第8話 油断すんなってこと
ララたちの前に現れたのは、魔族の群れだった。およそ人間ではないような肉体を持った魔物たちだった。そのうち1匹はバサバサと空を飛んでいた。
槍を持ったイノシシみたいな魔物がヘラヘラ笑いながら、
「よう、落ちこぼれ魔族のララ。あんなにかわいがってやったのに、どうしていなくなったんだよ」
「あーん?」ララはジト目を向けて、「……誰? ボクの知り合い?」
とぼけているわけではなく、本気で記憶にない魔物たちだった。
「おいおい……」イノシシみたいな魔物がララに近づいて、「また変な武器作ってんのか? 昔、壊してやっただろ?」
「……ああ、なるほど。ボクの研究室を壊したのはキミたちか」
「研究室? 遊び場の間違いだろ? あんなおもちゃばかり作って……ムダなゴミだから俺達が片付けてやったんだよ。感謝しな」
ララは面倒くさそうにため息をついた。この手の会話は苦手だ。
しかし魔物たちはさらにララに近づいて、
「3年振りくらいか?」
「覚えてないよ、そんなの」
「どっかで野垂れ死んでるかと思ってたんだが……生きてたんだな。んで……まだ無謀なことやってんのか?」
「無謀なこと? なにそれ」
「自分の科学力が世界最強だと証明する、ってやつだよ」イノシシの魔物がそう言うと、取り巻きたちが大声で笑った。「やめとけよ。そんなの無理に決まってるだろ? お前みたいな落ちこぼれには無理だって」
ララは肩をすくめて、
「ご忠告どーも。でも、もうやるって決めちゃったんだからさ。あとはこの身体が朽ち果てようが進むだけさ」
「まだ現実が見えてないみたいだなぁ……いい加減卒業しろよ。良い笑いもんだぜ」
「笑いたければ笑いなよ。別にキミたちの考えを否定したりもしないし……さっさと帰ってくれない? ボクはあんたらと話してるほどヒマじゃないの」
さっさとパーツを集めて武器を作ってアテナに挑むのだ。そのためにはこんなところでボーっとしていられない。
しかし魔物たちはララを取り囲んで、見下ろす。
「せっかくの再開だ。久しぶりに遊んでやるよ」
「おやおや……なにをして遊んでくれるの?」
「3年前と同じだよ。殴って蹴って袋叩き……お前、ムダに耐久力あるからな。サンドバッグにちょうどいいんだよ」
「ボクと遊んでる時間があるの? お宝、探しに来たんじゃないの?」
「宝はあとで取れば良いだろ? まずはお前をいたぶって楽しむよ」
魔物たちはどうやら、まずはララを標的にしたようだ。
ララは仕方がない、とばかりに立ち上がって、
「じゃあ忠告が2つある」
「なんだ?」
「ボクを3年前までのボクと思わないことだ」
「は?」
「油断すんなってこと。最初から全力で来れば良い」
その自信に魔物たちは少したじろいだ様子を見せた。
だがすぐにニヤついた表情を取り戻して、
「で、もう1つの忠告ってのは?」
「ケンカを売るなら、あっちの機械さんのほうが良いよ」アテナを指して、「あっちに挑めば、適切に手加減してくれる。もちろんボクもキミたち相手に全力を出すつもりはないけど……命の保証はできないよ。体がバラバラになっても文句を言わないことだ」
「……なに言ってんだお前? 状況、わかってんのか?」魔物たちは負けるなんてことは微塵も思ってない様子だった。「こっちは5人もいるんだぞ? お前1人で勝てるつもりなのか?」
「逆にさぁ……5人で勝てると思う? ボクを倒したい……あるいはアテナをぶっ壊したいのなら、1000人くらいは連れてきなよ。それでも足りないだろうけど」
それから、ララは挑発的に手招きをして宣言した。
「やるならおいでよ。死にたくないなら、今のうちに逃げな」
「口の減らねぇガキだ……!」
叫んで、イノシシのような魔物が持っていた槍をララに向けて振りかざした。
高い金属音が鳴った。
そしてララが言う。
「550」イノシシの攻撃を盾で受け止めて、「悪くない攻撃だね。9999のあとだと物足りないけど」
ララの盾には相手の攻撃の威力を測る装置がついている。少し前に9999という数値を見たあとだと、500とかいう数値は小さいものに見えた。
ララは平然とした様子で言う。
「550もあれば、十分に力自慢の攻撃だよねぇ……今のボクには通用しないけど」
「な……!」攻撃を受け止められたイノシシ型の魔物が驚愕の表情を浮かべて、「なんだその盾……!」
「これがボクの科学力。これがボクの戦い方」魔物を盾で押し返して、「たしかに身体能力じゃボクは落ちこぼれに近い。でもねぇ……強さってのは1つじゃないんだよ」
言って、ララはイノシシ型の魔物に手の平サイズのロケットを向けた。
そしてボタンを押して、
「発射」
言葉と同時に小さなロケットがイノシシ型の魔物に向けて発射された。
爆発音。ロケットはイノシシ型の魔物に直撃し、ド派手な音を響かせた。
煙が巻き起こって、そしてイノシシ型の魔物が地面に倒れ込んだ。白目をむいているところを見ると、完全に気絶したようだった。
「ほかの奴らも、かかってくる?」
ララの挑発に答える魔物はいなかった。
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