初戦闘

そこまで考えてから、ウインドウに向かって「とじろ」と念じる。空腹感があったし、強くなるためだ。そういえばこの世界に来てから何も食べてなかった。そりゃお腹が空くわけだ。


でも、この洞窟にはなにもない。まあ、だからこそここに逃げてきたんだけれども。


あの洞窟には絶対戻りたくない。でも餓死するのも嫌だ。空腹感に迷っていたとき、俺の視界を小さなネズミが横切った。


俺はこんなところで生きるのは大変だろうな、仲間の意識を抱き…



「シャアアアア!!!!(えさああああ)」



大きななきごえを出し、その勢いのままネズミに向かって突っ込んでいった。


俺は前世だったらネズミなんて絶対に食べなかっただろう。でも、今の俺は蛇だし、今まであのネズミくらいしか、俺より小さいやつを見なかった。あいつを見逃したら俺は餓死する気がする。


ネズミは俺を岩だとでも思っていたのか、突然襲いかかってきた俺に一瞬硬直したが、慌てて逃げ出した。



一生懸命に追いかけるながら『鑑定ステータスオープン』と念じる。

『鑑定』を使いこなせるようになるためには、こういうことが大事だ。


"ネズミのような生物"


…たぶんね。で、でも、『鑑定』の経験値稼ぎが目的だし?


ちょっと悲しみに暮れながら、ネズミに意識を集中させる。少し意識が別のところにいってしまったが、その間に距離は広がっていることに気づく。


曲がりなりにもここに住んでいるやつだ、普通に俺の何倍も速かった。

だんだんと距離が広がっていく。


俺は走りながら、どうしようかと頭を巡らせる。だが、不思議と頭は冴えていた。

命の危機といっても差し支えない状況にあったからかもしれない。




あいつにあって、俺にはないもの、それは考える力だ。

足の速さはあいつのほうが何倍も速い。俺が普通の蛇だったらとうてい追いつくことなんてできないだろう。


だが、俺には考える力がある。ふ、と一息吐くと、考えついたアイデアを思う。



俺は一瞬下に目を落とすと、小さな石を尻尾で器用に掴む。それから、前世のボールを投げるときのコツを思い出し―ボールをもっている尻尾の先を前の尻尾より低くし、尻尾のスナップを利用して―投げた。



尻尾から放たれた石は、追い詰められた状況だったのが効いたのか、ゆるい弧を描き、ネズミの頭に直撃した。


即死とまではいかなかったが、ふらふらとしながら、ネズミのスピードが弱まる。

その隙に俺は距離を詰め、その体に噛みついた。


首元を狙ったのが効いたのか一瞬力が弱まる。


だが、次の瞬間、別の方向から凄まじい力がかかり、次の瞬間には俺は地面に叩きつけられた。

視界が反転した瞬間、凄まじい衝撃が俺を襲う。


「キィ、キィ、」


いつの間にか、ネズミは4匹に増えていた。俺はその瞬間に失念していたと悟る。仲間がいるかも知れないことを忘れていた。


でもやっぱり微妙に道を選んで逃げてるような気がしたのは、気のせいじゃなかったんだね。

仲間がいる方に走っていったみたいだ。



「シャアっ、」



一旦大きく後ろに飛んでネズミと距離を置く。ネズミはさっきまで逃げようとしていたことなんて感じさせない顔で俺を睨みつけていた。


ぶつけられた頭がクラクラとする。俺の症状は結構やばいとわかる。

一瞬逃げるという考えが頭に浮かんだが、すぐに一蹴する。あいつは俺よりも全然足が速い。すぐに追いつかれるだろう。

それなら俺には戦うという選択肢しかない。


鑑定ステータスオープン


一番大きなネズミに対し使う。


"ネズミのような生物(さっきのやつより強い)"


なんかだんだん『鑑定』って感じがしなくなってるな。まあ、俺の意識を反映してるっぽいから実際に『鑑定』してるわけではないんだろうけど。


やっぱ早くレベルを上げないといけないな。…なんか『鑑定』するたびにこんなこと思ってる気がするけどね。


そんなことを思いつつ、ネズミを再び睨みつける。



「シュー。」


一瞬静かに息を吐くと、後ろに全力で走る。逃げている、ってことになり、補正もあって俺の自力より全然速い。が、ネズミのほうが補正があっても速い。じゃあなぜ後ろに逃げているかって言うと、距離を空けるためだ。


