離婚して分からせる!
第21話 帰宅と対峙
某月某日夜、マンション前。
とうとう、この日がやって来た。
莉菜の実家を訪れてから数日が過ぎ、俺はこの日が来るのをずっと待っていた。
「ふぅ······」
自分の家に帰ってきただけなのに、変に緊張してドアノブを握る手が震える。
莉菜はこの時間、仕事から帰宅しているはずだ。
これから起きることを想像すると、嬉しさと不安で心がぐちゃぐちゃになりそうだ。
そんな俺の横で、弁護士である東求堂さんが信頼そうな顔で覗き込んできた。
「内田さん、大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ?」
「あ、すみません······緊張しているみたいで」
「無理もありません。こういう経験をする人は少ないですし、むしろ内田さんの反応が自然です」
まあ、確かに東求堂さんの言う通りだ。
でも、彼女が傍にいてくれるだけでかなり心強いし、俺も勇気が持てる。
莉菜に対して、真正面から話が出来る。
「大丈夫ですよ、私が付いています。だから、安心してください」
「はい、よろしくお願いします」
東求堂さんの言葉に押され、俺は強くドアノブを握って回した。
中に入ると、なんだか少しだけ異臭がした。
あぁ、そういうことかとすぐに納得することになる。
「ここまでとは······」
廊下にまでゴミが散乱していたのだ。
俺は、ここ数日ろくに帰宅していなかった。
莉菜の顔を見るのが嫌で、花菜ちゃんの薦めもあって俺は彼女の実家に泊まっていたのだ。
良平さんも愛菜さんも、暖かく俺を迎え入れてくれた。
もちろん、それを莉菜が知る由も無い。
だから、莉菜は自分で家事をしなくちゃならなくなったが、今まで俺に任せきりだったから家事をするのも億劫だったのだろう。
そこら辺にコンビニなどで買っただろう食品の空や、大量の酒の空き缶、そして脱ぎ散らかした服が無造作に捨てられていた。
「これは······さすがに酷いですね」
隣に居る東求堂さんも、鼻をハンカチで抑えながら目を細めてげんなりした様子を見せる。
数日間で良くここまで汚く出来るものだと呆気に取られるが、今の俺には知ったこっちゃ無い。
ゴミを避けながら歩き、リビングに入る。
そこには、ゴミ山の中でソファーで眠っている莉菜の姿がそこにあった。
仕事から帰宅してすぐに寝たのだろう、スーツのままだが上着は脱ぎ捨てられ、ワイシャツはシワが出来てよれよれの状態だ。
とりあえず話し合いをするため、俺と東求堂さんと共に最低限テーブルの上に散らかっているゴミを片付け、準備が出来たところで莉菜を起こすことにした。
「起きろ、莉菜」
「······ん······んぁ······?」
声をかけると、莉菜はゆっくりと目を開けた。
だいぶ呑んでいたのだろう、顔は少し赤くなっていて目が若干虚ろになっている。
そんな酷い顔をした莉菜は俺の姿を目視すると、半開きになっていた目が大きく開かれる。
「あ······お、おかえり······やっと帰ってきたんだね」
「ああ······」
どこか弱々しく話しかけてくる莉菜に、俺は戸惑いつつも返事をする。
思えば無視をすると決めてから、かなり久しぶりの会話だ。だが、やはり心に動揺は無い。むしろ動揺しているのは莉菜のほうに思えた。
「私、ずっと待ってたのよ······?急に家に帰ってこなくなったし、あんたに連絡しても繋がらないから······そろそろ警察に頼ろうとしてたくらい······」
声に覇気が無い。いつもの莉菜ではないように感じる。
こいつ、誰だ······?少なくとも、俺が知る今までの莉菜がそこには居なかった。
ここ最近の莉菜は自分勝手、傍若無人、唯我独尊の言葉が似合うくらいのクズだったのに、目の前の莉菜は昔俺が好きだった莉菜に戻っているようにさえ思えた。
だが、それを知ったところで今の俺には何の未練も無いし感情も湧かない。
「でも、良かった······無事に帰ってきてくれて······」
泣きそうな、でも安心したように笑顔を見せる莉菜に、俺は激しく嫌悪した。
何を言っているんだ、こいつは······?
そう思っていると、ゆっくりと立ち上がった莉菜はふらふらした足取りで近付いたかと思うと、何を思ったのか両腕を広げて俺に抱き付こうとしてきた。
こいつ、今更何のつもりだ······?
俺は当然莉菜の抱擁を拒否するため、彼女に後退りして距離を取る。
「あ、あれ······?どう······したの?なんで離れるの?前は、あんなにハグが好きだったじゃない······?いつものお帰りのハグだよ······?」
一体、いつの話をしているんだ?
ここ一年以上触れてないし、触ろうとしても拒否をしたのはこいつなのに、どの口がほざいているんだ?
言いたいことは山ほどあったが、ぐっと言いたい言葉を飲み込んで努めて冷静に話しかける。
「莉菜、お前に大事な話があるんだ」
「大事な······話?なに······?」
「いいから、そこに座れ」
俺がダイニングチェアに指差すと、すると莉菜の目が唖然とした表情を見せた。
「えっ······?だ、誰······?その女······」
既に着席していた東求堂さんに今頃気が付いたのだろう、震える声で俺に訊ねてきた。
だが、俺が答えるより先に東求堂さんが頭を下げて口を開く。
「初めまして、奥様の莉菜さんですね?私、弁護士の東求堂と申します」
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