第3話 調査員Aと生命の星(3)
「都長、大変です!!」
いつも通り都長室で業務をしていた私の元に一人の部下が駆け込んできた。
「何事だ?」
「未開拓領域近くの複数の町で獣人による反乱が発生しましたとの報告が......!!」
「鎮圧はしたのか?」
「それが...そもそもこの国の軍の兵士は大半が獣人です。彼らに反乱したことを知らせるのは逆効果と考えられ、初動がかなり遅れたとのことです。」
「...それで?鎮圧できたか否かを聞いている」
「約3000匹の未開拓領域への逃亡を許したそうです」
未開拓領域、それはこの星の3分の1を占める人間が住むのに適さない土地。開拓に多大なコストがかかる反面、意味も薄いので現在まで放置され続けてきた。というのも、我々の人口からしてこれ以上開拓しなくとも土地は十分足りているのだ。
「逃げ込んだ先が未開拓領域なのであれば、そのうち死ぬであろうな」
獣人のような下等生物が我々に反逆が我々人間に反逆してきたのは癪だが、一匹残らず死ぬのであれば問題ない。なるべく苦しんで死ぬことを願うばかりだ。
「はい、恐らく」
続報はなく、この事件は
【反逆した獣人たちは未開拓領域内で全滅】
として幕を閉じるはずであった。
しかし、それから約二年が経ったある日、我々はあの事件を否が応でも思い出す羽目となる。
未開拓領域より出没した多数の獣人が、とある町を滅ぼし人間に宣戦布告をするという事件が勃発したのだ。後日の調査では、首のない遺体やレ〇プ跡のある12歳の少女の遺体、金歯を力ずくで抜き取られた老婆の遺体などが発見された。
そして同時に、都長である私も含め国家元首や各大臣も集まる対策会議が開催されることとなったのである。
「このままでは、ほかの獣人も扇動され反乱を起こす可能性がある。直ちに全獣人を殺処分すべきだ!」
声を荒げるのは軍務大臣だ。先日から休みなく対応に追われていたのか、目の下にはクマがあり顔全体から疲労感が伝わってくる。
「しかし、その場合この国の産業や農業はどうなる⁉ 我らの国の労働力の大半は獣人が担っているのだぞ」
産業大臣、農務大臣が反論する。
「しかし、このままではこの国自体が存亡の危機に陥ることになる、なにせ獣人は数が多い。これ以上の反逆は未然に防ぐべきだ」
2年前の事件の反省として兵士の獣人頼りは改善したとはいえ、いまだ6割強の兵士は獣人である。これ以上敵の兵力を増やすわけにはいかないのも事実なのだ。
しかし、この国の労働は大半が獣人に依存していることもまた認めざるを得ない。
議論は結論の出ぬまま両者の激しい言い争いだけが続いた。
「静粛に」
重々しい声が会議室に響き渡った。
声の主はここまで沈黙を貫いてきた国家元首である。
「両大臣の言い分も十分理解できる。その上で、両大臣の指摘する問題点の両方を解決する術が一つだけある」
少し間を空け、国家元首は再度声を放った。
「入れ」
会議室の扉が開き、二人の人物が入ってきた。一人は、細目で白衣を着た20代後半位研究者らしき男、もう一人は10歳~12歳くらいの少女であった。
研究者らしき男が口を開く。
「皆様は、クローン技術というものをご存じですよね?」
勿論我々は知っていた。何故か実現できない技術として。
というのも、我々にはクローン研究を国営事業として莫大な予算をつぎ込み研究していた時期があったのだ。結果、動物のクローン作成には成功した。しかし、人間及び獣人のクローンの作成は、国中の科学者の英知を結集してもなお実現に至らなかった。そのうちこの研究は『人類におけるタブー』とまで呼ばれることとなったのである。何故このように呼ばれることとなったのか。それは、細胞の扱いなどに関する理論は完璧でありながらも、失敗を繰り返し、その理由が最後まで解明できなかったからであった。
「数年前、この国のクローン研究は頓挫しました。しかし、私はその後も研究を続け、ついに成功したのです。人間のクローン作成に!!」
会議室にどよめきが起こる。
研究員らしき男はニヤリと笑い言葉を続ける。
「我々のクローン研究に不足していたもの、それは適合可能な細胞を持つ人間です。というのも、確かに我々の理論は完璧でした。しかし、そもそも人間という生物がクローンの作成に適しておりません。だからこそ、私はクローン技術に適合できる人間を国中で探し続けました。そして、この少女こそがクローン技術に適合できる唯一の人間なのです!!」
会議室にいる全員が少女に目線を向ける。少女は我々と目を合わせようとしない。
「しかし、莫大な予算をクローン製造に充てる余裕などないぞ」
財務大臣が指摘する。
「ご安心を。研究中止の時点から放棄されたままの状態のクローン工場に少々手を加えればすぐさま生産が可能となります」
かなり出来すぎた話ではあるが、国家元首がこの会議にまで通したということは十分信用に足りるであろう。
「この計画に賛同する者は起立、反対する者は着席せよ」
採決がとられた。会議に参加する者全員が席を立ち、可決された。
可決された瞬間少女が泣き崩れた。
「....ッ、お母さん..お父さん...お兄ちゃん..........」
きっと、国のために身を捧げられることがよほど嬉しいのだろう。少女の愛国心を無駄にしないよう、一刻も早くクローンの生産を実現しなければならない。私はそう決意した。
それから、クローン製造計画は国を挙げてのプロジェクトとなり、滞りなく進んでいった。オリジナルの少女が11歳だからと言ってクローンも11歳にしなければならない、といったルールはない。出荷する年齢は18歳と決まり、それ以上肉帝が老化しないように遺伝子操作が行われた。寿命は約6年で、18歳の肉体のまま死亡する。18歳と決まったのは、運用するにあたって1番丁度いいと判断されたからだ。また、確実に裏切らないように精神操作等も実施された。会議から一か月後には一次生産が始まり毎日1000体近くのクローンが製造され、戦地を中心に各地へ出荷された。製造プラントも順次増設する予定で今後はさらにハイペースでの製造が進むであろう。同時に、労働に従事していた獣人の殺処分も順次行われていった。
形成が不利であった戦場もクローンの投入で一気に互角となった。
数が多い獣人であってもクローンの生産スピードには追い付くことができない。これから戦力差は広がり続けるだろう。あと6年程度で完全に殲滅できる計算だ。
また、クローン爆撃は我々の最もメジャーな戦術となった。少女に爆薬の入ったリュックを背負わせ、そのまま敵陣営に突撃させる。コストパフォーマンスが非常に良く、素晴らしい戦法だ。
自分自身や子供を戦場に向かわせる獣人と比べて、我々は一人も国民に犠牲も出していない。母親は息子を危険な戦地に送り出さなくてもいい。全て
あぁ....我々はなんと人道的なのだろうか。
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