第10話 どんな理屈?
大所帯は何やら盛り上がっているようで、大声でまくし立てた。
「弱い女の子を人質に取るとは……! なんて卑劣なやつだ!」「そうだそうだ!」「正々堂々戦え!」「あの子……結構かわいいな……」「やっぱり所詮機械だな! 人の心がない」
人の心がないのは当然だろう。だって機械なのだから。
「かわいいって言ってくれた人、ありがとう」ララは平然と返す。「とりあえずボクは人質じゃないよ。ボクは自分の意志でここにいるから、だから――」
「そんなわけないわ!」ララの話を遮って、「こんな場所に人間が住みたがるわけがないでしょう?」
「そう? 結構気に入ってるけど……?」
ジメジメした暗い場所は好物だ。とはいえ日光を浴びないと健康には悪いかなー、とも思っている今日このごろだった。
「早くこっちに来なさい」女性が優しく微笑んで、「もうこんな場所にいなくて良いのよ。私たちの村に……」
「……それはできないよ」
「どうして……?」
「……それは――」
今度は奥のほうにいた男性がララの言葉を無視して言った。
「お前……そのツノはなんだ?」男の言葉を聞いて、誰かが悲鳴を上げた。「お前、魔物だな……?」
「魔物……!」さっきまで優しく微笑んでいた女性が後ずさって、「そうか……だからこんな場所にいたのね。人間が住む場所じゃあないものね」
「勝手に話を進めないでくれる?」ララは少し疲れた様子で、「ボクは――」
ララの言葉は、やっぱり途中で遮られた。どうやら大所帯は相手の意見を聞くつもりはないらしい。
「やっぱり魔物は卑劣だな……!」「人間に化けて不意打ち? 卑怯すぎるぞ!」「お前も勇者様の邪魔をするつもりだろ!」
「勇者様ってのは誰? どんな人なの?」
「魔王を倒し、この世を平和にしてくれる人だ」大雑把な説明だった。「お前たちみたいな卑劣な魔物を全滅させてくれるんだよ。そのためには、ここにあるお宝が必要なんだ」
「ここのお宝かぁ……中身がなにか、知ってるの?」
ララもある程度調べたつもりだったが、中身のお宝については不明だった。
「魔王を倒すのに必要なアイテムがあるらしい。勇者様がそう言っていた」
「魔王を倒すのに必要なアイテム……」伝説の武器でもあるのだろうか。「じゃあアテナは魔王に作られたのかな……? それでずっと守ってる?」
自分で言って、心の中で否定する。
アテナが作られたのは500年も前のことだ。当時の魔王はとっくに打倒されている。これまでも魔王という存在は何度も生まれ、何度も討たれてきた。それは勇者も同じことだ。
ならばアテナほどの戦力は自分の近くにおいておくだろう。わざわざこんな辺境の地下洞窟に閉じ込める必要はない。
ララが冷静に思考している間に、大所帯はさらにヒートアップしていた。
「ここのお宝を守ってるってことは……お前ら2人とも魔王の手先だろう。だったら殺しても問題ないはずだ」
「それ、どんな理屈?」
「魔物なんて、生きていても人間に害を与えるだけだろう」
「ふーん」言いたいことはあったが、伝えても意味がなさそうなので言わなかった。「んで、どうすんの?」
「わかりきったことを聞くな。お前ら二匹を殺して、勇者様のために宝を持ち帰るんだ」
大所帯は皆、同じ意志を持っているようだった。ララとアテナに敵意を持った目線を向けていた。
「勇者様ってのはどこにいるの? なんで直接ここに来ないの?」
「勇者様は忙しいんだよ。今もどこかで平和のために戦っているだろう。協力するために、俺達が事前に宝を手に入れておくんだ」
「そんなことできると思う? たかだか50人で?」
「53人だ」細かい数字は知ったことではない。「村の力自慢たちを集めた。この人数がいれば余裕を持って勝てるだろうという計算だ」
「どんな計算だよ……」
ララは呆れた様子で肩をすくめて、そのまま地面に座り込んだ。
そのまま続ける。
「じゃあボクは関係ないね。ボクはお宝を守るつもりなんて毛頭ないから。取りたいなら勝手にどうぞ」
「油断させて後ろから襲うつもりだろう? わかっているぞ」
「もっと人を信じなよー」ララはケラケラ笑って、「50対2より、50対1のほうが勝ち目があるって話さ。ま、どっちでも変わらんだろうけど」
「どちらにせよ、俺達が勝つからな……!」男は仲間たちに向けて、「行くぞ! 正義の第一歩は俺達が刻むんだ!」
大所帯が一斉に叫んで、アテナとララに向けて飛びかかっていった。地面が震えるほどの怒声が鳴り響いて、ララは顔をしかめた。
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