分からせ開始

第11話  姉VS妹①




「はぁーっ、疲れたぁ······!」




仕事が終わり、帰宅の準備をする。

その際にスマートフォンを取り出して、あいつにメッセージを送信する。

『今日はハンバーグが食べたい、作っといて』。




「これでよしっと······」 




帰宅するまでの一時間。

これだけ時間があれば、あいつもちゃんと作るだろう。

だって、今までそうしてきたのだから。




「······あれ?」




スマートフォンの通知音が鳴り、確認すると先輩からのメッセージが来ていた。

それは、高級レストランでの夕食のお誘いだった。

その内容に、私は思わずにやけてしまう。




「ふふっ······モテるのも困りものね」




それも、あのイケメンな先輩からのお誘い。

断る理由が何処にも無い。

私は迷わず、スマートフォンを操作して返信する。

『いいですよ、待ち合わせ場所はお任せします』。

そう返すと、『じゃあ、駅前で』と即座に返信が届いた。返信が早いのも嬉しい。




「あっ、そうだ······あいつにも連絡しないと」




さすがに連絡しない訳にはいかず、私はさっきあいつに送ったメッセージ画面に追加する。

『やっぱ夕食は無し、先輩とご飯行くから』と。

既読は付かないが、ちゃんと読むはずだ。

それにあいつのことだ、文句なんて言わないはず。

まあ、文句を言ったところで私に逆らえるはずがないんだけど。

だって、あいつは私にベタ惚れなんだから。大抵のことは許してくれる。今までだってそうだったんだから。だから、今回もきっと大丈夫。




「あっ、そうだ······その前にメイク直ししなきゃ」




私は急いで会社のトイレに駆け込み、鞄からメイク道具を取り出す。

うんと気合いを入れなきゃ。せっかく先輩からのご飯のお誘いなんだから。




「······よし、こんなものかな?」




メイクが終わり、トイレから出て会社の出口に向かい、るんるんとした気分で先輩の待つ場所へと向かう。







「すみません、先輩!お待たせしましたぁ!」

「やあ、莉菜ちゃん。そんなに待ってないから大丈夫だよ。それより急にごめんね?」

「いえ!私も楽しみでしたから!」




私が待ち合わせ場所に着くと、先輩はスマートフォンを弄りながら立っていた。

あぁ、やっぱり何度見てもイケメンだ。うちの旦那とは大違いだ。




「どうかした?」

「い、いえ······!先輩が格好良くて、つい見惚れてしまって······!」

「あはは、ありがとう。莉菜ちゃんも可愛いよ」

「い、いえ······そんな」




こんなに胸が高鳴るのは、いつ振りだろう?

格好良くて優しい。理想の男性がそこに居る。

この人に気に入られようと、甘えた猫撫で声で先輩と会話をする。




「じゃあ、行こうか?」

「はぁ~い♡」




先輩がエスコートするように手を差し出してきたので、私は迷わずその手を取って握る。

ドキドキしながら、先輩と肩を並んで歩こうとした――その時だった。




「······何しているんですか?」

「······?」




不意に背後から声をかけられ、聞いたことあるような声に不思議に思いつつ振り返る。

すると、そこには怒りの表情に満ちた妹の姿があった。




「は、花菜······!?な、なんでここに······!?」




一瞬で冷や汗が流れる。

そんな馬鹿な、どうしてこの子がここに居るの!?

実家から大学に通っている花菜がこんなところに居る訳がない!

だって、ここから実家までかなり距離がある。

もちろん、花菜の通う大学もこの近辺じゃない。

なのに、何故ここに妹が居るのか?しかも、今まで見たことがない程に激昂した表情で。




「私の質問に答えてください。姉さん、ここで何しているんですか?しかも、義兄さんとは違う別の男と仲良く手なんか繋いじゃって······」

「っ······こ、これは······!」




急いで誤魔化そうとするも、言葉が出てこない。

この妹は頭が良い、下手な言い訳も通用しない。

それが分かっていても、なんとかこの場を取り繕おうとぐるぐると混乱した頭で言葉を模索する。

そんな私とは対照的に、先輩の顔は涼しげだった。

というより、何が起きているのか分からないといった表情で首を傾げている。




「ね、姉さん······?えっ?莉菜ちゃんの妹さん?えっと、初めまして。僕は――」

「失礼、自己紹介なんてしなくていいです。私、あなたなんかに興味なんてありませんから」

「んなっ······!?」




先輩の言葉を遮り、冷たい目で睨む花菜。

その雰囲気に押され、絶句してしまう先輩。

その態度があんまりで、つい私はカッとなって花菜を睨み付けて叫んでしまう。




「は、花菜!あんた、いい加減にしなさいよ!?先輩に対して失礼じゃない!謝りなさいよ!」

「は······?謝る?何に?私はその人のこと何も知らないし、興味もないから謝る理由すら無いんですけど?むしろ謝るのは、姉さんのほうだと思いますけど?」

「はぁ······!?」




私が謝る?何に?誰に?意味が分からない。

私は何も悪くないんだから、謝る必要性すら無い。




「とんと分からないって顔してますね?まあ、そりゃそうですよね。姉さんは、自分が世界の中心なんて思ってる脳内お花畑なんですから。お姫様気分でいるのも大概にしてください」

「なっ······!」

「事実でしょう?何か反論でも?」

「このっ······言わせておけば······!」




どうして、たかが妹にここまでボロクソに言われなくてはならないのだろう?

だって、私悪くないじゃん。したいことして何が悪いの?本当に意味が分からない。

訳も分からず唖然としていると、花菜は冷え切った目で睨みながら爆弾を落とした。




「姉さん······あなた、浮気しているって自覚してるんですか?」




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