第7話 もしもボクが
ララは天井に向けて手を伸ばして、
「やりたいこと、いっぱいあるのにさ。まだ成し遂げてないこともあるし、存在すら知らない未知の物体を見つけるかもしれない。なのに……ボクはいつ死んじゃうんだ」
生物として生まれた以上、避けられない事柄だった。
ララは独り言のように言う。
「不老不死になりたい、って思ったこともある。そうすればやりたいこと全部できるのにって思う。いつの日か、キミをぶっ壊すことも可能になるかもしれない」
500年生きればできるかもしれない。
「でも……死ぬよりもっと怖いことがある」
「それはなんだ?」
「信念を失うことさ。向上心を失うことと言い換えても良い」それが何より怖い。「目的も目標も信念も失って生き続ける……それが怖い。不老不死なんかになっちゃったら、いつかボクは信念を忘れる気がする」
世界最強の科学力を証明する。その信念を忘れて生きている気がする。
「でも死ぬのも怖い」それは素直な気持ちだった。「もしも最強の科学力を証明できないまま死ぬとなったら……ボクは生きる方法を探すかもしれない。いつか手が届くかもしれないって残酷な夢を見続けるかもしれない」
「そうなったら、どうする?」
「その時は……どうしようかな。信念を失ってるって自分で気がつけたら良いんだけどね。そうしたら……ボク自身が終わらせてやるから」
信念を見失っていき続けるよりは、今すぐに死んだほうが良い。そうララは考えていた。
少し重たい表情をしていたララは、不意にいつもの笑顔に戻って、
「もしもボクが信念を失ってると判断したら、キミがボクを殺してくれよ」アテナが何も答えないので、「約束だよ?」
冗談を言ってみた。機械であるアテナに約束なんてしても意味がないことはわかっている。
ともあれ、
「信念を失ったら死んでも良い……機械のキミには理解できない感情かな?」
「人の感情は人にも理解できない」
「そりゃそうだ」自分の心など、わかられてたまるか。そうララは思う。「まぁもしもの話さ。ボクはすぐにキミをぶっ壊して最強の証明をする。永遠の命なんて、今のところは手にする予定はねーよ」
「それが良いだろう。永遠に生きるなど、楽しいものではない」
「キミが言うと重いねぇ……」
500年生きた機械が言うと重みがある。機械が生きてると考えるのは不思議かもしれないが、ララにとっては重たい言葉だった。
ララは武器制作に戻って、
「さて……ちょっとパーツが足りないか……? どっかに調達しに行くか……」ララはアテナを見て、「パーツ探し、手伝ってくれない?」
「断る」
「だろうね」
ガーディアンがこの場を離れるわけにはいかないのだろう。
ララは袋に武器と防具を詰め込んで、
「じゃあパーツ調達に行ってくる。ボクが帰ってくるまでに壊されちゃダメよ」
「ああ」
「ずいぶんと会話してくれるようになったねぇ……ボクのこと好き?」
「ナンパした覚えはない」
「あら残念」ララが袋を背負って歩き始めると、「おや……またお客さんみたいだよ?」
洞窟の入り口辺りから足音が聞こえ始めた。
ララは耳を澄ませて、
「……羽音も聞こえるな……どうやら人間じゃないお客様が来ているようで」
「誰であろうと関係はない」
「そうだね」ララは背負った袋を地面におろして、「ちょっと見学していこうかな。パーツ集めはいつでもできるし……まぁどうせ一撃だろうけどね」
「まだ相手の力はわからない」
「ある程度強いお相手なら嬉しいね」
相手が強ければ強いほどアテナも本気を出す。そうすればデータ収集が捗るだろう。
そう思ってララは壁の付近に腰を下ろした。見学が終わればどこにパーツの材料を探しに行こうかと考えていると、
「お……?」男の声が聞こえてきた。「お宝があるっていうから来てみれば……落ちこぼれ女もいるじゃねーか」
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