人族って言われてるのが定番だけど。


まあ、もしいたら見てみたいとは思うが、人にとって魔物は敵。容赦なく襲いかかられるのが落ちだろう。


…人間に対する対応は考えなきゃいけないな。

俺は前世人間だったから、人殺しに対しては躊躇う部分がある、というか知性を持っている者の本来の権利を奪うってのは嫌だ。

まあ俺の体により、転生するっていうことは証明されたから、もう少し忌避感はなくなるかもだけど。


あ、ちなみに魔物には知性はない。俺の本能から直感的に分かる。

俺が生物を殺すことに対する言い訳、って言うわけではない。なんかこう、生物とは根本的に違うのだ。

まるでプログラミングされたゲームのモンスターを見ているように、何か自分の意志でないものに動かされている感じだ。


まあそんな事を言っても、生物を殺してるのには代わりはないんだけどね。

それに関しては、生きるために命を奪ってるって割り切って、感謝していただこうと思う。



――――――――――――――――――


全体的に誤字があったので修正しました

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