第2話 調査員Aと生命の星(2)


「あの、すいません。この街の役所ってどこですかね」


 この街の土地勘などあるはずがない。こういう事は地元の方に聞くのが一番早いのだ。


「この道をまっすぐ行って二つ目の交差点を右だね、赤レンガの建物だから見ればわかると思うよ」


「ありがとうございます」


 この街の住民は愛想がよく、親しみやすい。過去に訪れた街の中では、道行く人全員に無視されるような街など無数にあった。そのような街の住民は生活に余裕がなく、自分のことで精一杯な場合が多い。その点、この街は生活面においてかなりの高水準であることが読み取れる。


 言われたとおりに道を進んでいると、横をタクシーらしき空遊車が通った。

 運転しているのは、先ほどから何百人と見た同じ顔の少女だ。


 暫く歩いた後、言われた通り赤レンガの大きな建物が見えてきた。華美な建物ではないが、貧相という言葉からはかけ離れている。重々しい重厚感があり、という言葉をそのまま建築で表現したかのような建物だ。

 中に入ると幾つかの窓口があり、そこでも顔の同じ少女が働いていた。

 窓口全てに同じ顔、同じ制服の少女が並んでる姿はかなり不気味だ。

 適当な窓口を選び少女に話しかける。


「すみません、僕はこういう者なのですが」


 惑星調査員を証明するICカードを取り出し、少女に見せた。

 流れ星が描かれたこのカードは、とある惑星の希少な金属を使った上、ICチップが埋め込まれている。そのため、偽装するのは不可能に近い。


 少女は驚いたような顔をみせた。無理もない。なにせ惑星調査員が正体を明かすなど滅多にあることではないのだから。


「確認させていただきます、少々お待ちください」


 なんとか平静さを取り戻したらしく、カードを受け取った少女はそそくさとバックルームに向かっていった。


 ガチャ


 窓口の前で待たされること約五分、バックルームから少女が出てきた。

 といっても顔も制服も同じため、先ほどの少女と同一人物かは判断できない。    

 

「こちらのカード、お返しします」


 どうやら同一人物らしい。丁寧にさしだされたカードを受け取る。


「都長が直接対応するとのことなので、ついてきてください」


 高級感のあるエレベーターに乗り、最上階である5階まで上がった後


【都長室】


 と書かれた部屋の前まで案内された。機能面に重点が置かれた一階の内装とはうってかわって、5階は見るからに高級そうな赤色のカーペットが敷かれており、通路の壁面には絵画が飾ってある。



          ◇



コンコンコン


「調査員の方をお連れいたしました」


『入ってくれ』


 柔らかい男性の声が聞こえてきた。

 少女が扉を開けると、そこには黒のスーツに身を包んだ、30歳位のを体現したかのような中年男性が立っていた。


「長旅ご苦労様でした、どうぞそちらのソファーにお掛けください」


「ありがとうございます」


 言われるがままにソファーに腰を掛ける。その後テーブルを挟んだ反対側に都長が座った。少女は通常業務に戻ったらしく、部屋に都長と二人きりとなる。


「この都市は惑星の首都でもあります。楽しんでいただけましたか?」


「はい、近くの広場で串焼きを頂いたのですが大変美味しかったです。街並みも素敵ですし本当にいい街ですね」


 決してお世辞などではない。本心からの言葉である。


「多くの都市を見て回ってきたであろう調査員様にお褒めに預り光栄です。...それで、単刀直入にお聞きします。今回のご用件は?」


 こちらの状況は察したとばかりに、都長は話を切り出してきた。その表情は、先程までの柔らかいものから打って変わって真面目なものであった。


「情報請求です。前回の調査時からあまりにも状況が変わりすぎていたので」


「なるほど........当然でしょうね。ここ数年でこの星の情勢はかなり変化しましたから。獣人についてはもうご存じですか?」


「はい」


「ならば話が早い、結論から申し上げますと、約5年前から我々は獣人と戦争状態にあります」


 想定外の真実だ。ただ、先ほどまで街を歩いていても戦時中らしき緊張感は全く感じられなかった。


「戦時中の割には緊張感が薄い気がするのですが....」


「それはそうでしょう、なにせ此処はかなり前線とはなれている上、我々は戦争において誰一人国民の犠牲を出していませんので」


 都長が誇らしげに語る。誰一人犠牲を出していないとはいったいどういうことなのだろうか。


「戦争へと至った経緯と現在の状況について教えてもらってもよろしいですか?」


「はい......。事の発端は7年ほど前です」

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