第11話 ハンカチ
戦闘はすぐに終わった。
ララは別に手を出すつもりはなかったが、向こうから攻撃されたので反撃した。黙ってやられる趣味はない。
大所帯の大半はアテナにやられた。戦闘の内容は割愛する。アテナが1人一撃で気絶させることを何十回も繰り返しただけだから。
アテナにビビった数人がララに攻撃を仕掛けたが、それもすぐに迎撃された。気がつけば大所帯は大多数が気絶していた。
「ずいぶん手応えがないなぁ……」ララは気絶した大所帯を見下ろしながら、「キミたち、こんなのでボクたちに勝つつもりだったの? まったくもって実力不足だよ」
前に来た大魔道士や冒険者たちのほうが強かっただろう。
この大所帯は明らかに寄せ集めだった。統率も作戦もない。ただの烏合の衆だった。
「まぁ大抵の場合……50人も集めれば勝てるんだろうけどね。今回は相手が悪かったかな」
ララだけでも勝てた相手だろうが、今回はアテナもいた。500年無敗の機械に50人程度で勝とうなどと考えるのは、ララからすれば浅はかな考えだった。
「さてと……」ララは唯一意識を持っている女性に近づいて、「アテナが襲いかからないってことは、すでに戦意はないんだね」
まだ戦うつもりならアテナが攻撃を続けるはずだった。
すでに女性は大粒の涙を流しながら床に尻餅をついていた。腰が抜けているのか、逃げることもしなかった。
「あ、あなたたち……」女性は震えながら、「あなたたちは……悪魔よ……!」
「へぇ……そうなの?」
「そうに決まってるわ!」女性は甲高い声で叫ぶ。「そうよ……きっとそう。そうじゃないと、こんなひどいことできるわけがないわ!」
「こんなひどいこと? それってなに?」
ララが首を傾げると、女性は怒り狂った様子で、
「こんな大人数に大怪我させて……! 彼らは正義と平和のために戦ったのよ? 可哀想だとは思わないの?」
「全然思わないけど……」
「どうして……!」
「キミたちは50人でボクたちを殺しに来たんだろう? じゃあ返り討ちにされたって文句は言えないでしょ。弱肉強食ってやつ」
戦いで決着をつけようとするのなら、負けという決着も受け入れるべきだ。ララはそう思う。そうでなければ戦いの意味がない。
今回は手加減をしたのはアテナ側のほうだ。お礼を言われる道理はあれど、文句を言われる筋合いはない。
しかし女性はララに憎悪の感情を向けて、
「せっかく世界を平和にしたいと思って行動したのに……! その気持ちを踏みにじるの……?」
「世界を平和にしたいなら、勝手にやれば良いよ。ボクは興味ない」乱世だろうが平和だろうが興味がない。「ケガしたくなかったんなら、最初から対話を試みるべきだったね」
「あなたみたいな悪魔に言葉は通じないでしょ?」
言葉が通じないのが悪魔なら、キミたちのほうがよっぽど悪魔だよ。
「そうかもね。でも……暴力で相手を黙らせようとしたんでしょ? それで自分たちが負けたから、今度は泣き落とし? くだらないねぇ……負けはちゃんと認めなよ、キミたちが弱かったから負けた、それだけだろ?」
「正義は負けないわ」
「そっか……」ララは女性の前にしゃがみこんで、「じゃあ頑張りな。負けないように努力するんだ。そうして力を手に入れたなら……もう一度ここに来なよ」
女性は泣きながら歯ぎしりをした。言い返したいけれど、負けという事実は覆らない。そのことが悔しくてたまらないのだろう。
「……」女性はフラフラと立ち上がって、「これ……」
「……?」ララは女性からハンカチを一枚受け取った。「ハンカチ? なんでボクに……?」
「あなたに預けておく。あなたを倒して……必ず取り返すから。それまで持ってなさい」
「良いの? 一生取り返せないよ?」
「正義は勝つわ」女性は後ろに下がって、「でも今は勝てない。今日のところは負けを認める。でもいつか必ず……!」
女性の強い目線を受けて、ララは満足そうに笑った。
「いいねぇ……キミみたいな妄信的なバカは嫌いじゃないよ。そうやって人の言うことなんてまったく聞かない大マヌケが、いつの日か目的を成し遂げるんだろうね」
他人に言われて曲げるくらいの正義なら、最初から掲げなければ良い。
間違っていても良い。否定されても良い。傷ついても良い。自分の信念と正義を貫く。そんな人間がララは好きだった。
「これは預かっとくよ」ララはハンカチをポケットに仕舞って、「また会おうね、お姉さん」
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