第12話 姉VS妹②
「姉さん······あなた、浮気しているって自覚してるんですか?」
「っ······!?」
姉さんの目が見開かれた。かなり動揺している。
かなり顔が青ざめており、冷や汗が流れている。
「う、浮気って······これは、ただ単に食事に行くだけで、別に疚しいことは何も······」
嘘だ。少なくとも、この人と結ばれたい。姉さんは、そのつもりでこの男性と共に居るはずだ。
だって、動揺を隠しきれずに目が泳いでいるのだから。昔からの癖だ、私には嘘なんて通用しない。
「へぇ······単に食事に行くだけで、仲良く手なんか繋いじゃったりするんですか?」
「っ······!?」
スマートフォンを操作して画面を映し出す。
そこには、先程撮った二人が仲良く手を繋ぎながら歩く姿が激写されていた。
誰がどう見ても、浮気現場そのものだ。
本当はホテルとかに行った場所を撮影するつもりだったが、私が我慢ならなかった。
そんなところを見たら、原型を留めないくらいにその自慢の顔をボコボコにしてしまうかもしれない。
それほど、今の私は殺気立っている。
「け、消しなさいよ······!」
「消す訳ないじゃないですか、馬鹿なんですか?」
「ぐっ······!」
手を伸ばして私のスマートフォンを奪おうとした姉さんだけど、私の並々ならぬ雰囲気に気圧されてその手を引っ込めた。
悔しげに私を睨む姉さんに対し、隣に立っていた男性が目を見開いていた。
「えっ······?ま、待ってくれ······ど、どういうことだい?う、浮気······?んん······?」
男性はかなり混乱しているようで、私の言った言葉を反芻しながら呟いていた。
あぁ、なるほど······と、すぐに納得した。
義兄さんから聞いた話では、姉さんは指輪を外して飲み会に行ったらしい。チラッと姉さんの左手薬指を見ると、やはり指輪は無かった。
つまり、この人は姉さんが人妻とは知らないのだろう。姉さんは、この人を騙しているんだ。
本当にどこまでも最低のクズだ、心底軽蔑する。
「ち、違うの、先輩!これはね、えっと······!」
姉さんは慌てて言い訳しようと先輩とやらにしがみつくが、そんなことはさせない。
この人も騙されているなら、ちゃんと事実を伝えなければならない。
これ以上、姉さんの犠牲者が増えるのは勘弁だ。
「あなた、何も聞かされていないんですね。姉さんは、既婚者ですよ?」
「えっ······?」
「ちょっと······!?」
私の事実に目を丸くして驚く男性。姉さんは顔を青くしているが、知ったことではない。
「き、既婚者······?えっ?だって······飲み会の時、君はフリーだって······えっ?」
「可哀想ですね、あなたは騙されたんですよ。この人には、ちゃんと夫が居ます」
「あ、あはは······せ、先輩······この子の話、真面目に聞いちゃ駄目ですよぉ?この子、ちょっと妄想癖があって······」
なるほど、とことん義兄さんを居ない者として扱うようだ。本当に反吐が出る。憎たらしい。
それなら、私は容赦しない。
「信じられないなら、証拠お見せしましょうか?お父さんたちに頼んで、結婚式の時の写真を送ってもらうことが出来ますけど?」
「ちょっと!余計なことしないでよ!」
姉さんが必死に止めようとするが、姉さんよりも私の言葉のほうを信じたみたいだ。
男性は顔を青くして、ふるふると震えている。
そして姉さんを睨むと、繋いでいた手を急に離した。
「せ、先輩······?」
「触らないでくれ。莉菜ちゃん、君は最低だよ。僕を不倫相手にするつもりだったんだね?」
「ち、違っ······違うの!先輩!私とこの子、どっちを信じるんですか!?」
「もはや比べる必要も無いだろう?この子、こんなに自信満々に証拠まで見せると言っているんだ。なら、疑うべきは君だよ。むしろ君がフリーだという証拠は何処にある?」
「そんな······!でも、私······!」
「言い訳は結構。何度でも言うよ、君は最低だ。旦那を裏切り、僕を騙し、妹さんまで悪く言う。残念だけど、僕はそんな最低な人とは付き合えないし、関わることも出来ない。ごめんね?」
「嫌······嫌ぁ!私、先輩のこと······!」
冷たく睨む男性を一生懸命引き留めようとする姉さんが見苦しくて見ていられない。
それにしても、この人は割と良い人だ。
ろくに知らない私の言うことを、客観的に状況を判断して信じてくれている。
この人には、クズな姉さんよりももっと良い人が居るはずだ。
「すまなかったね、妹さん。僕はこの人と肉体関係はないけど、ちゃんと謝罪はさせてほしい」
「あ、いえ······別に私は······」
「そんな······先輩!」
丁寧なお辞儀をして私に謝る男性は、懐から名刺入れを取り出して一枚取り出す。それを私に渡してきた。
「これは僕の名刺だ。旦那さんにもちゃんと謝罪させてほしいから、渡してほしい。お願い出来るかな?」
「はい······分かりました、お預かりします」
私はそれを受け取ると、男性は苦笑いをして再び頭を下げた。やはり、かなりの人格者だ。
姉さんが惚れ込むのも仕方ないような気がする。
「じゃあ、僕はこれで。さようなら、莉菜ちゃん。君にはガッカリだよ」
「そ、そんな······せ、先輩!ま、待って······!」
男性は姉さんに冷たく一瞥すると、足早にこの場から歩き去っていく。
姉さんが追いかけようとするも男性は振り切ってしまい、あっという間に姿は見えなくなってしまった。
それを見届ける私と姉さん。
「い、いやぁ······先輩ぃ······!待ってよぉ······!」
姉さんは泣いていた。まあ、自業自得だ。
だけど、まだ私のターンは終わらない。
私の義兄さんを今まで傷付けたんだから、その分姉さんにはもっと苦しんでもらわなくちゃいけない。
地獄は、まだこれからだ。
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