第13話 私から見れば人間も魔物も同じだ

 自分を作った存在を恨んでいるのか。どうしてもそれをアテナに聞いてみたかった。


 答えはなんとなく予想していた。それでも聞きたかったのだ。


「私は機械だ。そこに感情は存在しない」そこまでは予想通りの返答だった。「だが、もしも私に感情というものが存在するのなら、おそらく感謝寄りの感情を抱いているだろう」

「へぇ……それはなんで?」


 返答には珍しく長い間が空いた。また無口状態になってしまったのかと思っていると、


「わからない」まるで人間みたいな答えだった。「そう答えたいと思った」

「そりゃ感情があるってことじゃないの?」

「それは違う。私には感情がない」

「でもそれは――」言葉の途中で、ララは首を振る。「水掛け論になるね。これ以上はやめとこう」


 感情がある、ない。ある、ない。それだけの繰り返しになる。感情という部位を探し出せない以上は答えの出ない議論だ。


 ララは言う。


「たまに思うんだ。ボクが作った機械って……ボクのことを恨んでるのかなって」長年の疑問だった。「爆弾とかロケットランチャーとか……使ったらすぐに爆発するじゃないか。人を殺す道具としても使えて、多くの人を傷つける。そりゃ発掘作業とか、人の役に立つことにも使えるけどさ……」


 今の御時世では戦いに用いられることが多い。なによりララは戦いに使うことが多いのだ。


「盾にしたってそうだよ。殴られて叩かれて魔法をぶつけられて、最終的にはぶっ壊される。そんな存在として生み出された機械や道具たちは、ボクを恨んでるかな」

「機械に感情はない」

「そうかな。そうかも」自分でも答えはわからない。「……結局……これも水掛け論だね。機械の感情なんて読み取れない」


 どれだけ機械に愛情を注いでも、機械は何も喋らない。喋ったとしても、それは機械のプログラムが喋っているだけだ。実際の感情なんて関係ない。


 そもそも機械に感情はない。だから無意味な議論だ。


 アテナが言う。


「私から見れば人間も魔物も同じだ」

「……?」

「感情が存在しているのか、それが不明であることに変わりはない」

「なるほど。たしかにな」

 

 生物にも感情というものが存在するのかは不明だ。もしかしたらそういったプログラムに沿って動いているだけの存在かもしれない。


「そういう観点から見れば、機械も生物も同じか……」

「そうだ。だから好きなように思えば良い」

「機械が喜んでるのか悲しんでるのか……それを感じるのは自分自身ってことか……」


 それ以外に方法はない。


 不意にララは楽しそうに笑って、


「哲学的な会話だねぇ。そんなのもプログラムされてるの?」

「私の創造主は、哲学的な話が好きだったからな」

「創造主のこと知らないんじゃないの?」

「名前は知らない。だが話をしたことはある」そういえば前は名前しか尋ねなかったな。「しかし創造主は私と話すのが苦手だったようだ。会話は少なかった」


 ララは首を傾げて、


「そうなの? 自分が作った機械なんだから、話が合いそうなもんだけど」

「だから嫌だったのだろう。まるで自分と話しているようで」

「ああ……そんなもんかね……」


 自分が作ったプログラムなのだから、なにを答えるのかは百も承知だったのだろう。仮に想定外の答えが帰ってきたとしても、自分が作り出した答えに過ぎない。


 結局は自問自答。自分に向けて話しているような感じで虚しかったのだろう。


「ボクはキミと話してると楽しいけどね」

「奇特な生物だな」

「そうだね」よく言われることだ。「キミはどう? ボクと話して楽しい?」


 その問いかけに、アテナは答えなかった。

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