不意を突かれ、一瞬ネズミたちは動きが遅れたが、凄まじい速さで追いかけてきた。

だが、その頃には俺はある程度距離を空けられていた。


ネズミたちを真正面から睨みつける。そして、彼らが少し怯んだ隙に、石を尻尾で掴み、投げた。


「きいっ!?」


「キーーーっ!!」


一心不乱に投げる。

段々と尻尾が傷んできたが気にしなかった。いや、否。気にしたら終わりだったからか。

小石のあられがネズミたちを襲う。


「キィぃぃーーーーー!!!!」


ひときわ大きな石が頭に命中し、一匹倒れる。


「きいィィィーーー!!!」


先端が尖った石が心臓部分に突き刺さり、一匹倒れる。



「キイィィ」


何個もの石が当たっていくうちにだんだん弱り、一匹倒れる。


「キイッ!!!」


仲間がやられたことに怒ったのか、一匹のネズミが俺の前に石のあられをものともせず、凄まじい速さで突っ込んできた。


しっぽでそのネズミに石を投げつつも、そのネズミをしっかりと見据える。


ネズミは小さな牙をむき出しにし、かみつこうと突っ込んできた。俺をぶつけたネズミだ。

あいつのパワーはやばい。しかも他のネズミと比べ、体も大きい。小さめのたぬきとか、ハクビシンぐらいはあるだろう。俺よりも大きい。

多分、このネズミ群?のリーダー的存在だろう。

普通に戦ったら俺に勝ち目はない。


だから、別の方法で戦う。


一旦尻尾の攻撃を辞めにして、上へ飛ぶ。ここの天井は低いので、俺の低い身体能力でも大丈夫だ。


突っ込んできたネズミは案の定俺を見失ったようで、キョロキョロと周囲を見渡している。もしかしたらあまり目は良くないのかもしれない。俺は『熱感知』でよく見えるけど。


俺は下部に力を込め、ネズミに向かって飛ぶ。それから首元に噛みつくと、何か液体のようなものをネズミに流した。

『毒液注入』の使い方は知らなかったが、やろうと思えばなんとなくでできた。ヘビの固有スキルからかもしれない。


一瞬噛みつくと、俺はすぐに横に飛んだ。ずっと噛みついていると、攻撃される可能性があったからだ。

なんとなくでわかるけど、もう一度あの攻撃を食らったら終わりな気がした。


まあ、たいそうに行ったけど、要はヒットアンドアウェイ戦法だ。前世では普通の大学生で、すごい戦略を考えているとかではなかった。なので、そこまで手の込んだ戦法は考えられない。


またキョロキョロと見渡しているネズミに向かってもう一度飛ぶ。

そして噛みつき毒液を流す。



―――――――――――――――



「キイィィーーー!」



何回それを繰り返しただろう。


ネズミはだんだんと弱って来て、何回目かもわからない攻撃によって力尽きた。


"レベルが上がりました"


"『毒液注入』のレベルが上がりました"


"進化が可能になりました"


戦闘中に何度も聞こえた、中性的な柔らかいのに何も感じさせないような声が響いた。


それを境にどっと体の力が抜ける。今回は本当に疲れた。色々気になることはあるが、今はすぐに休みたい。


そのネズミたちを引きずると、俺は小さな穴に入る。それからすぐにとぐろを巻くと、一匹のネズミに噛みついた。体も限界だったが、お腹がもう限界だったからだ。


ネズミをに噛みついた瞬間柔らかい肉を噛み切る食感とともに口いっぱいにフルーティーな味が広がる。美味しかった。


しかし、次の瞬間、体中を切り刻むような痛みが襲った。


「シャアアアア!?」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

凄まじい痛みに体中を壁に打ち付ける。


『毒を検出しました』


この状況とは対照的に落ち着いた声が聞こえる。

毒か。痛い、今までこの声が間違っていたことは、痛い、ないのである程度は、痛い、信用してもよさそうだ。

痛い、毒の原因はさっき食べたネズミの、痛い、可能性が高そうだ。痛い、それにしても、俺の毒は効いたのに、痛い、こんなに強い毒持ちだったのか、痛い。いやちがうな。微弱だから効果は実感してなかったし、痛い、効いてなかったのか。


俺はこの声に少し落ち着き冷静に判断するが、全身の痛みがひときわ強くなり、意識が薄れていく。


…やっぱ前世の不幸体質引き継いでたんだね…。


そう確信したのを最後に俺の意識は途切れた。


――――――――――――


間違えて先の制作途中の話まで公開してしまいました。申し訳ありません。


明日には公開するので、どうぞよろしくお願いします。

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